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地獄耳
萱沼君は都内のアパートで一人暮らしをしている。

ドンドンドン
ある夜、萱沼君が部屋でテレビを見ていると玄関のドアが叩かれた。
出てみるとそこには、同じアパートに住む五十過ぎの女性が立っていた。
その女性は、このアパートに二十年以上住んでいる。
なにかと他人のやることに目をつけては口うるさく注意してくる、所謂「お局様」的な存在だった。
萱沼君は前日にデリバリーのピザを頼み、その空き箱を燃えるゴミに出していた。
つい先日から都内のゴミ分別が細かくなり、今朝のゴミ収集ではそれを持っていってくれなかったらしい。
その箱には運悪く、萱沼君の名前と住所を書いた伝票が貼り付けたままになっていた。
「あなた最近ピザ頼まなかった?」
そう言ってピザの空き箱を渡された。
「その言い方がまた嫌味ったらしくてムカつくんですよ」
「すいません」と謝り箱を受け取ったが、女性はネチネチと萱沼君のゴミの話を続ける。
「同じことを何度も。聞いててうんざりしました。しかも・・・・・・」
その女性は一ヶ月程前から入院していたはずだった。
大家から話を聞いたのだが、癌らしい。
抗癌剤を使っての治療を受けていたのだろう。頭髪は抜け落ちているらしく、頭には深々と厚手のニット帽を被っていた。
顔も以前見た時より酷くやつれ、落ち窪んだ目だけがギラギラと輝いていた。
「一目見たときは幽霊かと思いましたよ」
四度も五度も萱沼君のゴミに対して同じ注意を繰り返した後、女性は帰っていった。
あれだけ憎まれ口をたたければ当分死にはしないと、萱沼君はひとり毒づいた。

数日後、萱沼君は連休というのもあってテレビゲームに熱中して徹夜してしまった。
明日も休み。寝る前に一風呂と思い、明け方湯船に浸かった。
萱沼君の部屋の風呂は玄関から入ってすぐのところにあり、小窓から外が見える。
季節は晩秋、外はまだ暗かった。
湯船に浸かっていると、外のゴミ捨て場の方から地面を掃くような音が聞こえてきた。
こんな時間にそんなことをしているのは、あの女性しかいないと思った。
萱沼君は先日の、ピザの空き箱の件を思い出した。
無性に怒りが湧き、小さな声で独り言をぼそりと言った。
「ったくウザってぇな。死に損ないのゴミ漁りババアが」
その瞬間に外を掃く音はピタリと止み、外側に面している風呂場の壁から顔が覗いた。
あの女性だった。
壁をすり抜けて斜めに生えた顔は、憎悪に溢れた視線で萱沼君をじっと見詰めた。
「驚いたのと恐ろしいので言葉がまったく出なくて」
萱沼君は言葉を発せず、自分を睨み続けている女性に、ひたすら頷いてみせた。
「ごめんなさい。ごめんなさい。わかりました。わかりました。そう頭の中で唱えながら頷き続けることしかできませんでした」
しばらくそれを続けると、女性の顔は表情を変えぬまま壁に吸い込まれ消えた。
また外で何かを掃くような音が聞こえてきた。
萱沼君は慌てて風呂から上がり、布団に包まって震えていた。

菅沼君は後日、大家と話をしたときに、なにげなくあの女性のことを聞いてみた。
「癌で死んだのだと思っていたのですが・・・・・・」
今は退院し、まだ健康と言える状態ではないが、普通に暮らしているという。
ピザの空き箱を渡されたときは、一時退院していたらしい。
風呂場での出来事のときは再び入院している最中だったことがわかった。

さらに後日、あの女性とアパートを出た所ですれ違った。
萱沼君は心臓が止まりそうになったが、自然を装い軽く会釈をした。
「むこうもわずかに会釈をしたようにも見えたんですが」
今までに見せたことのないような表情で幽かにニヤリと笑った。
「気味悪いし何がなんだかわけわかんないですよ。わかるのはあの人がいろんな意味で怖いってだけ」
菅沼君はそれ以来、ゴミには自分の証拠を残さないように気をつけている。




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大変興味深い。どこにもこの女性のような人はいるものだが、ここまで来ると執念としか言いようがない。ネタは申し分ないが、文章が些かもたついていてすんなり読み進められなかった。もう少し整理しても良かったのでは。文章 0 ネタ +1 構成 0 恐怖 0超 ... 続きを読む

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■講評

死線を越えて、幽体離脱でも身につけたのでしょうか。
怖いよ。ダブルで怖いよ><。
おばちゃん、最強じゃん?
大場さんと、どっちが強いかな…(^^;)

