遺伝記/2008
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恐怖箱 遺伝記

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指人形
 ミカンをどっさりとこたつのまん中のかごに入れる。
 そうすると子供が必ずやる遊びが指人形だろう。
 ミカンの底部の中心に人差し指をぶすっと差し込む。ミカンを頭部に見たてて人差し指を曲げておじぎをさせたり、左右に振ったり上下に動かしたり。ただそれだけの事が子供には面白かったりする。

 佐々木さんは趣味がパソコンである。
 趣味などという生やさしいものではなく、人生の一部というべきかもしれない。部屋に帰ればまず愛用のノートパソコンを起動し、自分の自由になる時間を過ごし、ノートパソコンの前で食事をすませ、お風呂に入ってる間も終了させず、風呂を上がればまた画面の前に戻って画面と鏡を交互に眺めながらドライヤーで髪を乾かす。
 そんな彼女の困ったクセが寝落ちだ。
 寝落ちとは文字どおりパソコンの前で眠りに落ちてしまう事だ。正確に言うともうちょっといわれがある訳だが今はそれは置いておく。

「布団で寝ればいいとわかっちゃいるし、その方が疲れが取れるんだけど、あと10分、あと5分、あと1分と思ってる間に意識を失うんですよね。そうすると次の晩も早く眠くなっちゃうから良くないとわかってるんだけど、やっぱりあと5分って」
 麻薬である。彼女にとっては、であるが。

 寝落ちといっても朝までこたつの上で突っ伏して寝る訳ではない。しばらくすると不自然な姿勢にたえ切れなくなって目を覚まし、這うようにして寝床に潜り込む。翌朝、いつの間に移動したのかおぼえていない事もあるが、それでも移動しているのは間違いない。
 その晩も脊椎をゴリゴリ言わせながら頭を上げると、目の前に妙なものがいた。

 ミカンの指人形である。

 こたつの向こう側に隠れて指人形だけを天板の上に突き出すようにして、くねくねとおじぎをしたり、右へよっとっと、左へよっとっと、上下に揺れてみたりと本当に子供のようだ。
 普通なら一人暮らしのアパートに正体不明の人物の手が出てきたら恐怖に凍りつく所だが、あまりの眠さに神経が麻痺したせいか、彼女はみかんの踊りをひとしきり眺めた後、あろうことかそのミカンを上から叩いてしまった。

「こら。食べ物で遊ばない。もう遅いんだから寝なさい、って。いやほら、だって私、弟がいるでしょ。だから実家にいた頃の感じで」
 イタズラ好きの弟が目の前にいるような気がしたと言う。
 彼女の突然の行動に指人形の主は驚いたのかそのまま姿を消したらしい。あわてて彼女が伸び上がって見るとこたつの向うには誰も居なかった。

 それからミカンの指人形は彼女が寝落ちする度に姿をあらわした。指人形は彼女が見ている間は踊り続ける。彼女が叩くと消える。
 最初はさすがに気味悪く思ってできるだけ寝落ちしないように気をつけていたのだが、慣れてきて気がゆるんでくると以前と同じように寝落ちしてしまう。どうせ叩けば消えるのだ。
 彼女が寝落ちする度にそれは妙な踊りを披露してくれた。

 その晩、いつものように寝落ちから浮上すると部屋の雰囲気がいつもと違った。彼女の心の友であるノートパソコンがいつの間にか終了され、画面が真っ黒に塗りつぶされている。
 あれ? 寝落ちの前にわざわざ電源を落とす事なんてないのに。まさか故障じゃないよね? と思った時、いつものように目の前にミカンの指人形がいた。
 だが、その日に限ってそれは動き回る事なく、まるでうつむくように人差し指を曲げて止まっていた。
 なによ! 彼女は思った。別にミカンが悪いわけではない。だが寝起きの人間の考える事に理屈など通用しない。
 なによ。私が何をしたって言うのよ。

 そう思っていつも以上に力をこめてミカンを叩こうとした時、ミカンがこっちを向いた。
 そのミカンには顔があったのだ。
 まるで身体が凍りつくような冷たい目線だった。
 彼女がなおも怒りにまかせてミカンをこたつの向うに叩き落とそうとするとミカンの指人形が7つに増えた。
 7つのミカンと7つの手。
 14の目が彼女を射すくめる。

