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「全てが呪いや因縁のせいだとは、もちろん言い切れないし、思いたくもないんだけど」 そう前置きをして、今はOLをしている千奈さんが話をしてくれた。
千奈さんの住んでいた家は、千奈さんが産まれた頃に周辺一帯を整地して建てられた。 「うちもそのときに家を買って引っ越してきたらしいんだけど、周辺の整地をする前ここには・・・・・・」 大きな鳥居が倒れていたという。 その鳥居がいつ建てられたのか、神社もあったのか、なぜ倒れたのか、それらについて詳しく知る者は千奈さんの周りにはいないようだった。 もしかしたら地元の年配者の中には知っている人もいるのかもしれない。 だが千奈さんから進んでそれらのことについて訊くこともなく、親や近所の大人達からは、この辺りを整地する前に大きな鳥居が倒れていたということだけを聞かされていた。 千奈さんの家はその鳥居が倒れていた土地の真ん前にある。 「私の子供の頃の写真を見るとね。うちの前は空き地なの」 その地域に住んでいる人は皆、そこに鳥居が倒れていたことを知っている。 さすがに鳥居が倒れていた真上の土地を買おうとする者はなかなか現れなかったらしい。
やがてある夫婦がその土地に家を建てた。 「奥さんの名前は有里さんっていうの。いい人でね。私のこともずいぶん可愛がってくれたんだけど」 そこに鳥居が倒れていたのを知っていながら土地を購入するだけのことはあり、奥さんのほうは特に物怖じしない、気概のある人だった。 夫婦が住み始めて間もなく、怪異は起きた。 ふたりが家を留守にしているときに限って、防犯用のセコムのセンサーが反応する。 「一度や二度じゃなくて、何度も。特に夫婦で旅行に行っている時には夜になると必ずと言っていいほどあったみたい」 そのたびにセコムの巡回車が立ち寄り点検していたが、侵入者のあった形跡が見つかることは一度もなかった。 「私はあの土地はやはり良いものではないと思う。ただ有里さんはそういうのに強い何かを持っているような気がするの。私には優しいんだけど、凡人にはない強さを感じるんだよね。だから本人がいるときには怪異は起きなかったと思っていたんだけど」
数年後、有里さんは子供を身篭った。 その頃から有里さんも怪現象に見舞われるようになった。 「夜、布団で寝ていると、足を引っ張られるって言うの」 寝苦しさに有里さんが目を覚ますと、金縛りになっている。 男のものと思われるごつい手が有里さんの両足首を掴んで、下に引っ張っていた。 同時に何を言っているのかはわからない、呪文のような御経のようなものを早口で唱えている男の低い声も聞こえた。 有里さんが金縛りに遭い、動けないその身体で必死に抵抗していると、手は引っ張るのをやめて有里さんの足を弄るようにしながら脛から太ももにかけてゆっくりと上がってきた。 有里さんは子供を身篭っている。 自分の足は触られても、女性器や子宮、おなかだけは絶対に触らせたくなかった。 あらん限りの力を振り絞り、叫び声が出ると同時に金縛りは解けた。 聞こえていた声もなくなり、手も消えていた。 「その叫び声が夜中、私の家まで聞こえたの。びっくりしたけどその後特に変わった様子はなさそうだったから、翌日に会ったときに聞いたらこの話をしてくれたんだけど」 有里さんは「悪い夢でも見たんだと思う。驚かせてごめんね」とそのときは笑っていたが、後日訊いた話によると、その後も同じような現象に何度か遭っていたらしい。
