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川上さんが小学二年生の頃通っていた小学校には、ふたつの校舎があった。 一棟は真新しい新校舎、もう一棟は古びた木造の旧校舎。 旧校舎は老朽化が進んでおり、川上さんが入学した時から閉鎖されていた。 その佇まいと閉鎖という状況も相まって、旧校舎には「出る」と噂する子供達もいた。 噂の内容はどこにでもある学校の七不思議と同じパターンだった。 音楽室の肖像画が動く。 階段の段数が増減する。 窓辺に血まみれの少女が立つ。 地下に魔方陣が描かれている。 ただ、その噂はあくまで噂でしかなく、見たと断言する子はいなかった。
「その年、旧校舎の取り壊しを夏休みに行うことが決まって」 川上さんは級友二名とともに、旧校舎に忍び込む計画を立てた。 夏休みに入ると解体工事が始まってしまうし、かといって夜中に出歩くことを許される年齢でもない。 決行するとなると、放課後しかない。 放課後まで残っていても不自然ではない曜日は、部活動のある金曜日だけだった。 帰宅部の三人は、決行の日をその週の金曜日に決めた。
金曜日の放課後、部活動が始まるのを待って、川上さん達は旧校舎の裏口へ回り込んだ。 裏口前には『進入禁止』の立て看板が設置されていたが、扉には鍵がかかっていなかった。 ゆっくりと中に入ると、ふわっと埃が舞い上がる。 廊下の校庭側はガラス窓になっているため、三人は身を低くして縦一列に並び、ゆっくり歩く。 一歩踏み出す度に、くすんだ廊下がぎしっ、と音を立てる。 一番近い教室の扉の前まで来ると、扉をゆっくりと開いて中に滑り込んだ。 年代物の机と椅子、錆びた教卓と薄汚れた黒板。その上にある壁掛け時計は、時を刻むことをやめていた。 三十卓ほど並ぶ机の中には、様々な落書きが掘られている物もあり、三人とも当初の目的を忘れて『落書き探し』に夢中になっていた。
旧校舎は三階建てで一フロアには五つの教室があった。 そのすべての教室で『落書き探し』とトイレの探索を行ったため、三階に到着した頃には、夕日が廊下をセピア色に染めていた。 三階は音楽室・美術室などの特殊教室が三部屋あり、その三部屋とも、中はもぬけの殻だった。 「夜中に鳴るピアノも、目が動く肖像画も撤去済みで」 がっかりした三人は、階段を下りて帰ろうとした。 その時。
とん。
とん。
ととん。
廊下で音がした。 三人はとって返し、廊下の方を見た。 セピア色に照らし出された廊下には、誰もいない。何もない。
とん。
とん。
ととん。
何もない廊下で、再び、音がした。
とん。
とん。
ととん。
何処かで聞き覚えのあるリズム。 それがなんだったか、川上さんは思い出そうとしたが、なかなか答えが出てこない。
とん。
とん。
ととん。
音は徐々に近づいてくる。 音に合わせて、廊下に積もった埃が舞い上がる。
「けん、けん、ぱ?」 友達の一人が口にした時。
とん。
とん。
ととん。
まさに「けんけんぱ」のリズムに合わせた足音が、彼女たちのすぐ手前で止まった。 目の前にいる。 静寂が、三人の次の動きを待っているような気がした。 「きゃああっ!!」 三人は一目散に走り出し、階段を駆け下りると裏口から飛び出し、それぞれの家へ逃げ帰った。 「その夜は、その足音が家まで来るんじゃないかと思い、怖くて眠れませんでした」 他の二人も同じだったらしく、翌日登校した三人は、全員の無事を確認し合い、ほっとしたのだという。
それから間もなく一学期が終わり夏休みになると、旧校舎の解体作業が始まった。 二学期には旧校舎の姿はなく、その跡には真新しい体育館が完成していた。 「体育館ではボールが勝手に跳ねるとか、体育用具室に閉じ込められるとか、そういう噂が出始めました」 しかし、それらの噂はやはり噂止まりで、体験者は出なかった。 「遊び場を失ったあの子はどうしたんでしょう。体育館で遊んでるんでしょうか。それとも……。 二十年以上経った今では、あの時のことは怖い思い出ではなく、ちょっと切なく感じるんです」 話し終えると、川上さんは寂しげに微笑んだ。
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受信: 22:00, Friday, Feb 06, 2009
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■講評
