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染舌
「智之君のことを思い出すと、今でも悲しくなっちゃうんだけど・・・・・・」
そう言いながらも、主婦の春菜さんが話を聞かせてくれた。

春菜さんの友達に、恵美子という風俗嬢をしている女性がいた。
「智之君っていう十二歳年下の旦那がいてね。私にはそうは言わなかったんだけど、たぶん智之君が客で来て知り合って結婚したんだと思うんだ」
歳も離れているし、背が高く顔立ちもよく優しい智之さんと、見た目のあまりぱっとしない恵美子さんは不釣り合いに見えたが、それなりに幸せな結婚生活をしているようだった。
「私には旦那の文句ばかりだったけどね。職をころころ変えるとか。でも若いんだし、ある程度はしょうがないじゃない。はっきり言って恵美子にはもったいないくらいのいい旦那だったと思うよ」
何度か恵美子さんに招待されて二人のアパートに遊びに行ったが、そのたびに智之さんは春菜さんのことを大歓迎してくれた。
智之さんは恵美子さんの女友達の中でも、春菜さんのことを特別気に入ってくれていたようで、春菜さんもそれが嬉しく、三人の関係はとてもいいものだった。

だが幸せな生活は長くは続かなかった。
結婚二年目に差し掛かろうというとき、智之さんは胃ガンになってしまった。
若さは病気の進行を早める。ガンが見つかった時にはすでに手の施しようがなく、二ヵ月後には智之さんは帰らぬ人となった。
「私もすごく悲しかった。でも恵美子はもっと悲しいはずだし、葬儀の後も数回顔を出したんだけど・・・・・・」
恵美子さんは旦那の四十九日の法要が終わる前から、他の男を家に連れ込んでいた。
「驚いたってより軽蔑したよ。智之君はなんだったのかって。恵美子も寂しかったんだろうけどさ」
新しく連れ込んでいる男は、智之さんとは比べ物にならないような感じの悪い男だった。
黒縁の分厚い眼鏡の奥から覗くニヤけた目つきが、智之さんのことを慕っていた春菜さんの怒りを増幅させた。

やがて恵美子さんの元には、智之さんの生命保険金が支払われた。
恵美子さんはその金で都内にマンションを買った。
「そこまではまぁよかったんだけど、あのニヤけた男とも別れていたみたいだし」
今まで手にしたことのないような多額の保険金を持った恵美子さんの生活は変わった。
ホストクラブに通い、毎日べろべろに酔って朝帰り。そのまま眠り、起きてまたホストクラブに足を運んでいた。
「ひとり、お目当ての男がいてね。恵美子が私に、おごるから一緒にホストクラブに行こうって誘いの電話をかけてくるの。私はあまりそういう所には行きたくなかったから、なんで?って聞くとね『あんまり私一人で通いつめていると、まるでその男のことを私が好きだから行っているみたいで嫌じゃん』って言うのよ」
春菜さんは呆れて返す言葉もなかった。

数週間後、春菜さんに電話をかけてきた恵美子さんはいつもと違う様子で「智之が出た」と言った。
夜中に目を覚ますと部屋の隅に智之さんが立っていたという。
シルエットで智之さんだということはわかったが、表情はよくわからなかった。
初めは恐ろしくて言葉もなかった恵美子さんだが、智之さんの霊を見ることに慣れてくると、彼にむかって罵声を浴びせた。
「それがね、『私にはもう新しい男がいるのよ。血迷って出てこないでよ』って言ったらしいの。その新しい男ってのは恵美子をカモにしているホストのことね」
智之さんの霊は恵美子さんがひとりで寝ているときにだけ現れた。
ホストの男と床を一緒している時には現れなかった。

ある晩、目を覚ました美恵子さんは人生で初めての金縛りに遭っていた。
いつもより近い位置に智之さんの霊が立っていることに気付いた。
智之さんの霊はものすごい表情で恵美子さんを睨んでいた。
生前には見せたことのない表情。
憎悪の念に溢れた目はギラギラと輝いていた。
やがて、動けないで脅えている恵美子さんに馬乗りになり、智之さんは自分の腹の中に手を突っ込んだ。
智之さんがその手を引き抜くと、ぴちぴちと嫌な音がした。
引き抜かれた手には、ぬめぬめと光る黒い塊があった。
それはとても粒の小さいキャビアの塊のようだった。
それを動けないでいる恵美子さんの口に押し込んだ。
なんともいえない苦さと、口の中で無数の小さな細胞が動く気持ち悪さに、恵美子さんは嘔吐した。
だが彼は次々と自分の腹の中から取り出した黒い塊を、無言で恵美子さんの口に押し当てた。
恵美子さんはその度に嘔吐を繰り返していたが、やがて気を失った。