 彼女が動けば相手も動く。そんな気がして彼女はミカンを見つめたまま石像のように固まっていた。

 朝日がカーテンを明るく照らす頃、ミカンはこたつの向うに消えた。
 彼女はこたつの上のかごからミカンを取り出して袋に詰め、廃棄した。20個ほどあったミカンのうち、7つは底面に指を突っ込んだような穴があいていた。
 今まで、こたつの上のミカンに穴があったことはない。
「あったら気持ち悪くて食べられないでしょ」
 そりゃあ確かにそうだ。

 怖くなって部屋から逃げたりしなかったの? とたずねると否定された。
「だってさ、もらい物のミカンが来た日から始まって、ミカンを捨てたら出なくなったし。良く地縛霊っていうでしょ? この場合、やっぱりミカン縛霊って言うのかな?」
 そんな事をきかれても困る。

 彼女によるとお隣さんがミカンをくれたと言う。普段は絶対にそんな事をしない人であいさつもろくにした事がなったから不思議に思った。
「でもそのミカン、今までに食べたこともないくらい甘くておいしかったんだよね」
 心の底から彼女はそう言っているようだった。
 しかしどんなにおいしくても夜中に睨みつけてくるミカンはこたつの上に置きたくない。まして口にするなど。



   「あなたの知らない超こわ〜い話」9話 竹花出版刊




04:55, Tuesday, Jul 22, 2008 ¦ 固定リンク ¦ 講評(17) ¦ 講評を書く ¦ トラックバック(7) ¦ 携帯


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受信: 17:26, Friday, Sep 26, 2008

■講評

2
遺伝元のミカンはゲスト出演みたいになってるなあ… もう少ししっかり絡められたらもっとよかったのでは。
語り口と、この日常の延長にありそうな感じはなんとも言えず好きです。今夜にも自分の家に現れそうですね。

名前: 和田ゴッホ ¦ 08:07, Tuesday, Jul 22, 2008 ×


-1
ミカンの指人形お化けが登場するのにこんなに長文にする必要があるでしょうか?
寝落ちするという時点で寝ぼけていたとも思われますね。
【アイデア】0 【描写力】0 【構成力】0 【恐怖度】-1

名前: 如来 ¦ 13:12, Tuesday, Jul 22, 2008 ×


-2
実話怪談の大会なら夢オチという事で、いたぶられやすい内容のように思う。見る度にミカンを叩く事ができながら、なぜ叩くよりも先に向こうに確認しに行こうとしなかったのか、随分都合良く話が作られているように感じる。
また、ミカンの顔の描写が雑すぎて、よく分からない。
ミカンの顔もミカンダンスも、あまり怖さを感じられないのに、無理に怖く仕立てようとした事が問題のように思う。

【アイデア】0、【描写力】-1、【構成力】0、【恐怖度】-1





名前: 廻転寿司 ¦ 15:47, Tuesday, Jul 22, 2008 ×


2
アイデア +1
描写力 ±0
構成力 +1
恐怖度 ±0

「脊椎をゴリゴリ言わせながら」って擬態語としては疑問。
のびをしてポキポキ、という状況なのか?
この作品には恐怖を感じない。
こんな蜜柑のお化けだったら、可愛いっ!

名前: くりちゃん ¦ 17:59, Tuesday, Jul 22, 2008 ×


1
もうちょっと上手くまとめられたようには思えます。
ミカン人形…カワイイ気もする…。
指だけは見えてたんですかね?
もうちょっと、ミカン人形を詳しく書いて欲しかったところです。
結局、何だったのか解らないのが歯痒くてなんとも…。
…で、最後の一行は一体…?