文章1 ネタ1 怖さ1

名前: ほおづき ¦ 09:05, Wednesday, Feb 04, 2009 ×


文章 1
怪異 1
怖さ 1
衝撃 0

なかなか重層的でイイ。
一読して、病院で死亡にもかかわらずピザの箱を持って訪れ…かと思っていたらそれは生身の人間で、風呂場の壁の時にも離脱した幽体(?)で生存中、と、巧みにフェイントかけられた気分になる。
ただ「お局様」という言葉は、住まいでのヌシ的存在にはあんまり使わないのではないかなあ。

名前: くりちゃん ¦ 12:26, Wednesday, Feb 04, 2009 ×


 それだけ怖い思いをしても結局、証拠を残さず捨てるほうに脳味噌を使う体験者のほうがなんだか怖い。

名前: くすだまん ¦ 12:28, Wednesday, Feb 04, 2009 ×


おばちゃんの執念を感じました。
こんなに怖い思いをしたならば ちゃんと分別してゴミを出したほうがいいかとも(笑)

名前: SPダイスケ ¦ 14:53, Wednesday, Feb 04, 2009 ×


生きているのかな、死んでるのかなと固唾を飲みながら読みました。生きていたとは意外でしたが、すごいオバサマですね。昨年から変更になった都内のゴミの分別は難しいですよね。毎回悩む。

名前: ひ ¦ 16:30, Wednesday, Feb 04, 2009 ×


幽霊じゃなくて生霊ですか?
そちらの方が怖いかも。
そんなとこはゴミの出し方云々ではなく、早く引っ越した方がいいのでは。

文章のあちこちにもたつきがあるのが気になりました。


名前: ひぐらし ¦ 17:49, Wednesday, Feb 04, 2009 ×


都会のアパートでの一人暮らし、ゴミの分別、偏執的な
隣人など、現代怪談の王道といった作品。

名前: こたつ ¦ 19:41, Wednesday, Feb 04, 2009 ×


う〜ん。
確かに怖い。
入院中までゴミ置き場の掃除に現れるとは(幽体離脱?)
みあげたものです。
しかも壁を通り抜ける技まで会得して。
これはもう執念としかいいようがありませんね。
死んだ人より生きている人の念の方が怖いと聞きます。
菅沼君、突っ込まれないよう気をつけて。

名前: 桜子 ¦ 19:55, Wednesday, Feb 04, 2009 ×


生霊…?
しかも、本人が解ってそうなのが怖いですね…。
なんだかじんわりと怖い話でした。

ちょっと取材時のセリフと、回想の中のセリフがごっちゃになって、呼んでいてところどころに躓くところがありました。
ここだけ整理してもらえればなぁと思います。

文章:0 怪異:2


名前: PM ¦ 20:30, Wednesday, Feb 04, 2009 ×


亡くなっていても充分怖い話なのに生きていたとは・・・
おばちゃん最強ですね。

名前: ゑな ¦ 23:43, Wednesday, Feb 04, 2009 ×


ゴミの分別はちゃんとしないと。
この地獄耳のおばさんはよいことを
している。
そんな感じで、地域をずっと見守って欲しいと
ピントはずれな事を考えてしまった。

名前: カルラ379 ¦ 02:58, Thursday, Feb 05, 2009 ×


てっきっり亡くなっていると思いましたよ。
生霊になっていることを自覚しているとしたらもう最強の存在ですよ。
そのおばちゃん。

名前: 黒蜜椿 ¦ 18:49, Thursday, Feb 05, 2009 ×


文章+1 怪異+1 恐怖+1
これは怖い。
壁から顔、もそうだが、生身でも生霊でもやっかいで、なおかつこの女性自身そのことを了解しているような雰囲気がある。
これで死んだらさらにやっかいな存在になりそうである。

名前: スロトレ兄さん ¦ 01:10, Friday, Feb 06, 2009 ×


怖ろしいおばさんですねぇ…長生きしてもらっても大変だし、お亡くなりになるとそれはそれで怖いし。どうしたらいいのだw アパート引越すという手がありますが。
文章・1 構成・0 ネタ・1 恐怖・1

名前: 暗沌子 ¦ 11:11, Friday, Feb 06, 2009 ×


怪奇2 文章1
その女性リアルでも十分怖いですね。そんな人が住人にいたら、神経参ってしましそうです(笑) 入院中もアパートまでゴミチェックしに生霊飛ばしたのか、幽体離脱で来るというのは相当の執念。 あきらかに狂っていますね。死後も来そうで怖いです。

名前: じゅりんだ ¦ 17:28, Friday, Feb 06, 2009 ×


ダメですよ、名前の付いた部分は剥いでシュレッダーで…じゃなくて、ゴミはちゃんと分別しないと。その女性は亡くなってもなお叱りにきますよ。
闘病生活をしていてもゴミ捨て場に執着…怖いですが、他に気になることはないのかな、と思うとちょっと悲しい人にも思えます。 +2