目を覚ますと、恵美子さんの顔と枕は汚物にまみれていた。
黒い塊は見当たらなかった。
気持ち悪い口の中を洗面所で必死に歯磨きしていると、鏡に映る自分の顔の異変に気づいた。
舌が真っ黒になっていた。
いくら歯ブラシで自分の舌を擦っても、それは落ちなかった。

ちょうどその頃、恵美子さんが持っていた智之さんの保険金も底をつきかけていた。
金がなくなると、ホストは恵美子さんのことを汚いものを見るような目で生ゴミのように捨てた。
マンションも売りに出すことになった。
ホストに捨てられて荒れた恵美子さんが、その金を使い切るのに時間はかからなかった。
今は以前のように風俗嬢に戻っている。
あの日のままの黒いその舌で、男性に奉仕して生きていく生活が続いている。



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■講評

文章 1
怪異 1
怖さ 0
衝撃 1

グロテスクだ。
「智之さんがその手を引き抜くと、(中略)口の中で無数の小さな細胞が動く気持ち悪さに、恵美子さんは嘔吐した。」
ここは生理的にもとても気持ちが悪い。
年の差を乗り越えて結婚したはずのこの結末にはどうしようもない業を感じる。怪異現象の怖さと共に人間の弱さが描かれている。






名前: くりちゃん ¦ 09:17, Monday, Feb 09, 2009 ×


事象のグロテスクさとともに、
春菜さんの嫉妬とも憎悪とも取れる感情が
見えて、筆者の意図とは別の所で怖い(^^;)
それも、狙い?

怖さ1 怪異1

名前: ほおづき ¦ 14:42, Monday, Feb 09, 2009 ×


春菜さんの目線で観察しているせいか、恵美子さんへの悪意が見え隠れしています。一歩離れた場所から書いてみても良かったのでは。
文章・0 構成・0 ネタ・1 恐怖・0

名前: 暗沌子 ¦ 16:05, Monday, Feb 09, 2009 ×


優しい人を怒らすと怖いですね。智之さんが亡くなることによって得た財産を全て吐き出させて、元通りの境遇に戻してやったのですね。客があまり付かなくなるような黒舌というお土産もつけて。いや、気持ち悪かったです。

名前: ひ ¦ 16:23, Monday, Feb 09, 2009 ×


うーん、なんだか小説のような話だな。
 その風俗嬢が愚かしく、それでいて少し哀れのような。

 好みでないので1点減点します。

名前: くすだまん ¦ 17:18, Monday, Feb 09, 2009 ×


前半部と後半部の視点の違いに違和感を感じます。
統一された方が読み手としては分かりやすかったと思います。

名前: SPダイスケ ¦ 20:00, Monday, Feb 09, 2009 ×


怪奇2 文章0
舌が黒くなった原因とは何だったのでしょうか?
恵美子の行動と人生模様が恐ろしい。

名前: じゅりんだ ¦ 20:00, Monday, Feb 09, 2009 ×


あれ?
なんかいつの間にか春菜さんがどこか行っちゃった…。
もう少し、視点バランスを整える必要があるように思えます。
怪異自体は程よく気持ち悪くて良いんですけどねぇ…。

文章:0 怪異:1

名前: PM ¦ 20:38, Monday, Feb 09, 2009 ×


気持ちも気分も悪くなるグロ系怪談ですね。
個人的な好みとしては意見が大きく分かれそうな…

名前: ひぐらし ¦ 21:39, Monday, Feb 09, 2009 ×


一番の怪異部分が聞いた事の無い話でとても怖かったのですが
春菜さんの感情や個人的意見はいらなかったのではないかと思います。
前半をもっとスッキリさせると怪異が更に際立つ気がします。

名前: ゑな ¦ 23:03, Monday, Feb 09, 2009 ×


黒い舌がなんともいえない嫌な感じがしてよかったです。
恵美子さんがそういう仕事をしているのもなんだか本人の性のようで、そういうこともあるのだとしみじみ思いました。

名前: 黒蜜椿 ¦ 21:11, Wednesday, Feb 11, 2009 ×


うわぁ…怖いといえば怖い。
というか恐ろしいといったほうがいいかもしれない。
大人の怪談といったところでしょうか。
恵美子さん、最低の女だわ。
なんだか東京伝説系怪談で後味悪い話です。

よく取材されましたね。
聞くほうも辛かったと思います。

名前: 桜子 ¦ 22:06, Tuesday, Feb 17, 2009 ×


はい、妄想ぶちまけます。

まず恵美子さん。
智之さんを亡くして弱っていることににつけこんだ何かが腹に棲みついて荒んでしまった。
あるいは、寂しさを紛らわせようとしているうちに金に溺れたりしたせいで、それらが形になって腹に溜まってしまった。

そして智之さん。
心配して現れたのに罵られ、憎さのあまり暴挙に?
いや、目を覚まさせようと荒療治?
黒い塊の正体を知ってそうですね。

どう組み合わせても悲しかったり怖かったりです。 +2
そして怪異も強烈。黒い塊を口に入れられたところで、オエェっときます。
今大会でここまでに読ませていただいた作品の中では、経験したくないものナンバーワンです。
こういう黒いもの、誰でも持っているのかもしれません。 +2