やがて有里さんは男の子を産み、勝と名付けた。 だが勝は産まれたときから右目に異常があり、生後数ヶ月で目の手術をしたが結局よくならず、右目は幼くして義眼だった。 千奈さんは勝を自分の弟のように可愛がった。 勝も千奈さんのことを、自分の母親が千奈さんに対してそう呼ぶように「ちーちゃん」と呼び、とてもなついていた。 あるとき、勝は千奈さんにおかしなことを言った。 「ちーちゃん、うちには怒っている人がいるの。僕その人が怖い」 「パパかママに怒られちゃったの?」 千奈さんが訊き返すと、勝は首を振りながら「ううん、違う。違う人」と言った。 千奈さんは背筋に冷たいものを感じたが、勝はまだ幼く、悪い夢でも見たのか、またそれと実際の両親に怒られたことが混乱し、おかしなことを言っているのだとその時は思った。 「でも今思えば、もっとちゃんと勝の言うことを聞いてあげていればよかった。もしかしたら両親には言えずに、私にだけ相談したのかもしれないし」 勝は四歳の時に、家の前で車に轢かれて亡くなってしまった。 「片目が見えないわけだから、普通の人以上に注意はしていたはずだと思うの。しかもその道は見通しがよくて交通量も少ないし」 千奈さんは勝の死をとても悲しんだが、同時に腑に落ちないものも感じた。
勝が亡くなった翌年、有里さんは再び妊娠した。 「有里さんも旦那さんもすごく喜んでいて、私も嬉しかった。でも・・・・・・」 千奈さんは嫌な予感がしていた。 臨月が近づいてくると有里さんが言った。 「勝を産む前に足を引っ張られたと言ったでしょ。それと同じことがまた起こるの」 しかも有里さんの足を掴む手は以前のとき以上の荒々しく、聞こえてくる声には禍々しさが感じられるという。 有里さん自身は精神的にも強く物怖じしないが、産まれてくる子供のことを考えるとその家にはいないほうがいいと思い、普通よりかなり早い時期から入院した。 だが、出産後に有里さんから訊いた話によると、病院でも家にいるときと同じような現象が起きていたという。
入院しても夜な夜な魘される中、やがて有里さんは女の子を産んだ。 「でもその子ね」 肩から手が生えていた。 「肩から手って普通じゃない?」 私が聞き返すと、千奈さんは悲しそうに俯きながら首を振った。 「肩から手首が」
千奈さんはその子を、赤ちゃんのときに何度か見たことがあると言った。 「裸の姿を見たわけじゃないんだけど、それでも見るからに痛々しかった。有里さんも口には出さないけど、私と同じことを感じていたと思う。その子を見るとどうしても頭に浮かぶのが・・・・・・」
鳥居だった。
思いたくはなかったが、胴体から直接手首が生えている姿は、まるで因縁によって鳥居が再生されたかのように、千奈さんには感じた。
不幸は重なるもので、有里さんが娘を産んだすぐ後に、旦那にガンが見つかった。 奇形の幼子を抱える中、有里さんの旦那はあっという間に亡くなってしまった。 程なく有里さんは一歳にも満たない娘と共に、実家に帰っていった。 鳥居が倒れていた土地に建てられた家は、誰も住人がいないまま、今も残っている。
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■講評
怪奇3 文章1 土地の因縁と怪奇現象、生まれてくる奇形児。 これほど禍々しい事が続いて起こるとは恐ろしいです。 文章もお上手なので読みやすかったです。読んでいてゾッとしました。 |
名前: じゅりんだ ¦ 14:50, Wednesday, Feb 11, 2009 ×
文章 1 怪異 1 怖さ 1 衝撃 0
確かに鳥居の倒れたまま放置してあった土地、というのはいかにも曰くがありそうで怖い。本殿のあとも残っていないというのは謎めいている。本殿の跡地はどうなっているのか、そこも住宅地になっているのだとしたらその家に住んでいる人たちは?