悲しい人だなんて同情するような感想を書きつつ、サイコホラーは好物なので、「きたきた〜、うひゃあ〜」としっかり楽しませていただきました。 +2

名前: 眠 ¦ 02:33, Monday, Feb 09, 2009 ×


癌になっても生霊になっても
ゴミ出しを気にかけるなんて…
執念ですね。おっかないおばさんです。
世の中いろんな人がいるもんですね。
でもお亡くなりになっていたら、ずっと訪問が続いてたかも。

名前: 六郎 ¦ 18:22, Thursday, Feb 12, 2009 ×


おばさんの執念が怖いです。
よく聞く話では、生霊は本人の意思と関係なく飛んでいくようですが、このおばさんには自覚があるようにもとれますね。
萱沼君にはできるだけ関わりを持たないように、気を付けて生活して欲しいです。

名前: へみ ¦ 22:20, Thursday, Feb 12, 2009 ×


ゴミに関しては口うるさいようですが、やってることはまっとうなお局様なので、何だか体験者の主観で過剰に不気味な人になっているような気がしました。
もちろん壁脱けする生き霊(?)の場面はなかなか本当に不気味ですが。
お局様がまるで生死を超越した域に達したような、奇妙な余韻のある終わり方でなかなか面白かったです。

名前: キザラ ¦ 00:49, Thursday, Feb 19, 2009 ×


文章・・・1
希少度・・・2

いやぁな体験ですねぇ。
その女性に対して萱沼君が抱いている感情が見事に出ており、読んでいるこちらまでいやぁな気分になってきます。

一つ残念なのが台詞です。
それが体験した当時のものなのか、それとも取材時に彼が発したものなのか解りにくい箇所があり、混乱してしまいました。
そこさえクリア出来ていれば文章にもう1点入れても良かったのですが。

それでもとても楽しませてもらいました。

名前: 鹿太郎 ¦ 03:34, Wednesday, Feb 25, 2009 ×


−4 汚らしい言葉が出てきて自分なりにはあまり好きではない

名前: ジャック ¦ 13:07, Saturday, Feb 28, 2009 ×


あぁ、その手があったか!
人に面と向かって注意するのは怖いので、生霊になって注意する事ができれば私も使うかもしれません。
私もおばさんですから・・・。

文章も読みやすく判りやすかったです。
おばさんが死んでなかったのも良かった。

名前: わんぴー ¦ 11:04, Monday, Mar 02, 2009 ×


生身の人間の怖さと、“生霊”の怖さが同時に味わえる豪華な一編でした。アパートやマンションに住んでいると、正直、お化けより“生きてる人”の方が数段怖いと思えることが数多くあるのですが、“生霊”をネタに使うことで、そうした“恐怖慣れ”した現代人も怖がらせる怪異譚になっていると思います。

名前: 魔音 ¦ 02:34, Thursday, Mar 12, 2009 ×


一通り読んでみて、発生した怪異よりもこのおばさんの方が怖い、と思ってしまいました。
そのおばさんが、丁度彼が毒づいたときに亡くなってしまっていた、というならば、「普通」の怪談でしたが、退院して普通に暮らしている、という点が、やはり実話らしく「一筋縄ではいかない部分」を感じさせます。
それに、まだ彼がそのアパートに住み続けている、というのも驚きました。私は臆病なので、そんな事があったらすぐにアパートを出て行ってしまうと思います。

雰囲気 0
怪異  1
人間というものの恐ろしさ  2

名前: isana ¦ 19:33, Wednesday, Apr 08, 2009 ×


ひええ、生霊になってまでゴミに執着するなんて恐ろしい。
あまり関係無いのですが、以前癌を患っていた方がおりまして、その方は死期が近づくにつれて周囲の人に対してやたらねちねちと絡んでいたことを思い出しました。
やはり体が蝕まれると、心も病んでいくのでしょうか。
脱線してしまいました、すみません。

名前: 緋咲 ¦ 17:30, Friday, Apr 10, 2009 ×


生きていたとは意外でした。壁をすり抜けるより、「幽かにニヤリと笑った。」と言う方が怖い。

名前: 悪夢狂乱丸 ¦ 17:36, Saturday, Apr 11, 2009 ×


同じアパートに住む50過ぎのお局様は、癌になり、ゴミの時、ピザの空き箱を注意され、頭髪は抜け、やつれて目は落ちくぼんでギラギラしている有様は、目に浮かび、特に気持ちの悪い話であるから。

名前: ジャック ¦ 22:42, Saturday, Apr 11, 2009 ×


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