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生き神様
「○○町に、生き神様がいらっしゃるのよ」
 川野さんは若い頃から肺の病を患っていて、ずっと入退院を繰り返してきた。
 それは七十を過ぎても完治せず、彼女の心身を蝕み続けていた。
「病院の待合室で、見知らぬ方に声をかけられたの」
 四十代くらいの小綺麗なその女性は、入院した知人を生き神様に紹介するために来院したのだという。
 何気なく話を聞いていると、女性は川野さんにも生き神様の手かざしを受けることを勧めてきた。
 川野さんは半信半疑だったが、治療費は一万、効かない場合は払わなくてもいいと言うことだったので、その女性に診療予約をお願いした。

 予約日、川野さんが最寄りの駅に着くと、あの女性が駅前まで迎えに来てくれていた。
 女性の運転する軽自動車は都心部を離れ、山間の細い道を進んでゆく。
 小一時間ほどすると、車は大きな平屋作りの一軒家の前で止まった。
 庭先では七歳くらいの女の子が縄跳び遊びをしている。
 川野さんが微笑みかけると、女の子は跳ぶのをやめ、にっこりと微笑み返してくれた。
「こちらでございます」
 女性に促され、川野さんは玄関から長い廊下を渡り、離れの一室へと案内された。
 その一室はごくありふれた十畳ほどの和室で、宗教的な装飾も祭壇もなく、何枚かの座布団があるだけだった。
「座ってお待ちください。間もなくいらっしゃいます」
 女性が席を外してから数分後、別の女性が離れへとやってきた。
 二十代後半くらいで顔立ちはやや幼く、病的に白い肌は化粧っ気がまったくなかった。
 ホームセンターで売っているような灰色のスウェット上下を着たその女性は、川野さんに一礼すると彼女の前に座った。
「よろしくお願いします」
 そう言われてはじめて、彼女が生き神様その人だと川野さんは気づいた。
「あ、あの、私は……」
 病状を説明しようとした川野さんを彼女はそっと制し、左手の掌を川野さんに向けた。
「そのまま楽になさってください」
 生き神様は立ち上がって彼女の背後に回ると、川野さんの背中の、ちょうど肺に当たる部分に手を当てた。
 数分後、当てられていた手が離れ、腰へと映った。
 川野さんは慢性の腰痛も患っていたのだが、そのことは待合室で出会った女性には告げていない。
「終わりました。しばらく様子を見てください」
 川野さんの前に座った生き神様はそう言うと、にっこりと微笑んだ。

 手かざしの時には特に体調の変化を感じなかった川野さんだったが、あれほど彼女を苦しめてきた肺の病と腰痛が鳴りを潜めたことで、生き神様の力を信じる他はなかった。
 ただ、効果は半永久的に持続するものではないようで、川野さんは半年に一度くらいのペースで生き神様の手かざしを受けに通っていた。

 その日もいつものように離れに通されると、程なくして生き神様が姿を現した。
 その表情がどことなく暗かったのが、川野さんには多少気がかりだった。
「具合が悪いようでしたら、出直しましょうか?」
「大丈夫です。ちょっと無理をしただけですので……」
 そう答える笑顔も何処か苦しげで、息づかいも少し乱れているようだった。
 生き神様は川野さんの背後に回り、いつものように背中に掌をかざした。

 すうー。
 はあー。

 生き神様の乱れた息づかいが、背中越しに聞こえてくる。

 すうー。
 はあー。
 すうー。
 ゴホッ。
 ゴホゴホッ。

 咳払いが聞こえ、川野さんは振り向いた。
 生き神様は目を閉じ、深く深呼吸を繰り返している。

 はあー。

 息を吐き出すと、その口元から黒煙が立ち上り霧散していく。

 すうー。

 大きく息を吸い込むと、消え残った黒煙がその口元へ吸い込まれてゆく。

 ゴホッ。

 空いた手で口元を押さえて咳き込む度、隙間から黒煙のかけらが漏れ出てくる。
 何度か激しく咳き込んだ生き神様が目を開き、川野さんと目が合うと苦笑した。
「ご無理をなさらない方が……今日はもう失礼します」
 川野さんは居たたまれなくなり、引き留めようとする生き神様に何度もお辞儀をすると、その場をあとにした。

