超-1/2010審査用チェックリスト
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福嶋さんは、一見すると弱々しい男である。いつも気弱な微笑みを浮かべ、己を主張するということが無い。会社でも目立たず、家庭でも空気のような存在である。 久しぶりに待ち合わせたのだが、人ごみの中に紛れた福嶋さんを探すのは一苦労だった。元気そうだなと笑いかけると、福嶋さんは曖昧に微笑み返してきた。怪我でもしたのか、腕に包帯を巻いている。 「うん。まずまずだよ」 その声を聞いて驚いた。 「風邪でもひいたか。えらくしゃがれた声だな。それにその腕の包帯はどうした? 」 「それがね。言っても信じてもらえるかどうか… 」
福嶋さんが妻と娘を連れ、ドライブに出かけたのは三日前のことである。 隣県で開催される花火大会が目的地だったという。思ったよりも支度に手間取った為、普段は使わない山道に車を向けた。 何とか間に合いそうだなと安心したのも束の間、娘が急に苦しみだした。幼稚園から戻った時は何とも無かったのだが、額を触ると、かなりの熱があるのが判る。 いずれにせよ、今から戻るのはかえって時間が掛かる。このまま進んで病院を探すことに決め、スピードを上げた。しばらく進むと展望台が見えてきた。 突然、娘が吐き気を訴え、福嶋さんは慌てて車を止めた。 「真奈ちゃん、あっちの草むらに行きましょね」 妻に介抱を任せ、福嶋さんは展望台の端に設置してある自販機に向かった。先客がいる。長い髪、華奢な背中。赤いワンピースを着た女だ。 「あの…すいません、先に買ってもいいですかね? 」 返事が無い。 「あのぅ…すいません」 福嶋さんはもう一度話しかけた。それでもまだ、その女は退こうとはしない。さすがにムッとし、抗議しようと女の横に立った福嶋さんは、悲鳴をあげてへたり込んでしまった。 「顔が無かったんだよ」 正しくは、口から上が叩き潰されたようにグチャグチャな肉の塊になっていたという。女は、手探りで福嶋さんを見つけると、いきなり腕に噛み付いてきた。 子供の頃から口喧嘩一つした事が無い福嶋さんは、死に物狂いで女を蹴り飛ばした。のろのろと這いつくばる女を尻目に、肉片を噛み千切られた腕を押さえ、福嶋さんは逃げた。 妻と娘が、草むらから出てくるのが見える。 「淳子、真奈を連れて車に乗れ! 」 ぽかん、と口を開けたまま動こうとしない妻に舌打ちすると、福嶋さんは後ろを振り向いた。驚いたことに、女はすぐそこまで来ている。 ここでようやく、二人とも女に気づき、盛大な悲鳴をあげた。その途端、女は目標を変えた。 「もしかしたらってその時思ったんだよ。こいつ、目も鼻も無いから、音で相手を探してるんじゃないかって」 福嶋さんは唇に人差し指を当て、声を出すなと合図を送った。妻は自分と娘の口を手で押さえ、目を見開いて女の姿を追っている。目標を失った女は、耳を澄ませるかのように首を傾げている。 どうやら諦めかけた女が、ふらふらと歩き出そうとした時、妻の携帯が鳴った。女の足が止まる。くるりと振り向くと、女は歯を剥き出して笑った。 あまりの恐怖に我慢できなくなった娘が泣きだした。 ここで、福嶋さんは自分でも信じられない行動を起こした。 福嶋さんは、大声を出して女を誘き寄せたのだ。 「こっちこっち、こら、こっち見ろ化け物! こっち来いよ、こらっ! 」 女が来るのを見届け、福嶋さんは大声を出しながら走り出した。時折、立ち止まって大声で女を罵倒し、また走り出す。振り向く度に、女が近づいて来ているのが判る。 それでも福嶋さんは走り続け、叫び続けた。 「もう駄目だ、もう動けないって諦めかけた時にね」 大音量で音楽を鳴らしながら、山道を車が下ってきたという。全部で六台、派手な若者達が乗っている。女が気を取られた一瞬の隙に、福嶋さんは草むらに身を潜めた。 音を立てないように急ぎながら展望台に戻り、福嶋さんは妻と娘を連れ、無事に山を降りることができたという。
福嶋さんは、一見すると弱々しい男だが、実は強い男である。
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■講評
福嶋さん、男っすねぇ。ちょっと途中で涙ぐんでしまいましたw 無差別に攻撃してくる女も怖いです。なかなか楽しめました。こういった怪談は大変好みです。書き出しと最後の文章がリンクしているのも、工夫の跡が見られました。 ネタ・1 構成・1 文章・1 恐怖・0 |
名前: 一反木綿豆腐 ¦ 15:44, Saturday, Feb 20, 2010 ×
これはとんでもないものに遭いましたね。非常にインパクトがあります。 噛まれたところは大丈夫なのでしょうか。 その後に何か起こったりとかはしていないのでしょうか…。 福嶋さん、心の強さだけじゃなく、こんな事態でも冷静に対応できるところが素直にスゴイと思いました。
文章の方、概ね悪くないとは思うのですが、全体的にあっさりとした感じで書き上げられているので、雰囲気というか、緊張感が今ひとつ伝わってきにくかったように思えます。 例えば、女に噛み付かれた時の描写も、肉片噛み千切られる程のものである事が解り難かったです。ここは、どういう痛みがあったとかを描写出来ていると、迫力のある場面になったと思います。 他にも女が追ってくる様子も、這ったまま追ってきてるのか、立ち上がってどういった足取りで追ってきているのか等、この辺も欲しかったところですね。 この話の怪異の肝は、なるべく詳細に、かつ、スピーディに書き上げられていると、かなりの良作になったのではないか、と思います。