学校の怪談か〜、懐かしいなぁ。 懐かしいけど、怖くないなぁ。 でも、何だかノスタルジィを感じたので。
文章1 怖さ0 |
名前: ほおづき ¦ 07:17, Friday, Feb 06, 2009 ×
怪異は音だけでも体験者は複数、これだけ詳しく記載があるならOKです。 でも・・・。小学2年生の記憶がそれほど鮮明かなぁ。まあ細かい事はともかく、4点を差し上げます。おめでとう御座います。 今年、正月に姪っ子とDVDで観た「学校の怪談」を思い出しました。 |
名前: くすだまん ¦ 09:56, Friday, Feb 06, 2009 ×
ええと…結局小学校二年生の時の話なの?以前通っていた小学校に、大きくなってから忍び込んだんでしょうね。 帰宅部とか書いてあるし。そこら辺が読み取り難かったかな。つまんないことですが、引っかかってしまった。 それによっては、体験者が感じた恐怖の度合いも変化すると思うので。 文章・−1 構成・0 ネタ・0 恐怖・1 |
名前: 暗沌子 ¦ 13:55, Friday, Feb 06, 2009 ×
赤っぽい廊下とは血かそれとも火事かと身構えて読んでいましたが、一人遊びをする寂しい子供の霊でしたか。「学校の怪談」のプチ怪異という感じですね。「とん とん ととん」の音が可愛くも哀れです。
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名前: ひ ¦ 15:34, Friday, Feb 06, 2009 ×
『学校の怪談』に収録したいお話ですね。 誰もが持っている、あの懐かしいセピア色の思い出。 木造校舎が消えてしまった今は貴重かと。
目新しい話ではないけれど、丁寧に書かれていて好感が持てます。 こういうお話はこれからも聞いてみたいものです。
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名前: 桜子 ¦ 16:40, Friday, Feb 06, 2009 ×
出た。学校の怪談! 文章が長いわりには怪異は小さい…ですが。体験者は怖かっただろうな。 |
名前: ひぐらし ¦ 18:13, Friday, Feb 06, 2009 ×
んー、話としてはよくあるもので、ちょっと弱めではありましたが、読みやすく、なんだか切ない、綺麗な雰囲気の話でした。
旧校舎を取り壊したら白骨死体が…っていう展開を思い出したのですが、あれ、何の話だったかな…? あ、ごめんなさい。これは関係ないですね。
文章:1 怪異:0
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名前: PM ¦ 19:10, Friday, Feb 06, 2009 ×
文章 0 怪異 1 怖さ 0 衝撃 0
途中の「けんけんぱっ」の擬態語がくどい。 雰囲気としては映画「学校の怪談」を思わせるノスタルジックに仕上がっていて、懐かしさを覚える。 |
名前: くりちゃん ¦ 22:52, Friday, Feb 06, 2009 ×
「とん、とん、ととん」のくだりがとても好きです。 子供の頃に感じた不思議や怖さを思い出しました。 ただ、なぜタイトルだけ廊下を「緋色」にしたのかが腑に落ちませんでした。
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名前: ゑな ¦ 22:58, Friday, Feb 06, 2009 ×
怪奇0 文章1 状況描写が凄くよく表現されていますね。 怪異はほのかなものですが、子供の頃の恐怖感度は凄いものですね。 懐かしい怪談です。 |
名前: じゅりんだ ¦ 23:16, Friday, Feb 06, 2009 ×
雰囲気は出ていましたが、怪異自体が弱めでした。 ノスタルジックな雰囲気だけで終わってしまったような。 |
名前: SPダイスケ ¦ 23:34, Friday, Feb 06, 2009 ×
文章+1 怪異0 恐怖0 怪異が弱い。 しかし体験者の気持ちをきちんと伝えきっていると思う。 そのあたり、書き手の実力を感じる。
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名前: スロトレ兄さん ¦ 13:56, Saturday, Feb 07, 2009 ×
