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深淵
今現在、会社員をしている真砂子さんは、一見一人っ子のように見えるが実は三人の姉がいるという。
「姉達は三人年子で、私は一番下の姉からでも年が10歳近く離れています。その上父親が違うこともあり、仲良く一緒に遊んでもらったという記憶は殆どありません」
真砂子さんの家庭は少々複雑だった。

最初に母親が結婚した男は仕事もせず、家にお金を入れようとしない人だったという。
三人の姉達が生まれてもその性格は変わることはなく、結局母親は姉達が小学校に入る前に三人を父親の元に置いて、家を逃げるように出て行った。
身寄りのない母親は頼る相手もおらず、子供を三人も育てるのは金銭面で無理と判断し、そのような行動をとったという。
当然父親の方にも育てる能力はない。
姉達はその間のことを今もはっきりと口には出して言わないが、相当辛く苦い思いをしたということを匂わせていた。
離婚から数年後、ようやく母親は再婚。
それを機に母親は三人を引き取ることにしたが、時既に遅く、その頃には母親と姉達の間には深く、大きな溝が出来ていたという。

「その後、再婚した父親との間に生まれたのが私になるわけです」
真砂子さんの父親は娘4人を分け隔てなく大切に育てたが、姉達はそれぞれ二十歳そこそこで結婚すると、さっさと家を出て行ってしまったという。
その後は音信不通に近い状態が何年も続いていた。
真砂子さんも姉達の気持ちがわからない訳ではない。
(どちらかといえば置いて出て行った母の方が悪い)
そう思っていたという。
「暫くして二番目の姉が嫁ぎ先の姑と上手く行かず、そのことが引き金になり、どこかの宗教にのめり込んでいることがわかりました」
そのことが母親だけでなく、真砂子さんと姉達の距離をもより遠いものにしていった。

真砂子さんの会社が休みの日だったという。
その日、以前から仕切りに『調子が悪い』と口にしていた母親を病院に連れて行くことにした。
結果、母親は脳梗塞だった。
「左半身に麻痺が残る状態で、退院後もリハビリ生活が続きました」
それだけでも真砂子さんにとっては経済的にも、精神的にも負担だったにも関わらず、今度は父親が救急車で夜中に運ばれる事態が起こったという。
「緊急で心臓の手術をすることになり、当然父もそのまま入院。仕事なんて出来る状態ではなくなりました」
その結果、真砂子さんは一家の大黒柱として働くことになってしまったという。
緊急事態ということで、姉達に連絡は入れたものの、一度も見舞いどころか電話も掛かってはこなかった。
「正直な話、私一人のお給料でやっていくにはギリギリな状態で、金銭面だけででも姉達に助けて欲しかったんです」
父方に頼もうにも、母親との再婚が原因で向こうの親戚一同からは絶縁されていた。

「その頃からです。家の中の空気が変わりだしたのは・・・」
身体が不自由になり、居間で過ごすことの多くなった母親が仕切りに、
「心細いから一緒にいてくれ」
と言うようになったという。
真砂子さんは仕事の忙しさもあり、母親が病気で寂しいからそう言っているだけだと最初は相手にしなかった。
「でも徐々に妙なものが家の中を出入りしていることに気がつきました」
それは玄関であったり、お風呂場であったりと出る場所は様々。
しかしいつも真砂子さんがいるところから離れた、必ず視界に入る場所にいたという。
「蛙の卵ってわかりますか?あの水の中にある独特の塊に似たものが隅っこに固まって、ヌメヌメと動いているんです」
その一つ一つの中にある黒いものが、眼球のようにゆっくりと動いて、こちらを見ているような感じで、それは気味の悪いものだったという。
いつも真砂子さんが目を離すとすぐに消える為、最初はそれは自分が疲れている為の見間違いだと思っていた。
しかしそれが、転寝をする母の口に入って行くのを見かけるようになると、さすがにおかしいと思うようになったという。

そんな日が続く中、現実的に厳しい状況から少しでもお金の足しになればと思い、真砂子さんは家にある荷物を片付けることにしたという。
押入れの中のいらない本や洋服、使えそうなものは片端から売りに出した。
その中に妙なものが混ざっていたという。
「和紙で出来た葉書のような白い紙で、マジックか何かで黒く縁取った中に、母と私の父、そして私自身の名前がはっきりと赤で書かれていました」
三人の名前の上には大きな黒い×が書かれていたという。
他にも血判と思しき印。
そして裏にはミミズが這った後のような赤い文字が書かれていた。
その中に『死』や『呪』といった真砂子さんにも読める文字があった。
酷く嫌な予感のした真砂子さんはそれを、慌てて燃やしてしまったという。

