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中島さんは、今のお寺の住職に就いてからしばらくの間、不思議な体験をしていたのだという。
そのお寺では、毎日本堂で朝6時と夕方5時に、本尊を祀った御宝前に向かって経を読む、朝言、夕言と呼ばれる習慣がある。
住職としての初日、朝言での事。 中島さんは一人本堂に入り、御宝前の前に座ると経を読み始めた。 するとすぐに、自分の声に混じって、本堂の中からざわざわと沢山の人の話し合う声が聞こえてきたのである。 その声にあわせるかのように、御宝前に供えられた花がガサガサと揺れ始めた。 蝋燭に灯された火も縦長に細くなり、ポッ…ポッ…と大きくなったり小さくなったりを繰り返す。 ざわめきは徐々に大きくなり、中島さんの経を読む声を掻き消す程にまでなっていた。 中島さんは驚きはしたものの、これに負けたら僧侶失格、と自らを諭し、そのまま経を読み続けた。 そして朝言を終えると、さっきまでのざわめきは嘘のように収まり、本堂内は本来の静けさを取り戻したのである。
その日の夕言も、中島さん一人であるにも拘らず、本堂内は騒がしいものであった。 そして朝言と同様、経を読み終えると静かになるのである。 原因はおろか、対処の仕方も解らない。 それも自分が未熟であるが故なのだろうか? ならば尚の事精進せねば、と気を引き締め、中島さんはそれ以降も毎日起こるざわめきの中で経を上げていた。
それから半年程経った頃。 住職として板に付いてきた中島さんは、その日の朝言である変化に気付いた。 本堂内の騒がしさが、昨日よりも少し収まっているのである。 それから日を重ねる毎にざわめきは小さくなり、数日経つ頃には花や蝋燭の火が動く事はなく、声もぼそぼそと何かを呟く程度にまで落ち着いていた。 それから間もないある日の朝言の時である。 経を読み始めた中島さんは、今日は自分以外の声が聞こえない事に気付いた。 本堂が随分と静かである。 収まったか…、と胸を撫で下ろした瞬間。 ちりん… ちりん… 小さな鈴の音が聞こえ始めた。 音のする方を探る。 この本堂は、中央に置かれた御宝前の向こう側、つまり本堂の奥側には、壁伝いに檀家の位牌を並べた位牌堂がある。 どうやらこの鈴の音は、その位牌堂から聞こえてくるようだ。 ちりん……… 何度か鳴った後、鈴の音が止まった。 ずー… ずー… 今度は同じ場所から、本堂の畳を擦るような音が聞こえ始めた。 ずー… ずー… その音がゆっくりと、位牌堂から御宝前を回り込むようにして出てきた。 誰かがそこを擦り歩いているかのように聞こえる。 音のする方に目を向けるが、何も見えない。 ずー… ずー… その音は、中島さんの横を通り過ぎると、その後ろ、5歩ほど離れた位置で止まった。 ざざ… ざざざ… その場にゆっくりと正座するかのような音がした。 本堂内に静けさが戻る…。
その瞬間、中島さんは理解した。 あのざわめきは、自分に対する疑念を表すものであったという事を。 そして悟ったのである。 自分は今ようやく、この寺に祀られた方々に住職として認められたのだ、と。 これ以降、朝言、夕言の際に、本堂内がざわめく事はなくなったのだそうだ。 誰かに認めてもらいたければ、何事も日々是精進、と中島さんは締め括った。
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■講評
同級生の住職に聞かせてやりたいね! 何にも見えないし、それらしい体験も無いんですって! 徳の違いかしら(笑) せっかくおいしい環境にいるのに、 ネタの一つも提供しないの。 ご住職の檀家さんは、幸せですね。
文章1 |
名前: ほおづき ¦ 10:34, Sunday, Feb 15, 2009 ×
文章 1 怪異 1 怖さ 1 衝撃 0
なかなかいいお話でした。 ざわめきが聞こえなくなった時点でお話も終わりかと思っていたら、最後の確認まであったんですね。 いい話はいい話なんですが、さすがに無人なのにざわめきが聞こえたりとか、音が近づいてきたりとか、そういうところは怖かったですね。
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名前: くりちゃん ¦ 16:25, Sunday, Feb 15, 2009 ×
ああ、これはためになる話です。 日々是精進。 超-1参加者として、肝に銘じておきたいところですね。 このご住職から、静かな説得力を感じます。
文章:1 怪異:2
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名前: PM ¦ 19:13, Sunday, Feb 15, 2009 ×
| 音が中心の怪異とはいえ、これだけ取材してあれば文句はありません。 |
名前: くすだまん ¦ 19:21, Sunday, Feb 15, 2009 ×
代々お寺で供養されていた人たちが周りに集まって 「今度の人、どーよ?」 とか言っていたのでしょうか。 お寺ではそういう事もあるんですね。
