遺伝記/2008
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カランカラン
「歯がゆいというか何というか」
 昼休みに入った焼き肉屋で石焼きビビンバをかき混ぜていると、不意に堺が漏らした。
「何が?」
「左耳の奥に、デカい耳カスが引っかかってるみたいなんだよ」
「くっそ、聞くんじゃなかった。これからメシだってのに……」
「そうそう。聞いたお前が悪い」
 堺は笑いながら、カルビ丼をかき混ぜている。
 それはかき混ぜなくてもいいだろ。
「頭を動かすたびに、耳の奥でさ、カラン、カラン、って音がするんだよ」
「おいおい、それはいくら何でもありえないだろ。せいぜいカサカサ程度じゃないのか?」
「いやいや、本当にカラン、カラン、なんだってば」
「それ、絶対耳カスじゃないって。別の何か……あ、そうそう、こんな話を聞いた事あるか?
 どっかのOLが、急に耳の聞こえが悪くなったんで、耳鼻科に行ったらしい。
 医者が彼女の耳の中を見るなり、うっ、と呻いたらしい。何でだと思う?」
 俺は意地悪い笑みを浮かべて堺の顔を見る。
 堺は俺の目論見通り、無人のハイウェイに放り出された子供のような顔になった。
「な、なんだよ、おい、もったいぶるなよ……」
 堺の声を楽譜に書き出すと、全部にシャープが付いているに違いない。
 俺は笑い出しそうになるのを堪えて、囁くように喋った。
「彼女の耳の中は、蟻の巣になってたのさ」

「ちょ!」
 堺が大声を上げて立ち上がった。
 店内の喧噪がぴたっと止まり、全ての視線が堺に注がれる。
「お、おい……これは都市伝説だってば。落ち着けよ」
「落ち着けるかよ気持ち悪い! あああ、勘弁してくれよ!」
 そう言いながら、堺が左耳を下にして頭を振る。
 プール上がりの子供のようだが、三十代のサラリーマンが焼き肉屋の店内でそれをやるのは、あまりにも不気味だ。
 その堺の方から。
 カラン、カラン。
 音がした。
 堺が頭を振る度に、微かに、乾いた音が聞こえてくる。
 カラン、カラン、カラカラカラ……。
 何かが落ちて、テーブルの下に転がった。
 思わずテーブルの下を覗き込み、それを拾い上げる。
 それは、カラカラに乾燥した梅干しの種だった。

「おい、これ……」
 体勢を戻し、掌に乗せた種を堺に差し出し、その顔を見て、言葉を失った。
 堺の顔から、全ての人間らしさが失せていた。
 ガラス玉のような眼が、瞬きもせずに俺の顔を見つめている。
「お、おい……」
「何だよ有田。俺の顔に、何か付いているか?」
 堺の顔をした何かが答える。
「さっさと食べようぜ。冷めたらマズくなる」
 促されて、石焼きビビンバを口に運んだが、何の味もしなかった。

 それからは、何事もない日々が続いている。
 社内での堺の態度におかしいところはない。
 以前よりもしっかりしていて、業務がスムーズになったくらいだ。
 だが、時折、俺に見せるあの顔。
 なにもない、空っぽの顔。
 それを見る度に、氷風呂に突っ込まれたかのような、逃げ場のない寒さを感じる。

 あの梅干しの種は、今でも手元にある。
 これが堺そのもののような気がして、どう扱って良いものか困っている。




05:54, Thursday, Jul 17, 2008 ¦ 固定リンク ¦ 講評(19) ¦ 講評を書く ¦ トラックバック(6) ¦ 携帯


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 梅干の種で耳に入ると言うか出てくるサイズだと小梅ですか。 >だが、時折、俺に見せるあの顔。 なにもない、空っぽの顔。 これは菴... ... 続きを読む