「そんなことのあった翌年、母が亡くなりました」
いろいろあって疲れきった真砂子さんと葬儀の席で顔を会わせた姉達は、久しぶりに会う変わり果てた姿の母親を見ても顔色一つ変えなかったという。
「その席で無表情な姉達の中で唯一、二番目の姉だけが妙に嬉しそうに見えました。笑いを必死に堪えているような感じで、妙に落ち着きなく、そわそわしていました」
その様子に不自然なものを感じた真砂子さんは、二番目の姉の入っている宗教を自分なりに調べてみた。
「そこでその宗教が『蛙』のような生き物を神として祭っているとわかりました」
真砂子さんは改めて母親と姉達の関係に、血の繋がった身内だけに、他人以上に救いようのないものを感じたという。
「その矛先が間違いなく、自分や父にも向いていると思うと、正直怖くて仕方がありませんでした」

しかしそんな心配とは逆に、母親が亡くなってから家に例のものは出なくなったという。
その点は少しホッしているが、真砂子さんはあの紙に自分と父親の名前も一緒に書かれていたことが今でも気がかりで仕方ないという。
「暫くしてから、二番目の姉は離婚してしまい、今はどこでどうしているのか・・・生きているか死んでいるかも正直わからない状態です」
今のところ真砂子さんと父親は健在である。



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■講評

文章 1
怪異 1
怖さ 1
衝撃 1

思わず引き込まれてしまった。
「血の繋がった身内だけに、他人以上に救いようのないものを感じた」というのがとても恐ろしい。
ただほぼ絶縁状態にあったのに、どうやって和紙を仕込んだのかそこに不可解な怖さもある。
まだ「呪い」が終わっていないような暗示が効いている。

名前: くりちゃん ¦ 09:22, Tuesday, Feb 24, 2009 ×


お母様が、全て一人で持って逝かれたのでしょうかね?
しかし、今回宗教絡み多いな〜。
お姉様達に関しては人を呪わば何とやらですね。
同情もわきません。
が、嫌な気持ちになりますね。

文章1 気持ち悪さ1

名前: ほおづき ¦ 13:27, Tuesday, Feb 24, 2009 ×


怪奇1 文章2
起こった呪いよりも真砂子さんの生い立ちや複雑な家庭環境の方が怪異ですね。
そういう重い舞台背景がなければ軽いお話になってしまったでしょう。
宗教関係ネタは呪いが絡んで恐ろしいですね。やはり一番怖いのは人の念といった所でしょうか。

名前: じゅりんだ ¦ 15:02, Tuesday, Feb 24, 2009 ×


重いし、嫌な話です。
人を呪わばなんとやら。
それなりの代償をどこかで払って生きているのでしょうか・・・
真砂子さんとお父様が無事なところに救われました。


名前: 黒蜜椿 ¦ 16:48, Tuesday, Feb 24, 2009 ×


怖いなぁ と思いました。
一番怖いのは人の念。まったくですね。
宗教系の話は個人的にあまり好きではないので、すみません。

名前: SPダイスケ ¦ 18:02, Tuesday, Feb 24, 2009 ×


肉親間の怨恨というものは、他人間とはまた違い、より感情が絡んで深くなる様ですね。
呪いはまだ続いているのかな…
人を呪わば穴二つ、と言いますから、お姉さんにも異変がありそうですね。いや、もうあったから音信不通なのかな。

名前: ひぐらし ¦ 18:11, Tuesday, Feb 24, 2009 ×


二番目の姉の嫁ぎ先の姑さんは大丈夫なのでしょうかね?
宗教に入るきっかけとなったようですが…。
話はまあ定番と言えば定番ですが、面白かったと思います。

文章:1 怪異:1

名前: PM ¦ 20:27, Tuesday, Feb 24, 2009 ×


真砂子さんと両親の身に起こった出来事が順序立てて分かり易く書かれ、しかも最後には怪異の正体にまで辿り着いてしまう。何とも恐ろしさを感じる話でした。
二番目の姉がこういう事を起こした原因が宗教のためで、そのまた元の原因は嫁ぎ先の姑とうまくいかなかったとあるのですが、更にその大元が家庭にまでさかのぼって書かれ、結果的に事情がたくさん絡みすぎてしまい、行動に起因している部分が全て育った家庭にのみあったのかどうかが少し分かりにくくなっているように感じました。
二番目の姉が後半からの重要な人物になっているので、もう少し前半の段階で彼女がどういう人物であったかを書かれておいた方が良かったかな、とも思います。