文章:0 希少性:2
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名前: ていさつUFO ¦ 19:42, Saturday, Feb 20, 2010 ×
状況を想像するとかなり壮絶で、そして立派な武勇伝であると言える。 ただ惜しいのは女の顔に関する描写。 「叩き潰されたようにグチャグチャな肉の塊」とあるが、それだけではなくより鮮血迸るような生々しさ、生者ではないと思わせる一歩踏み込んだ描写が欲しかった。
また、冒頭で福嶋氏が喉を潰した描写があるのだから、ラスト近くの誘導の場面でもそこを強調し、だから喉が潰れたのかと腑に落ちるようにすべきだったように思う。 |
名前: amorphous ¦ 22:18, Saturday, Feb 20, 2010 ×
この文章は、ただ福嶋さんが、ドライブの途中、娘が急に苦しみだしたので、自販機の前に赤いワンピースを来た長い髪の華奢な背中の幻、言わば亡霊かもしれない女が、襲いかかってきても、見た目とは違い火事場の馬鹿力で、勇敢にも戦う男であるから。 |
名前: 天国 ¦ 22:51, Saturday, Feb 20, 2010 ×
文章力 +1 稀少度 0 怖さ 0 衝撃度 +1
おとーさんの株が上がりましたね。 女が噛みついてきたって…傷跡を見るたびにそのことを思い出して恐怖がよみがえるのでは? 自分がオトリになって女を引き寄せる場面は、何だか「アメリカ映画によく出てくる勇敢なパパ」を連想させますね。 最後の繰り返しは無くてもいいと思う。 |
名前: つなき ¦ 13:44, Sunday, Feb 21, 2010 ×
音にだけ反応する。なかなか面白い怪異です。 しかも実体がある気配。 滅ぼした訳ではないので、怪異もまだ続いていそうですね。 文章も緊迫感が伝わって良かったです。 |
名前: 捨て石 ¦ 13:55, Sunday, Feb 21, 2010 ×
これは凄い体験なのではないかと暫し唖然とした。
普段はうだつの上がらない男が ドライブ先で凶暴なゾンビ?に遭遇し 愛する家族の為に勇敢に立ち向かう・・という。 まるでホラー映画さながらの体験談。
素材はかなり恐ろしいのにタイトルの付け方や 福嶋さんのキャラ、著者のコミカルな味付けで 何処か呑気な仕上がりになっている。 しかし 先に飲み物を買ってもいいかと尋ねただけなのに 急に噛みつくなんてアンタそりゃないだろ ・・と思いながらも ハラハラしながら最後まで読ませて頂いた。
確かにこれは俄かには信じがたい話。 でも妻子も目撃している。 さらに肉片を噛み千切られる程の大怪我。
医者には何と言ったのだろう。 ちゃんと[ゾンビに噛まれた]で納得してもらえただろうか。 その傷口に妙なウィルスは見つからなかっただろうか 等、いろいろ心配だ。
怪我した御本人はお気の毒だが 父の威厳も怪我の功名で取り戻せたのではないだろか。 以前あったのか知らないけど。
信じるに足りる情報がありながらも あまりの突飛さに動揺する。 この話を信じるか否かで 全く受け止められ方が違ってくる。
そして私は信じる。 だって面白いから。
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名前: RON ¦ 10:29, Tuesday, Feb 23, 2010 ×
顔がぐずぐずに潰れた女。なんでそんなものが、そこに実存しているんでしょう。ものすごく嫌です。 福嶋さんが頼もしい。 |
名前: ぬんた ¦ 13:51, Tuesday, Feb 23, 2010 ×
なぜ声が嗄れているのか、腕の怪我は何によるものなのか、どこで「強い男」に変貌するのか?とワクワクしました。そして期待以上のものが出てきました。 福嶋さんが体験した三日後にお話を伺ったことと、「一見すると弱々しい男」であることが活かされています。 女と遭遇してからがやや駆け足で物足りない部分もあるけれど、そのおかげで緊張感が維持できているような気もするので、ここは難しいところ。(+1)
女については、もう、何でしょうねこれは。猛獣か。どこにでも現れて誰にでも噛みつきそう。 凶暴なんだけど音を頼ってアワアワしたりもする、というのは何だか珍しいパターンです。 目玉がなくとも見えているかのように襲ってくるものもいるようだし、うーん、あちらの方々はバラエティに富んでいる。(+2) |
名前: 雨四光 ¦ 01:47, Wednesday, Feb 24, 2010 ×
福嶋さんの漢っぷりに、感動しました。私もこういう人間になりたい…。
この時点で女の正体は判らないですが、少なくとも肉片を齧り取るだけの物理的干渉ができる実体を持っているんですよね。「音で獲物を判断する」という行動も、霊的な存在というよりは生身のモノのような気がします。もっとも、「霊的な何か」がチカラを得て実態を持っていると想像しているだけで、怪我をした生きている女性がいたとは思いません。