 それから間もなく川野さんの元に、生き神様が亡くなったという知らせが届いた。
 葬儀には大勢の信者が集まり、盛大に執り行われた。
 用意された夕餉の席で、川野さんが悲しみに暮れていると、他の信者達の会話が耳に入ってきた。
「あんなにすばらしいお力をお持ちの方が亡くなられるなんて」
「今後、どうなるんでしょうね」
「大丈夫よ。次代様がいらっしゃるから。次代様は先代様よりも強いお力をお持ちだそうよ」
 信者達は頷きあい、喪主席を見つめていた。
 喪主席には生き神様の母親らしき老婆が座り、その隣に七歳くらいの女の子が座っている。
 最初に生き神様に会った時、玄関先にいた女の子だ。
 女の子は実母の死がまだ理解できないのか、老婆にもたれかかって無邪気な寝顔を見せていた。

「力は確かにおありになったのでしょう。けど、悪いものを私らから取り除いて、それを溜め込まれたんでしょう。
 恐らく次代様も同じでしょう。こんな年寄りのために、あんな子供が早死にするなんて、とてもじゃないけど……」
 川野さんは生き神様の元へ行くのを辞めて、今は病院通いを続けている。



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■講評

文章 1
怪異 1
怖さ 0
衝撃 0

金銭を授受して行われるからには覚悟の上だったのだろうが、残された小さな女の子が不憫になる。
生き神様は信者が増えすぎて後に引けなくなったのだろうか。
生き神様を奉っていた信者達は遺児を後継者として戴くつもりのようだが、未だ幼い子供の将来が傍から決められていくことに大変疑問を感じる。
「川野」さんは自責の念を持っているが、信者達の布教活動もよくなかったのだろうと思う。障りのある人をたくさん連れ的すぎて神様が疲弊したのかも知れない。

名前: くりちゃん ¦ 14:20, Monday, Feb 23, 2009 ×


私も腰痛が持病なので、どちらの方か教えてくださいませんかw ただ、これを怪異と呼ぶのは違う気がします。その方の能力の有無に掛かっていると思いますので。
文章・0 構成・0 ネタ・1 恐怖・0

名前: 暗沌子 ¦ 17:14, Monday, Feb 23, 2009 ×


お…おおぅ?
これは怪談…でいいのかな?
自分に取り込む事で相手を治療するっていうヒーラーの話なら色々とよく耳にしますが、この方もその類でしょうか?
特殊な力には、やはりデメリットもあるもんなのでしょうかねぇ…。

文章:1 怪異:0

名前: PM ¦ 20:16, Monday, Feb 23, 2009 ×


黒煙の部分以外は怪異には思えない様な。
名医と評判の医師に話を聞いてもらっただけで“楽になった”と言う人もいますよね。
“生き神様”とまつりあげる人たちは確かに怖いです。



名前: ひぐらし ¦ 20:24, Monday, Feb 23, 2009 ×


子供の命を削ってまで、己の身の心配をする
いい年をした大人の会話に、
吐き気がします。
これはこれで、あるイミ相当に怖い話ですが、
これは怪談とは違う、と私は思います。

名前: ほおづき ¦ 21:00, Monday, Feb 23, 2009 ×


全体を通して読むと、
どうも怪異と呼べるかどうかに疑問が出てきます。
宗教的なお話に思えてしまうのですが。

名前: SPダイスケ ¦ 22:54, Monday, Feb 23, 2009 ×


怪奇2 文章0
お××り様ですか?きっと生き神様は自身で悪いものを吸い取ってしまうだけで、奇跡を起こしていたわけではなかったのですね。類話はなんとなく聞いたことありますが、手かざしの場面とかが臨場感あって面白かったです。宗教関係ネタは怪談とつながっている部分ありますね。

名前: じゅりんだ ¦ 14:16, Tuesday, Feb 24, 2009 ×


後味の悪い話です。
子供が早死にすることがではなく、生き神様に人々がすがっていく様子が・・・
こういう人がこれからもっと増えていくように思える時代だけに、いろいろ考えました。