名前: たかくらぶんた ¦ 20:44, Tuesday, Feb 24, 2009 ×


 創作なら4点なんですが、あまりに体験者の家族のプライベートな事情を公表している内容で、怪談を楽しめませんでした。
 もう少し話を簡単にしたほうがいいと思います。

名前: くすだまん ¦ 22:20, Tuesday, Feb 24, 2009 ×


呪いも人の気持ちも非常に怖いものでしたが、家庭内の問題に宗教まで絡まってしまって、どうにも読んでいて辛くなるお話でした。
真砂子さんとお父さんがずっと無事でいられる事を願います。

名前: ゑな ¦ 00:42, Wednesday, Feb 25, 2009 ×


うーん…どうも宗教絡みの話は重いなぁ…丁寧な文体と綿密な取材が魅力のお話だと思います。よくぞここまで描ききったなと感心あるのみです。
文章・1 構成・1 ネタ・1 恐怖・0

名前: 暗沌子 ¦ 13:50, Wednesday, Feb 25, 2009 ×


怖いのは生きている人間ということですね。文章にも内容にも引き込まれました。
しかし、年端もいかない5,6歳の子供たちをいくら身寄りがないからと、働かない父親のもとに置いていくなんてそれはそれで惨いことです。たとえ後で母親に引き取られても、嫁に行っても溶解できない怨みを残したわけですから。でも結局、その呪は自分にも返ってきて、母親と同じ離婚の憂き目に遭ってしまった。救われない哀しい話です。実母が亡くなったことで、呪は終わったような気がしますよ。

名前: ひ ¦ 21:46, Sunday, Mar 01, 2009 ×


−4 どこがどういう風に健在なのかわからない

名前: ジャック ¦ 02:37, Monday, Mar 02, 2009 ×


なんじゃこりゃ…。
呪いを仕込むと卵が生まれ、体内で孵化すると…ってことですよね、イヤすぎる; +2
「うわあ燃やしちゃっていいのかよ!?」とドキドキしましたが正解だったようで何よりです。

知名度の高い宗教団体は信者が前向きに生きるための指針を与えるものが多いですが、負の気持ちを助長するようなものもまた、数多く存在しているんでしょうね。
お姉さんにとっては仕返しをすることが生きがいになってたのかもしれないと思うと複雑です。

初めは家庭の複雑さをくどく書きすぎだなーと思ったのに、全てがちゃんと絡んできて見事にドロドロワールドに引き込まれてしまった^^;
「〜だった」「〜という」の繰り返しで単調に見えるのが惜しいです。 +1

名前: 眠 ¦ 02:48, Saturday, Mar 07, 2009 ×


二番の姉が入っている宗教の神(蛙)が、母に呪いとなって眼球となって蛙の卵のようになり、ヌメヌメと襲いかかる。しかし、今の法律では裁くことはでかないから。しかしその姉の身にも不幸が訪れる。ごく当たり前のように呪いが成功しただけのことだから。

名前: ジャック ¦ 22:33, Friday, Mar 13, 2009 ×


気味の悪い話ですね。
呪い方も聞いたことがない話でした。
いらない場面とまでは言いませんが、他の場面では詳細な描写がなされている部分もあったのですが、カエルの卵状のものが母親の口に入っていく場面は少々あっさり書きすぎている印象を受けました。
ここはこの作品最大の見せ場であったと思うので、もう少し力を入れて詳細に書いてあればさらに良い作品になっていたと思います。

名前: へみ ¦ 00:49, Friday, Apr 03, 2009 ×


2番目のお姉さんが「呪い」をかけていたと言うわけですか。
読んでいて沼に沈んでいくような重たさを感じました。
いろんな宗教があるとはいえ、『蛙』のような生き物を神として祭る宗教があるとは驚きました。なんだかいやですね。

しっかり書かれていると思います。
お話を聞くのも大変だったでしょうね。

名前: 桜子 ¦ 20:17, Tuesday, Apr 07, 2009 ×


嫌な話だなぁ。
文章はトータルすると時間経過の長い話を、わかりやすく書かれていると思います。

名前: 悪夢狂乱丸 ¦ 15:29, Saturday, Apr 18, 2009 ×


つくづく、人間って……と凹んでしまいました。
蛙の卵の描写のあたりで感嘆の息を漏らしてしまいました。
本当に文章のうまい人というのは、どんどんその世界に引き込んでいってくださる。
怪異に鳥肌、文章に鳥肌。
文句のつけどころがありません。

名前: 緋咲 ¦ 05:25, Monday, Apr 27, 2009 ×


文章・・・0
希少度・・・1

ドロドロとした人間関係の中で育った真砂子さんも大変ですね。
三人の姉にとっても、実の親子であるからこそ決して許せない部分というのがあったのでしょう。
こういう人の闇の部分を露呈するような話は嫌なもんです。

作品としては全体的に冗長なので、もう少し纏めるともっとよくなったと思います。

名前: 鹿太郎 ¦ 15:48, Wednesday, Apr 29, 2009 ×


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