遺伝記/2008
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足湯
 疲れが酷く、血行が悪い。
 ほぼ毎週、カイロプラクティックに通っているが、全く改善しそうにない。
 夏場になると、オフィスの冷房がきつくなり、益々体調が崩れてくる。
「足湯がいいよ」
 姉のように慕っている秋田先輩が、休憩時間に教えてくれた。
「明日、良い物を持ってきてあげる」

 翌日、先輩がポーチから取り出したのは、ちょっと大きめのティーバッグがいっぱい入っているビニール袋だった。
「お茶ですか?」
「ううん。蜜柑湯。天日干しした蜜柑の皮が入ってるの。血行促進にいいし、香りも甘酸っぱいのよ」
「へぇー。いいんですか、頂いちゃって?」
「いいのいいの。親戚のお婆ちゃんからのもらい物だから、そんなに気にしないで。効果は保証するわよ」
 そう言えば、秋田先輩は肌つやも良く、元気はつらつで良く食べる。
「気持ちよすぎて寝ちゃわないようにね」

 その夜、早速湯船にひとつ、蜜柑湯の袋を浮かべる。
 湯の色は変わらないけど、みるみるうちに甘酸っぱくてさわやかな香りが、浴室を満たした。
 浴槽の縁に腰を下ろし、両足を湯に浸す。
 身体の芯から、緊張が解れていくのがわかる。
 深く息を吸い込こみ、息を止めて七つ数え、ゆっくりと息を吐き出す。
 深呼吸を繰り返す度に、疲れが取れてゆく。
 足先から徐々に頭の先まで、血が巡っていくのがわかる。
 蜜柑畑の中にいるみたい。
 これまで味わった事のない、満たされてゆく気持ち。
 時間を忘れて、しばし目を閉じ、その快感に身を委ねた。

 寒気に目を覚ました。
 どうやら、余りの気持ちよさに眠ってしまったらしい。
 風邪を引いたら元も子もない。
 早くあがろうと、浴槽から足を抜いた時に気付いた。
 お湯がない。
 一滴も残っていない。
 ティーバッグだけが、浴槽の底に貼り付いている。
 栓はきっちりとはまっている。
 首をかしげながら、浴室から一歩、足を踏み出す。
 たぽん。
 お腹が揺れた。
 見ると、ぱんぱんに膨らんでいる。
 その途端、激しい尿意を覚え、身体を拭くのも忘れてトイレに駆け込んだ。
 間もなくトイレの個室が、蜜柑の香りに満たされた。
 それから朝まで、何度もトイレに駆け込む事になった。

「なんか、元気そうね。血色もいいみたいだし」
「そうですか?」
 言いながら、つい笑みがこぼれる。
「よっぽど、あの蜜柑湯と相性が良かったみたいね」
「そうみたいです。先輩も、やっぱり?」
「え? まあ、調子は良いわね」
 あれ?
 先輩には、私の質問の意味が伝わっていない。
 と言うことは、あれは私だけの体験なのか。
 ま、いっか。
「先輩、ありがとうございます。また、お裾分けをお願いしますね」

 さて、今晩もいっぱい吸って、いっぱい出すぞ。



05:45, Friday, Jul 18, 2008 ¦ 固定リンク ¦ 講評(18) ¦ 講評を書く ¦ トラックバック(6) ¦ 携帯


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■講評

0
怪談から健康グッズのお話になってしまいましたね。(笑)
身体に吸収したということでしょうか。アイデアに少々無理があるように思えました。もっと気持ち悪い感じがあれば評価もかわったのですが。元気になった目出度しということなので、少しも怖くありませんでしたね。
【アイデア】0 【描写力】0 【構成力】0 【恐怖度】0

名前: 如来 ¦ 14:02, Friday, Jul 18, 2008 ×


-1
ちょっと不思議なデトックス?
蜜柑風呂でどうなってしまうのだろうと思ったら、健康になっちゃいましたね。
羨ましいです。
怖い要素がありませんでした。

【アイデア】0【描写力】0【構成力】0【恐怖度】-1

名前: ぼりす ¦ 18:53, Friday, Jul 18, 2008 ×


1
蜜柑湯、ホントに効果がありそうで、その辺がリアルでした。
湯が吸収されちゃったところは怖いと言えば怖いですが、これだけで終わってしまったのでちょっと物足りない気もしました。
最後に先輩がちょっとおかしくなってたりすると不気味なのですが、なんだか明日は明るい!って気分になってしまいますね。