しかし「有里」さんのお嬢さんの身体的特徴は、某薬禍事件の被害者の方々を連想させるので素直に「そうか、祟りで…」とは私は言えない。それを鳥居の形となぞらえるのはちょっと…
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名前: くりちゃん ¦ 16:10, Wednesday, Feb 11, 2009 ×
何だか凄く禍々しいものを感じるお話ですね。 身体に異常のある子供が生まれるのは薬害等でもありえる事ですが、勝君が言っていた“怒っている人”とは何者なのか。 そもそもどうして鳥居は倒れたままにされ、そこには何が祀られていたのか。 その場所にまた誰かが住んだらどうなるのか。 まだまだ怪異は起こりそうで、恐ろしいですね。
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名前: ひぐらし ¦ 16:45, Wednesday, Feb 11, 2009 ×
これは怖いですね…。 家を出てもダメってのが…。 ただちょっと、赤ちゃんの姿が鳥居に…って部分がイマイチ想像出来ず、ちょっと無理にこじつけた感がありました。 そこまで鳥居にこだわらなくても、十分怖い話ではあるので、そこだけ上手くまとめて欲しかったところです。
文章:1 怪異:2
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名前: PM ¦ 18:08, Wednesday, Feb 11, 2009 ×
気の強い有里さんが弾いた呪詛は弱い者にみな行ってしまったのですね。五体満足に生き残ったのは彼女だけとは・・・ 神さまのほうが怖いですね。祟りますから。
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名前: ひ ¦ 18:19, Wednesday, Feb 11, 2009 ×
なんとも悲しく怖いお話ですね。 鳥居の祟りなんですかね。 怖かったです。 |
名前: SPダイスケ ¦ 19:10, Wednesday, Feb 11, 2009 ×
なんとも言えないぐらい禍々しい話です。本当なら、物凄く好みの話なのですが、薬害被害者を連想させる障害を呪いと結びつけるのは、どうにも受け付けません。 文章・1 構成・−1 ネタ・−1 恐怖・0 |
名前: 暗沌子 ¦ 21:12, Wednesday, Feb 11, 2009 ×
冷静な筆致で書かれていて、良いと思います。 発生した怪については後味の悪さを含んではいますが、それを漏れなく掬い上げることも、触れてはいけないものを描くのには必要だったのでしょう。 |
名前: たかくらぶんた ¦ 22:59, Wednesday, Feb 11, 2009 ×
なんとも怖くてかなしいお話ですね。 妊娠中に実家へ逃げたにも関わらず同じ目に遭ったところに底知れない怖さを感じます。 結構な文章量があるのに引っかかり無く読みきれました。とてもお上手だと思います。
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名前: ゑな ¦ 23:40, Wednesday, Feb 11, 2009 ×
まがまがしく、因縁は怖いのですが、 有里さんの態度が解せません。 私なら、二人目妊娠時点で、 その家から逃げ出します。 一人目を亡くしたのならなおさら。 母としては納得いかないな。 多分、筆者の方としては 「知るかそんなん!」でしょうけど(笑)
怪異1 怖さ1 文章1 |
名前: ほおづき ¦ 08:30, Thursday, Feb 12, 2009 ×
これは・・・・・・。 怖い。 肩から手首はかわいそうだし、どうにかしてあげたいですよ。
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名前: 黒蜜椿 ¦ 18:45, Thursday, Feb 12, 2009 ×
前回、私はこの作品にプラス4と採点しました。 しかし再読しますと、身体障害者を呪われた所為だと告発したような内容になっていますね。 怪談としては、非常に完成度が高いと認めているですが、せめて昭和初期なら、実際、怪異の被害に遭遇した関係者も亡くなっており問題ないと思うのですが、どう考えても、関係者の方々は今も社会生活を営んでおられるはずですし、肩から手と具体的に障害の特徴を記すなど、あまりに実話に必要な社会的な配慮が欠けています。 創作なら間違いなく4点なんですが 非常に残念です、0点に採点を変更します。 |
名前: くすだまん ¦ 22:18, Friday, Feb 13, 2009 ×