娘さんが体調を崩したのも、この女の干渉からなのでしょうか。それともそこは偶然か? いろんな憶測が楽しめるお話でもありますね。 ところで福嶋さんは、噛まれた傷は病院で診てもらったのでしょうか? 変な想像ですが「どうしました?」と訊かれて、何と答えられたのかが気になります。ただ不衛生な上に深い傷だと予想されますので、破傷風等感染症が怖いですね。あと、変なモノが伝染してないかとかも…。すみません。不謹慎な想像をしております。
文章は判り易く、勢いがあって非常に没頭できました。
・臨場感+1 ・没入度+1 ・表現+1 ・恐怖+1 |
名前: ダイタイダイダイ ¦ 00:01, Thursday, Mar 04, 2010 ×
娘の具合が悪くなった時点ですでに魅入られていたのだと思うし、こんな化け物じみたものに追いかけられるのは真っ平だと思うから。 |
名前: 極楽 ¦ 15:28, Tuesday, Mar 09, 2010 ×
文章0 恐怖0 希少1 魅力0
究極のタイミングで鳴る携帯に、おおっと思いました。 もう、なんでこんなときに鳴るのよ、バカバカ!ってすっかり登場人物の気分に。 福嶋さんすごいなぁ。父は強し、ですね。暴走族もたまには役に立つ(笑) しかし死んだ後も目が見えないという女の人は、ずっと何も見えない何の臭いもしない世界で彷徨い続けているのかと思うとちょっとせつなくなった。 そこでせつなくなっちゃった私が悪いんですけど、話の持っていき方と自分の中でのイメージがそこで異なってしまい、ハッピーエンドチックな終わり方で(いや、その方が良いんだけど)あれ?終わっちゃったの?と物足りない気分に。 でも話としてはタイトルから始まり、終わりと一貫していて気持ちが良いです。 |
名前: 幻灯花 ¦ 11:10, Thursday, Mar 18, 2010 ×
最初と最後の書き方をリンクさせたのですね。 工夫を凝らした作品だったと思います。
勿体無いのは、ただ単に「肉片を噛み千切られた腕」とあっさり書いてしまっているところ。 女の顔の描写もあっさりと書かれてしまっているので、怪異自体は全体的にみると怖いものなのに、怪異よりも父親の武勇伝の方が目立ってしまったように思えました。 「女は歯を剥き出して笑った。」ともあるので、しっかりと全部に歯がついていたのか、ぼろぼろだったのか。 それとも「グチャグチャな肉の塊」から歯のようなものが垣間見えたのか。
そういった描写を細かく書くだけでも緊迫感が伝わってくる作品だと思いました。
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名前: 鶴斗 密喜 ¦ 19:45, Saturday, Mar 20, 2010 ×
どうなるのかとハラハラしながら読みました ちょっと感動! 怖さも家族を守る強いお父さんの姿も楽しめてお徳! |
名前: ゼリコ ¦ 18:21, Sunday, Apr 04, 2010 ×
おとーさんは強い! 魔に追われる話も時々聞きますが、このお話はなんだか頼もしい話ですね。 で、その女性の悪霊だか妖怪は…音楽をガンガンかけてやってきた人たちに憑いて行ったのでしょうか。 |
名前: どくだみ茶 ¦ 21:57, Thursday, Apr 08, 2010 ×
怪談点・・・0 文章点・・・2
まるでアメリカ映画のような話であり、普通に聞いたのでは信じ難かったでしょう。 この作品をすんなり読むことが出来たのは書き手の文章力に負うところが大きいと思います。 構成もしっかりと計算されており、そのどれもがうまくいっています。
そのような化け物が現代の日本にも居るというのは実にワクワクすることですね。
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名前: C班 山田 ¦ 02:26, Monday, Apr 19, 2010 ×
欧米テイストな怪異ですが、何よりも体験者の男気が素晴らしい。この男気もちょっと欧米テイストだなとか思ったりしたのですが(笑)。それにしても、そんな女が出たら、たまりませんね |
名前: 丸野都 ¦ 23:40, Monday, Apr 26, 2010 ×
ネタ・恐怖度:0 文章・構成 :1
人間ドラマはさておき、怪異はかなり強烈である。登場が唐突であるうえに、襲ってくるのもまた唐突である。表情がないために行動原理が読めないのも恐ろしい。 よく書けた話なのだが、途中からホラー小説を読んでいるように思えてきた。話は良いのだが、途中の展開がいやに物語じみているような印象を受ける。(女が音を頼りに襲ってくるのに気付くところや、タイミングよく携帯が鳴る場面など) とはいえ怪談としてはよくまとまっている良作である。
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名前: オーヴィル ¦ 21:23, Thursday, Apr 29, 2010 ×
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