名前: 黒蜜椿 ¦ 16:26, Tuesday, Feb 24, 2009 ×


 葬儀の時、その女の子は、どのような姿をしていましたか?生き神様なんですから何か余所とは変わった格好をしているように思いましたが?その描写がありません。
 3点減点。
 これが怪談だといわれると微妙です。
 奇妙な話ではありますが・・・?
 まあ1点は残しておきます。
 

名前: くすだまん ¦ 21:28, Tuesday, Feb 24, 2009 ×


昔読んだ漫画で
「治療が実は自分の命を与えている行為だった」
という話があったのを思い出しました。
黒い煙の怪異よりも、信者という悪気無き存在が怖かったです。

名前: ゑな ¦ 23:35, Tuesday, Feb 24, 2009 ×


新興宗教のパンフレットを読んでいるようで、これは講評が難しいです。
ただ、信者たちが「生き神様」と崇めながら、生身の女性を遠慮無く消費していくことに何の罪悪感もないところが抉り出されていて、これも「怖いのは人間」系なのかなと。

名前: ひ ¦ 00:53, Thursday, Feb 26, 2009 ×


−4 読んでてかったるい

名前: ジャック ¦ 23:26, Saturday, Feb 28, 2009 ×


母親らしき女性が喪主…うーん。
母親も同じ能力を持っていたけれどセーブしてきたので助かった?でもそれなら娘にもセーブさせますよね。
亡くなった先代様と次代様だけ、たまたま能力を持って生まれてきたとか修行をして得たとかなのかなあ。
後釜がいればそれで良しとする信者達も気味が悪く、金と欲の匂いが漂う厭なお話でした。 +1

背景が見えなくて怖かったのですが、もうちょっと突き詰めて先代様が無理をしていた理由や能力の謎もぼんやり見えると興味深い内容になりそうです。
喪主をつとめていた母親がどんな様子だったのかも気になりました。 ±0

名前: 眠 ¦ 02:09, Friday, Mar 06, 2009 ×


この手かざしの話は、どこかで聞いたようなことがあり、普通の人でもおこなう力はあるが、持続はせず、特にそれを商売にすると、大勢の人の悪い気をもらいその人も早死にするときいたことがあったから。これも同様の例ではないか?

名前: ジャック ¦ 18:02, Sunday, Mar 15, 2009 ×


生き神様可哀想ですね。
死因は悪いものを溜め込んだだけではないかもしれませんが、その影響がまったくなかったようにも思えません。
他人事ながら幼い次代様が心配になってしまいます。

名前: へみ ¦ 01:26, Thursday, Apr 02, 2009 ×


なんか怖かったです。
生き神様の不思議より、残された信者の方々の次代様にかける思いが怖かったです。
私の知り合いにも体の悪いものを取れる人がいます。
取ったものは自分のの体に入ってしまうので後で師に取ってもらうのだと言ってました。
この生き神様も同じようなことなのでしょうね。

これも宗教でしょう。

信じてのめり込む人間が怖い。


名前: 桜子 ¦ 21:57, Sunday, Apr 05, 2009 ×


この手の話は嫌だなぁ。黒い煙は病の悪いものだけなのか。人の心の醜いものが多分に含まれていそうで、ゾッとする。

名前: 悪夢狂乱丸 ¦ 17:11, Wednesday, Apr 22, 2009 ×


悪いものをその身に溜め込みながら治療を続けていたのでしょうか。
身を削ってまでどうして……。
残された子供が可哀想。
怪異とは違う気がしますが、生き神様が何かしら霊的な存在の力を利用して治療を行っていた可能性もあるし、全く違うとも言い切れないのでこの点で。

名前: 緋咲 ¦ 04:27, Monday, Apr 27, 2009 ×


文章・・・1
希少度・・・1

その人がもつ特殊な力の一端が目に見えたというのは非常に貴重です。
よくテレビなんかでも超能力者や霊能力者を名乗る人が登場しますが、その力が視覚化された試しはありません。
ホンモノはテレビには出ないんでしょうね。

もし川野さんの推測が正しいとすれば、他人のために自らの命を落とさなければならない彼女達に同情します。

名前: 鹿太郎 ¦ 15:22, Wednesday, Apr 29, 2009 ×


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