非常に重いお話です。 タイトルからして来たな!とは思いましたがこれほどとは。 こういう土地は絶対に人が住んではいけないところ、神の域なのでしょう。 読むほどに引き込まれていきました。 こういう話に出会えた書き手の方も凄いと思います。 文章もなんの違和感もなくすっと入れて一気に読ませるテクニックも素晴らしい。 ただ、読んだ後、お腹の中に黒い塊が入ったみたいで気が滅入ります。
神様の祟りはハンパなく恐ろしい。 |
名前: 桜子 ¦ 12:37, Wednesday, Feb 18, 2009 ×
>鳥居だった。 ここで一気にゾワッときました。 +3 >思いたくはなかったが〜千奈さんには感じた。 同じく、思いたくないけどそう思ってしまう。 お子さんは二人とも体が不自由で、一人のお子さんと旦那さんを亡くしてしまったとなるとさすがに…。
なぜ鳥居が倒れたのか、倒れたあとの処置はどうだったのか。その辺に原因があるんでしょうけど、そこがわからないからまたモヤモヤとしてイヤな余韻が残りますね。 +1
前半で「鳥居が倒れていた」を連発していてくどく感じました。 あと、千奈さんの言葉には有里さんへの思いやりが感じられるんですが、著者さんは冷たすぎやしませんか。「奇形の幼子」「旦那」はちょっと… -1 |
名前: 眠 ¦ 23:57, Friday, Feb 20, 2009 ×
怪談としては申し分ないと思う。 ただ、人の眼に触れる作品として考えるとどうも重大な瑕疵があるのではないか。 実話怪談である以上、怪異によって傷ついたり被害にあった人々については充分な配慮が必要だろう。 怪我をしたり、悩みを抱える人に対してもそうなのだが、この話出てくる赤ん坊の場合の一生抱え続けるであろう問題は相当の慎重さを持って文章を吟味しなければならないと思う。 本人や家族、子孫がこの作品を読んだときにどう思うのかをよく考えて書くべきであり、どうもその配慮に関して作者は少し鈍感な感じがある。 鳥居になぞらえている部分があるが、それは怪異との結びつきを匂わすにしても、いかにもな「あざとさ」に感じた。 車に轢かれて死んだ勝くんに寄せたような、心情的配慮をこの赤ん坊にも寄せるべきだったと思う。 手が無くったって、赤ん坊なんだから、あやしたらニコニコ笑っていたと思いますよ。
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名前: キザラ ¦ 16:34, Friday, Mar 13, 2009 ×
恐ろしい。 作中の登場人物に対する配慮は足りなかった部分があるようにも思えますが、あったることを冷静に書く鬼畜さも怪談書きには必要なときがあるのではないでしょうか。 障害を持って生まれてきてしまった赤子は可哀想で、やりようのない気持ちになりますが、それを書けないのならこの作品は発表するべきではなかったでしょう。 講評者の意見が分かれる部分もあるとは思いますが、それによりその人の怪談感や器までわかるのが面白いですね。 |
名前: へみ ¦ 16:37, Sunday, Mar 15, 2009 ×
禍々しさが凄く伝わりました。とても怖い土地ですね。話を発表することで呪いが続きそうで怖いです。 有里さん家族が今も元気に暮らせていることを切に望みます。 読み終わってから千奈さんの最初の言葉の重みを理解できました。書いた方にも話した方にも災いがおこりませんように…。 |
名前: わんぴー ¦ 10:56, Friday, Mar 20, 2009 ×
| 結局この有里さんというご夫婦は、いくら物怖じしない人といっても、鳥居が倒れていた土地に家を建てたことによって、最初の息子の右目に異常幼くして義眼、そのご交通事故死、その翌年肩から手がはえている娘を生んだあと夫に癌が見つかり亡くなった。そしてその子を連れて実家に帰った事は、人がやらないことはやってはいけないという戒めだと思ったから。 |
名前: ジャック ¦ 23:46, Thursday, Mar 26, 2009 ×
怖いとか怪異とか言う表現を使うのも憚られるほど重いお話ですね。 軽々しいコメントをしたくないので、これだけで…。 |
名前: 緋咲 ¦ 18:55, Monday, Apr 20, 2009 ×
文章・・・2 希少度・・・1
なんとなく薄気味悪い話ですね。 少しずつ不気味な出来事がエスカレートしていく様は背後に何かの因縁や祟りといったものがあると思わせます。 丁寧に淡々と語られる文章も効果を上げています。 過去にそこで何があったのか、興味が湧きます。 |
名前: 鹿太郎 ¦ 21:41, Saturday, Apr 25, 2009 ×
これは怖いです。 ただ、最初から最後までずっと、千奈さんの年齢が気になってしょうがなかった。小学生なら有里さんが怖い体験を話さないだろうし、高校生にも思えない。記述してほしかった。 |
名前: 悪夢狂乱丸 ¦ 17:32, Wednesday, Apr 29, 2009 ×
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