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話は面白いと思うのだが、不必要な要素も多い。前半、リズムを作ろうとしてか、ちょこちょこと妙に笑いに持っていこうとしているようだが、気が削がれるばかりで失敗している。種が出る前と出た後の堺の明確な変化を示していないため、どう変わったのかが今一つわかり難 .. ... 続きを読む

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» 【+5】カランカラン [恐怖の脳みそから] ×
全体の筋運びは少しもたつく箇所もあるのだが、オチが素晴らしい。ぴしっとはまるべき場所にはまった快感を感じさせる余韻である。これで前半の堺の愚痴や、都市伝説の解説がすっきりした描写なら更に良くなったと思う。 カランカラン アイデア +1 描写力  +1 .. ... 続きを読む

受信: 00:10, Tuesday, Sep 23, 2008

■講評

-1
そんな気持ちの悪い種は取っておかずに捨てましょう(笑)ようは耳から梅干の種が出てきたぐらいで、これといった怪異はおきていませんね。堺君がちょっと変わったぐらいですか。最初の会話の部分のとっかかりが悪かったのでスムーズにお話に入っていけませんでした。
【アイデア】0 【描写力】-1 【構成力】0 【恐怖度】0

名前: 如来 ¦ 11:08, Thursday, Jul 17, 2008 ×


-2
耳から梅干の種という突拍子もない展開に少しビックリ。途中のOLの都市伝説は不必要に思いました。その分、種が何かの動きを見せて欲しかった。堺君も社内では特に変わった様子は無いという部分で恐怖を下げてしまった様に思います。

【アイデア】+1、【描写力】-1、【構成力】-1、【恐怖度】-1

名前: 茶毛 ¦ 20:56, Thursday, Jul 17, 2008 ×


1
魂の一部でも出たのでしょうか?
発想は面白いとは思いますが、ちょっと耳と梅干の種と焼肉と、なんかこう関連性がなさ過ぎて無理矢理こじつけた感が否めません。
あと、OLのくだりはあまり絡んでないようなので、不要かなぁと思いました。

【アイデア】+1 【描写力】 0 【構成力】 0 【恐怖度】 0

名前: PM ¦ 21:23, Thursday, Jul 17, 2008 ×


1
「恐竜の脳は梅干くらいの大きさしかなかった」という説を思い出してしまった。
怪異としては小粒過ぎ。梅干を出した堺くんが、もっととんでもない変化を見せてくれればよかったのだが。

名前: ナルミ ¦ 00:20, Friday, Jul 18, 2008 ×


-1
都市伝説という伏線もあり、話自体は悪くないのに、何だか仕上がりがいまひとつ・・・。
昼食時の忙しい時間帯にも関わらず堺の一声で、カランカランが聞き取れる程に焼肉屋の静けさが続いているものだろうかとか、業務がスムーズって具体的にどんな仕事なのかとか、やや説得力に欠ける箇所が見られる。そのために話全体がもたらす怖さを出し切れていないと思う。
また、主人公が、堺の種を彼に何の相談もせずにずっと持っている理由も曖昧であり、全体的に見て人物の思考で話が動くというより、プロット優先で作られた感がある。

【アイデア】0、【描写力】-1、【構成力】0、【恐怖度】0

名前: 廻転寿司 ¦ 01:04, Friday, Jul 18, 2008 ×


0
種をきっかけに何かが始まるのかなと期待していたら、特に何も起こらず終わってしまったので残念でした。

【アイデア】0 【描写力】0 【構成力】0 【恐怖度】0

名前: ぼりす ¦ 12:12, Friday, Jul 18, 2008 ×


1
面白い話なのですが、プロット優先の為か、途中で話がダレたような気がします。
不必要な描写も多いように思います。
構成をもう少し考えれば、大変面白い話になったのではないでしょうか。