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名前: ひぐらし ¦ 20:40, Sunday, Feb 15, 2009 ×
怪奇2 文章2 音だけでこれだけ楽しませていただけるとは文章力の賜物でしょうね。 あと個人的に僧侶に関する怪異でとても奥深さが感じられました。 中島さんきっと良いお坊さまになったでしょうね。 まったく怪談にしても日々是精進と気持ちを引き締めました(笑) |
名前: じゅりんだ ¦ 23:41, Sunday, Feb 15, 2009 ×
怪異部分を読んでいる時はどうなることかと思いましたが ちゃんと理由のある事だったんですね。 いいお話をありがとうございました。 |
名前: ゑな ¦ 00:11, Monday, Feb 16, 2009 ×
怪異としては小さいですが いいお話でした。 日々是精進 重みのある言葉です。 |
名前: SPダイスケ ¦ 17:41, Monday, Feb 16, 2009 ×
| お坊さんも仏さまに認められて一人前になるのですね。 |
名前: 六郎 ¦ 19:37, Monday, Feb 16, 2009 ×
言葉にすると、「あら、新人さんやわ」「ほんまですな、なかなかええ声や」「いや、まだまだ魂が籠もっとらん」てな感じでしょうか。 なかなか面白い体験でした。 文章・0 構成・0 ネタ・1 恐怖・0 |
名前: 暗沌子 ¦ 01:30, Tuesday, Feb 17, 2009 ×
半年がお試し期間だったわけですね。最後に現れた方は檀家総代のご先祖さまでしょうか。
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名前: ひ ¦ 11:20, Tuesday, Feb 17, 2009 ×
すごくいいお話でした。 世の中の住職の皆さんがこの気持ちを忘れずに供養に励んでほしいものです。 また自分自身ももこういう気持ちは忘れたくないですね。 |
名前: 黒蜜椿 ¦ 12:41, Tuesday, Feb 17, 2009 ×
素晴らしいお話ですね。 説得力があります。 そうですね、誰でも最初は初心者ですものね。 日々是精進していくことこそ大切なのですね。 将来はこういうご住職のおられるお寺にお世話になりたいです。 |
名前: 桜子 ¦ 12:57, Tuesday, Feb 24, 2009 ×
「おい、見慣れない奴が来たぞ」てな感じだったんでしょうか。 臆することなく続けた中島さんの真摯な態度が受け入れられたんですね。 しかし半年とは。長い^^; +1
中島さんの落ち着いた様子が穏やかな文章で綴られていて良かったです。お寺の雰囲気も伝わってきました。 無意識に正座してしまいそう。 +1 |
名前: 眠 ¦ 18:28, Saturday, Feb 28, 2009 ×
名前: ジャック ¦ 22:50, Wednesday, Mar 04, 2009 ×
中島さんが、今のお寺の住職についてから朝6時に読む朝言、夕方5時に読む 夕言をすれば、当然あの世の世界が開き、活発化し、檀家の位牌から魂も抜けてくることもあるであろう。それを一概にこの寺にほうむられた人たちに住職と迎えられたかどうかは?怪しい理由だから。 |
名前: ジャック ¦ 01:43, Saturday, Mar 21, 2009 ×
なかなかためになる話でした。 個人的には、やはり僧侶とはいえ同じ人間なのだから、霊現象は怖く感じるのだなと思えたのが良かったです。 そこからそれに少しずつ慣れていく様がうまく書かれていました。 |
名前: へみ ¦ 23:18, Monday, Mar 23, 2009 ×
なかなか面白い体験ですね。認められてなによりです。 中島さんの真面目な気持ちには心打たれますね。 |
名前: わんぴー ¦ 17:46, Sunday, Apr 05, 2009 ×
聖職者の鑑のような方ですね中島さん。 普通の人なら怖がってお経どころじゃなくなるだろうなぁ。 そのざわめきは、何て言っていたんだろう。 |
名前: 緋咲 ¦ 05:46, Saturday, Apr 25, 2009 ×
| はい、肝に命じます。中島さんのお寺にお墓作りたい。 |
名前: 悪夢狂乱丸 ¦ 16:53, Saturday, Apr 25, 2009 ×
文章・・・2 希少度・・・0
面白く読ませてもらいました。 怪異自体は派手さもなく、よくある部類のものなのですが、住職がとても良い味を出しています。 私は体験された方がその現象に対して何を思い、どう反応したのかが怪談の重要な要素の一つだと考えております。 この作品ではそれが細かく描写されており、そこから住職の人柄がこちらに伝わってきます。 一つの作品として完成されているように感じました。 |
名前: 鹿太郎 ¦ 23:28, Sunday, Apr 26, 2009 ×
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