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靄の中
 左手には黒々とした山々が連なり、右手には民家と思しき明かりが点在して見える。
 だいぶ田舎のほうであったことは記憶しているが、詳しい場所は覚えていない。
 街路灯のまばらな夜の高速道路を、北村君は、同僚の運転する2tトラックで帰社途中であった。
 時刻はすでに夜八時を過ぎている。光源の少ないことを鑑みても当然といえば当然だが、これほど暗いものだろうか。
 まるでトンネルの中を走っているような感覚にとらわれながらぼんやり視線を漂わせていると、前方に黒い靄のようなものが見えた。

 トラックとの距離が縮まっていくにしたがって、その靄は集約され、徐々に人の形をとった。
 ヘッドライトに照らされているにもかかわらず、まるで光を吸収しているかのように黒く、輪郭が漠然としている。
 そのため服装などは全くわからなかったが、どうやらこちらに背を向けて立っているということと、髪が長いということだけは、なぜかはっきりと認識できた。

 やがてそれは目の前まで迫り、ぶつかる! と思った瞬間、フッと消えてしまった。


(ああ、良かった。いなくなってくれた)


 ホッと胸を撫でおろすと、ふと、視界の中を垂れるものに気がついた。
 フロントガラスの外側、上部から線を引くようにひとすじ、何かがゆっくりと流れ落ちている。
 薄闇の中、ときおり車内を照らす街路灯の明かりが、赤黒いそれを照らす。


(………血?)


 鼓動が速まる。
 ひとすじ、またひとすじと流れ出したそれは、瞬く間にその数と太さを増し、視界を侵食してゆく。
 とろりとした檻を描きながら、気がつけばフロントガラスのみならず、両サイドガラスまでをも覆い尽くそうとしていた。
 やがて、すべての視界が赤黒く染まろうとしたそのときである。


バン!


 空気が震え、思わず身がすくむ。
 逆さになった手形が二つ、フロントガラスの上部両端に張り付いていた。
 間からは黒い髪らしきものが長く垂れ、濡れた視界にべっとりと貼りついている。
 額から順にゆっくりと、上から覗き込むように顔が浮かび上がった。
 表情のない、目鼻立ちの曖昧な、真っ赤に濡れたその顔は、北村君だけを見ていた。 
 ちらと横に目を遣るが、同僚は黙然と運転を続けている。
 射抜くような視線に震えながら、北村君は諦めたように目を瞑った。
 
 
 しばらく経つと、不意に外がパッと明るくなったのを感じた。
 思わず目を開けると、何もいなくなっていた。
 まばらだったはずの街路灯は、うって変わって規則正しく整然と立ち並んでおり、ただ煌々と、夜の高速道路を照らし出していた。
 鮮やかなオレンジ色の光にまるでトンネルを抜けたような安堵感を覚え、北村君は、ほっとため息をついた。



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■講評

文章 1
怪異 1
怖さ 1
衝撃 0

無事にやり過ごせたと思わせておいて、ゆっくりとルーフから…というところは怖い。
同僚には見えていなかったようで、多人数の中で自分だけに見える、聞こえる、感じられる、というのの怖さを実感できる。


名前: くりちゃん ¦ 19:26, Monday, Mar 09, 2009 ×


非常に読み易く、臨場感がありました。
ですが、よくある類の話で、北村君も「見ただけ」という事もあり、あまり怖くないなぁというのが正直な感想です。
いや、体験する分には、見るだけで済むに越したことはないんですけどね。

文章:2 怪異:0

名前: PM ¦ 20:08, Monday, Mar 09, 2009 ×


北村君という人が、夜中に2tトラックでトンネルを通った時、幽霊の手とその女の顔を見ただけのこと。

名前: ジャック ¦ 20:25, Monday, Mar 09, 2009 ×


丁寧に書かれていると思いますが…これもよくあるパターンの様な。

名前: ひぐらし ¦ 21:53, Monday, Mar 09, 2009 ×


丁寧に書かれてるお話で、ねっとりとした怖さを感じました。
運転してる同僚はどうなのか疑問に思っていたら、本当に何も影響無かったんですね。隣に座ってるのに明暗くっきり分かれてる状況がまた怖かったです。
同僚に声をかけていたら一体どうなっていたんでしょうね。

名前: ゑな ¦ 00:22, Tuesday, Mar 10, 2009 ×


血のようなものがアメーバみたいに車体を包んでいく描写が気に入りました。

名前: 魔音 ¦ 02:27, Tuesday, Mar 10, 2009 ×


文章で読ませる話。
怪異は比較的オーソドックスなものだと感じた。

名前: 黒蜜椿 ¦ 13:30, Tuesday, Mar 10, 2009 ×


出方がオーソドックスですが、
筆致がそれを補っているような。
しかし、怖くて目を閉じる人が多いけど、
怖かったら、目をそらせないんじゃないかなぁ…
襲って来そうで怖いじゃん。と思うのは私だけでしょうか。
体験者には恐ろしかった事でしょう。

文章1 構成1

名前: ほおづき ¦ 09:04, Wednesday, Mar 11, 2009 ×


よくあるネタを巧みな文章でカバーしているが、意外性皆無。 記憶に残る話ではない。
文章・1 構成・0 ネタ・−1 恐怖・0

名前: 暗沌子 ¦ 15:10, Wednesday, Mar 11, 2009 ×


怪奇0 文章1
文章力で補おうとされてますが、怪奇がどうも定番なので、予定調和的展開となり、怖い感じがうすれますね。雰囲気は出ているんですが…。

名前: じゅりんだ ¦ 16:43, Wednesday, Mar 11, 2009 ×


話の内容が薄いのに文章が濃くアンバランスな感じがします。

名前: 悪夢狂乱丸 ¦ 17:29, Friday, Apr 03, 2009 ×


ということは、見えていたのは北村さんだけで、同僚には見えなかったわけですね。
怪異は珍しくないと言えるのに、車の屋根にとりついてからの描写が悪夢に魘されそうなほど怖い。ものすごく怖いです。

名前: ひ ¦ 10:37, Tuesday, Apr 07, 2009 ×


描写が上手いので小粒な怪異をよくカバー出来ていると思います。

名前: SPダイスケ ¦ 17:27, Sunday, Apr 26, 2009 ×


何と言うか、描写がとてもお上手で見入ってしまいました。
本当に自分がそれを見ているかのようなリアルさです。
他のお話も是非読みたい。

名前: 緋咲 ¦ 02:49, Tuesday, Apr 28, 2009 ×


文章・・・1
希少度・・・0

靄の件は夜の高速道路ではよくあることのようですね。
その後に続く顔の出現はありきたりとはいえ想像すると強烈に思えます。
そう想像させてくれたのは文章のお陰でしょう。

運転している方には見えなかったのでしょうか?
もし見えていたら運転を誤っていたかもしれず、見えなくて良かったということでしょうか。

名前: 鹿太郎 ¦ 23:55, Wednesday, Apr 29, 2009 ×


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