どうしても音だけでは怪異としては弱い。 そのためどうしても「けんけんぱ」がくどく感じられてしまう。
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名前: 黒蜜椿 ¦ 16:56, Sunday, Feb 08, 2009 ×
風景も、音が近付いてきた時の女の子達の緊張感も、目の前で見ているように伝わってきました。 が、読み終わってみて振り返ると、怪異は足音がしただけだったなあ…と;
最後に少女時代の切ない思い出として締め括っていて、「それだけでも怖かっただろうなあ」という思いも打ち消されてしまいました。怪談読んだぞー!という気分ではなかったです。 おかしな言い方ですが、綺麗な文章のせいで±0になってしまったというか…。
ものすんごい怖いネタだったら最強かもしれません。 |
名前: 眠 ¦ 03:09, Thursday, Feb 12, 2009 ×
怪談というより、子供時代に体験した不思議な 出来事の回想録、と受け取って読んだ方が しっくり来ました。 怖さは低いですが、廊下が夕日に染まった 旧校舎の描写がとてもいいです。 |
名前: こたつ ¦ 15:04, Saturday, Feb 14, 2009 ×
展開としてはありがちですが、旧校舎に忍び込むというのはやはりわくわくしてしまいますね。 怪異は音だけで少し弱かったですが、けんけんぱの描写も含めて文章は読みやすかったと思うので、トータルで+1とうことで。 |
名前: へみ ¦ 17:09, Saturday, Feb 14, 2009 ×
なかなか楽しめました。 木造廊下の板目からリズムに合わせて埃の舞い上がる感じ。そしてそれが目前まで迫るところがいいです。 ただ、夕日でセピア色に校舎内部が染まるところは美しいのですが、題名もそれなら「セピア色の廊下」でよかったのではないかと思います。 緋色はどぎついイメージがあるので。
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名前: キザラ ¦ 22:56, Saturday, Feb 21, 2009 ×
名前: ジャック ¦ 02:15, Sunday, Mar 01, 2009 ×
足音が迫ってくる感じはドキドキして怖かったです。 霊も一緒に遊びたかったんでしょうか。 家まで着いてこなくて良かったですね。 川上さんの優しさに心打たれました。 |
名前: わんぴー ¦ 21:03, Wednesday, Mar 04, 2009 ×
文章・・・2 希少度・・・0
文章がとてもよく書けており、容易にその情景を想像することができました。 探検って面白いですよね。 怪異が小粒なのは残念ですが、楽しめました。 |
名前: 鹿太郎 ¦ 01:55, Thursday, Mar 05, 2009 ×
学生時代のノスタルジーにあふれた素敵な文章です。あの当時の甘酸っぱい思い出がよみがえってきました。
ただ、難をいうと、前半で学校怪談のあれこれを箇条書きにして「どこにでもある」と切って捨てている点。これは読者としてはシラけます。具体的な内容は省略しても良かったのではないでしょうか? |
名前: 魔音 ¦ 18:44, Thursday, Mar 12, 2009 ×
| 川上さんんが、20年以上たった今でも、自分が小学校2年だった時の旧校舎に出る幽霊を確かめようと金曜日の放課後、そこで廊下で聞いた遊び場を失った子たちの足音が!擬態語で怖さを演出しているが、ちょっと切なくなる思い出だから。 |
名前: ジャック ¦ 01:23, Thursday, Apr 09, 2009 ×
| ちょっと物足りない気がするのは、小ネタのわりに長いからかな。 |
名前: 悪夢狂乱丸 ¦ 16:46, Monday, Apr 13, 2009 ×
音を目の前にしている時はとても怖かったと思います。 でも「遊び場を失ったあの子」のくだりで、もしかしたら遊び相手になってくれるかもと思って現れたのかな、と思うと切ない気持ちになりました。 |
名前: 緋咲 ¦ 09:19, Sunday, Apr 19, 2009 ×
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