生命保険、ホスト通い、マンション売却と生々しい話が続いたので、最後でふと「黒い舌でもお客さんつくのかな?」と現実的なことを考えてしまいました。
前述した「恵美子さんかわいそう説」も妄想してしまった後だと、春奈さんの台詞が悪意に満ちたゴシップ好きに見えてくる…。著者さんの冷静な筆致で全文書いてほしかったです。 -1

名前: 眠 ¦ 04:17, Wednesday, Feb 18, 2009 ×


文章0 怪異+1 恐怖+1
既に指摘されているとおり、前半の、春菜さんが語っている体の文体で損をしている。
春菜さんのセリフとして書いてしまったことで、彼女の主観まで入り込んでしまっているかのように思えてしまう。
それがなければ、思わず点をプラスしてしまうような、客観的で、あったることをきちんと表現できる文章として評価できたのではないかと思う。
内容自体は単に怖いというだけでなく、人間の持つ業までも伝わってくるようで気分が悪い。
黒い塊はもしかすると癌そのものだろうか。
個人的に感じたのは、戒めようとしたのだろうか、智之さんの優しさが垣間見えた気がした。

名前: スロトレ兄さん ¦ 22:45, Saturday, Feb 21, 2009 ×


恵美子さんの所業もよくはないと思いますが、春菜さんにも厭な感じが出ていますね。
狙って書いたものだとは思いますが、最後のオチも含めて読者を厭な気分にさせることには成功していると思います。
智之さんの心中を察すると、切ない気分になってしまいます。

名前: へみ ¦ 09:46, Saturday, Mar 07, 2009 ×


グロ怪談。なかなか厭な気分にさせてくれます。
当事者以外の視点での話なので割引しても、怖さのパワーはかなりあると思いました。

名前: キザラ ¦ 06:18, Sunday, Mar 08, 2009 ×


春菜さん、女の厭らしさでてますね。
そこがまた怖くてよかったです。
恵美子さんの黒い舌が強烈でした。
舌が染まっただけで終わったのは良かったのかもしれませんが、黒いまま一生過ごすのはある意味酷かもしれませんね。

名前: わんぴー ¦ 21:18, Tuesday, Mar 10, 2009 ×


風俗嬢だから生活がすさんでいて、風俗嬢だからだらしがない、実話とは言え、そういうステレオタイプ的な描写は不快ですね。怪異そのものより「風俗嬢攻撃」に主眼がおかれているような、そんな私情を感じてしまったので。

名前: 魔音 ¦ 19:36, Friday, Mar 13, 2009 ×


文章・・・0
希少度・・・1

最初から最後まで恵美子さんに対する侮蔑が表れていて、客観性に欠けるように感じました。
その所為か途中で展開されるネチョグロ系の怪異のインパクトも弱まってしまい、印象に残りませんでした。
春菜さんが語ったことを忠実に再現するとこうなったのかもしれませんが、ここは春菜さんの恵美子さんに対する感情抜きで語った方が強烈な怪異もより活きたでしょう。
恵美子さんに対しての感情を文章で表さず、文章で感じさせて欲しかったと思います。

名前: 鹿太郎 ¦ 01:58, Wednesday, Mar 25, 2009 ×


この風俗嬢をしている恵美子さんは、せっかく智之さんという12歳年下の脊も高く顔立ちも良く優しい旦那に恵まれて、いくら若くて職をころころ変えてもその智之さんが癌で亡くなって、自分の命と引き換えの保険金に手を付けてまた金が無くなり風俗嬢に戻っていては、彼が怒って亡霊となり出てきてもいたしかたない。元の木阿弥のような文章だから。

名前: ジャック ¦ 02:59, Sunday, Apr 05, 2009 ×


風俗嬢だからとかそういう問題じゃなく、どうしようもない女性ですね、恵美子さんは。
智之さんが本当に可哀想。
それにしてもその黒い塊はいったい何だったのか……。
怖いし気持ち悪い。
医者には行ったのかな?
疑っている訳じゃないけど、霊的に引き起こされた体の変化に、医者がどういう見解を示すのかとても興味があります。
智之さんのことを知っている人にしかその黒い舌が見えない、とかだったらもっと怖いですね。

名前: 緋咲 ¦ 23:21, Sunday, Apr 19, 2009 ×


恵美子さんはもちろん、春菜さんも嫌らしく感じる。その春菜さんが証言する智之さんは優しいということ以外若い、背が高い、顔立ちがいいと外見ばかりほめている。実際には職が続かないらしく、二人の性悪女のせいで智之さんすら本当はいい人ではないのではと思えてくる。

名前: 悪夢狂乱丸 ¦ 15:22, Thursday, Apr 30, 2009 ×


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