発想・1 文章・0 構成・0 恐怖・0

名前: 暗沌子 ¦ 14:14, Friday, Jul 18, 2008 ×


2
軽めの話としてこれで文句ないと思います。軽い、ということで減点しました。

名前: hirosi ¦ 13:17, Sunday, Jul 20, 2008 ×


2
アイデア +1
描写力 +1 
構成力 ±0
恐怖度 ±0

それ以来人柄が変わってしまったというところが怪談だが、何となく違和感を覚えるというくらいの変化で激変ではない、というところが帰って予後の良くない方向を感じさせる。
でも自分の耳から落ちた物に無関心というのはちょっと不自然かな。

名前: くりちゃん ¦ 13:50, Sunday, Jul 20, 2008 ×


-1
ちょっと弱いかな。俺君の一人相撲みたいで。

【アイデア】+1、【描写力】-1、【構成力】-1、【恐怖度】0

名前: 尚休 ¦ 16:28, Tuesday, Jul 22, 2008 ×


1
 耳から種が落ちるってのはいいですね。
 思いつきませんでした。
 うるさいってもいいですしね。

 確かに種が出てくるまでが長いですかね。
 ラストも思い切って変になっちゃって良かったんじゃないかと思います。
 いろいろ言われるかもしれませんけど、そういう思い切りもあっていいんじゃないかと。

【アイデア】+1、【描写力】0、【構成力】0、【恐怖度】0

名前: ユージーン ¦ 22:19, Wednesday, Jul 23, 2008 ×


1
話の「種」となる梅干を使うことが第一目標になっている気がします。
都市伝説の部分がある意味、一番インパクト大でしたし。
耳から梅干しの種が落ちたりと細かく見ると怖くて面白いだけに残念です。

【アイデア】+1 【描写力】0 【構成力】0 【恐怖度】0

名前: 華鹿 ¦ 17:01, Thursday, Jul 24, 2008 ×


3
金属的な音なので、まさか梅干しの種だったとは。喫茶店の扉にぶら下げてるベルのようなものをイメージしていたので。音変えたほうがいいかも。お話がおもしろいのでちょっとした疵ですが。

【アイデア】1【描写力】0【構成力】1【恐怖度】1

名前: ひ ¦ 23:01, Sunday, Jul 27, 2008 ×


1
梅干の種が出てきたのは面白いが、話が中途半端に終わってしまった気がする。
怖くするか、コミカルにするか統一した方がいいかもしれない。

名前: うさるちゃん ¦ 11:41, Friday, Aug 01, 2008 ×


2
耳から梅干の種が出て来るアイデアが面白い。テンポがちょっともたつくのが残念。


【アイデア】+1 【描写力】+1 【構成力】 0 【恐怖度】 0

名前: 猫塚イスマ ¦ 00:14, Saturday, Aug 02, 2008 ×


4
堺さ〜ん(T−T)
帰ってきて。
もいっかい、種を耳に入れてやってください!
おもしろいです。好きです。
さらっとした文章も、良いです。

名前: ちゅん ¦ 12:53, Wednesday, Aug 06, 2008 ×


2
アイデア+1 描写0 構成+1
梅干しの種の様な大きなものが耳に入っていたというのは少し無理がある。仮に入っていたとして、カランカランと音がするというのも引っかかる。とはいえ、軽妙なジョークも面白いし、オチも思わずにやりとさせられた。良い作品であると思う。

名前: 戯作三昧 ¦ 13:23, Thursday, Sep 18, 2008 ×


2
捨てられないっていうのがいいな。梅干しの種にしか見えないのにね(笑)この作品も都市伝説として充分通用すかもしれません。

【アイデア】1【描写力】0【構成力】1【恐怖度】0

名前: 蓮 ¦ 22:18, Sunday, Sep 28, 2008 ×


 追記:
 変になるっていうのは、同僚の異常さをもうちょっと強調しても良かったかなという事です。はい。
 私の文章が変でした。^^;;;

名前: ユージーン ¦ 17:28, Tuesday, Sep 30, 2008 ×


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