【アイデア】 0 【描写力】+1 【構成力】 0 【恐怖度】 0

名前: PM ¦ 18:54, Friday, Jul 18, 2008 ×


0
さ、今ならこの蜜柑湯をお試し価格で!
と言いたくなってしまう話です。
視点を変えたら、凄く怖い話になる可能性があるのでは。

発想・1 文章・0 構成・0 恐怖・−1

名前: 暗沌子 ¦ 23:47, Friday, Jul 18, 2008 ×


2
途中まではけっこういい雰囲気だったのだが、ラストでハッピーエンドになってしまったのが残念。不気味な余韻でも付け加わっていればもっとよかったのだが。

名前: ナルミ ¦ 23:53, Friday, Jul 18, 2008 ×


-1
風呂で目が覚めた後の事が、小さな怪にしか感じられない。また、主人公が健康になっているようなので、ますます内容が怖さから離れてしまう。
主人公も我が身を心配していないし、そのような主人公の思考を逆に怖い話として読者に印象づけることにも成功していない。

作者の意図としては、主人公の天然さを出すことで、やがて知るであろうこのアイテムの本気モード・・・を浮かび上がらせようと企んでいたのかもしれないが(もし健康ホラーという新ジャンル開拓のつもりで書いたのなら、選択肢を誤っている)、この話のどこにも不吉の気配を潜り込ませられなかった事が失敗ではないかと思う。例えば最後の先輩との会話の食い違いに大きな段差をつけたり、怪に鈍い主人公の天然さを別のエピソードで強調する方法もあるのでは。

日々の生活の中で何が起きた(気がついた)瞬間に自分なら怖く感じるか、それを作品へ反映させる事が今後の課題のように感じた。

【アイデア】0、【描写力】0、【構成力】0、【恐怖度】-1

名前: 廻転寿司 ¦ 01:20, Saturday, Jul 19, 2008 ×


-2
怖さが全く感じられなかった。途中までの展開でどうオチをつけるのかと期待した分、物足りなさが感じられた。

【アイデア】0、【描写力】0、【構成力】-1、【恐怖度】-1

名前: 茶毛 ¦ 01:53, Saturday, Jul 19, 2008 ×


2
アイデア +1
描写力 +1
構成力 ±0
恐怖度 ±0

湯船に蜜柑湯の素を入れて香りの漂うところは本当に気持ちよさそうだ。疲れも取れたことだし(夜通しお手洗いに行っていたら睡眠不足で翌日辛いと思うんだけど)
明日への活力、健康増進…といいながら、ちっとも怖くないんですけど!

名前: くりちゃん ¦ 14:14, Sunday, Jul 20, 2008 ×


1
アイディアは良いのに怖い方へ走ってくれなかったのがもったいなく感じました。

名前: hirosi ¦ 00:34, Wednesday, Jul 23, 2008 ×


1
 足湯ですか。
 おもしろい着眼点ですよね。
 お腹パンパンって所もおもしろい。

 良いラストなら不気味な方に振って、悪いラストなら最初に良い方に振っておけばお話としては座りがいいかな、と。
 小手先のやり方ではありますが。

【アイデア】+1、【描写力】0、【構成力】0、【恐怖度】0

名前: ユージーン ¦ 22:24, Wednesday, Jul 23, 2008 ×


2
あ・・吸ってたんですね。
てっきり無意識の間に飲み干していたのかと思いました。
怖くは無いけど、面白かったです。

【アイデア】+1 【描写力】+1 【構成力】0 【恐怖度】0

名前: 華鹿 ¦ 21:53, Thursday, Jul 24, 2008 ×


1
主人公が眠っている間に足からヒゲ根がたくさん伸びて蜜柑湯を啜っている。と、こんな情景が浮かびました。

【アイデア】1【描写力】0【構成力】0【恐怖度】0

名前: ひ ¦ 17:40, Tuesday, Jul 29, 2008 ×


1
そう来るとは思いませんでした。
お風呂のお湯全部吸っちゃったんですねw
睡眠不足でも老廃物出す方がお肌にいいとは・・・w

名前: うさるちゃん ¦ 11:57, Friday, Aug 01, 2008 ×


0
ウケました〜。好きです。

【アイデア】+1、【描写力】0、【構成力】0、【恐怖度】-1

名前: 尚休 ¦ 21:36, Tuesday, Aug 05, 2008 ×


3
欲しい。その蜜柑湯の元。
怖くはないけど、これはこれで
いいと思わせてくれる、読ませてくれる
お話ですね。
でも、ちょっと広末涼子のCMのお茶を
思い出しちゃった…。

名前: ちゅん ¦ 13:04, Wednesday, Aug 06, 2008 ×


1
お話は面白いと思います。でも怖くないですよね。


【アイデア】+1 【描写力】 0 【構成力】 0 【恐怖度】 0

名前: 猫塚イスマ ¦ 01:33, Friday, Sep 19, 2008 ×


2
アイデア+1 描写+1
怖くないのが難点だが、これはこれで悪くない。
安心して読めるし引き込まれる。

名前: 戯作三昧 ¦ 11:43, Friday, Sep 19, 2008 ×


1
そんな健康法ないと思うよ〜!(笑) これって寝てないと吸わないんでしょうね。よく分からない怪異でもありますが何だか不思議な余韻が残る作品です。

【アイデア】1【描写力】0【構成力】0【恐怖度】0

名前: 蓮 ¦ 21:58, Sunday, Sep 28, 2008 ×


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