【アイデア】+1 【描写力】 0 【構成力】 0 【恐怖度】 0

名前: PM ¦ 18:45, Tuesday, Jul 22, 2008 ×


1
怪異の内容の割には長すぎる。もっとコンパクトにまとめた方がよかった。
「ミカンの顔」も、目・鼻・口がどんな形だったのか、もうすこし詳しく描写してくれないとイメージがわかない。

名前: ナルミ ¦ 23:08, Tuesday, Jul 22, 2008 ×


-3
何度もミカンが姿を現しているのを見てるのに、恐怖を覚えずただ叩くという行為に違和感を感じる。っていうか、何度も見たらそこにミカンを普通置かないでしょう。相変わらず最後の文の必要性に疑問を感じるのですが。

【アイデア】0、【描写力】-1、【構成力】-1、【恐怖度】-1

名前: 茶毛 ¦ 01:05, Wednesday, Jul 23, 2008 ×


1
こういうお話はもっとテンポ良く読みたかったです。
私の場合、蜜柑に顔が付いているというとどうしてもイメージがミカン星人になってしまって…
怖く感じられませんでした。

【アイデア】 +1【描写力】 0【構成力】 0【恐怖度】 0

名前: ぼりす ¦ 16:24, Wednesday, Jul 23, 2008 ×


-2
どう評価したら良いものか…超-1で言うところの整合性の無い作品、とでも。
ミカンの指人形…うーん…
それと、最後の文章はどうしても書かなければならないのでしょうか?
ま、作者の勝手と言われればそれまでですが。

発想・-1 文章・0 構成・0 恐怖・-1

名前: 暗沌子 ¦ 20:20, Thursday, Jul 24, 2008 ×


2
最後の一行はサインのようなものでしょうか(笑)
長い割には「みかん」の印象しか本当に頭に残らなかった。
みかんの顔はもっと描写してもよかった気がします。
怖さのポイントにもなりますし。

【アイデア】+1 【描写力】 0 【構成力】 0 【恐怖度】 +1

名前: 華鹿 ¦ 18:06, Friday, Jul 25, 2008 ×


1
 ミカンさん、最後に出てきた時は何が気に入らなかったんですかねえ(笑)。
 最後のまとめにちょっと苦労した感じでしょうか。
 あんまりまとめようとしないでミカンのおばけで開き直った方が良かったかもしれませんね。
 余計な所は削ぎ落として。


【アイデア】+1 【描写力】 0 【構成力】 0 【恐怖度】 0

名前: ユージーン ¦ 23:11, Friday, Jul 25, 2008 ×


-1
どうも最後の一行でしらけてしまう。

【アイデア】0、【描写力】0、【構成力】-1、【恐怖度】0

名前: 尚休 ¦ 16:04, Saturday, Jul 26, 2008 ×


-1
文字通り寝食を共にしてしまうほど夢中になるとは。PCで、いったい何をやっているのでしょうか。「趣味はPC」だけではリアリティがありません。登場するミカンの怪異にもう少し必然性があればいいのですが。読者が納得できるだけの説得力が弱かったと思います。無理矢理いろいろ繋げただけみたいに感じました。

【アイデア】−1【描写力】1【構成力】−1【恐怖度】0

名前: ひ ¦ 16:28, Thursday, Aug 07, 2008 ×


2
ん、このシリーズですか。
今までの中で一番
印象が薄いんじゃないかな?
寝ぼけてたって、もうちょっとリアクション
あってもいいんじゃ・・・。
蜜柑も、何度も出てきて印象としては
強く残ってもいいのに…。
佐々木さんの終始強気なリアクションと
相殺しあっちゃったのかな…?


名前: ちゅん ¦ 12:03, Sunday, Aug 10, 2008 ×


1
実話怪談風な雰囲気はよく出ていると思う。怪異がみかんの指人形なのでそんなに怖くないかも。


【アイデア】+1 【描写力】 0 【構成力】 0 【恐怖度】 0

名前: 猫塚イスマ ¦ 14:55, Saturday, Sep 20, 2008 ×


-1
アイデア+1 描写ー1 構成ー1
また最後が…。
ミカンに顔があるというのは、どうしてもユーモラスな感じしか受けない。
それならそういう話にすれば良かったのだが、無理やり怖くしようとして失敗したような感じ。
最初に叩いて消えたところで終わっておけば、味のある怪談で良かったのだが。

名前: 戯作三昧 ¦ 12:47, Saturday, Sep 27, 2008 ×


-1
みかん星人のイメージをどうしても越えられなかった感が…。それともあえての挑戦だったのか?「みかんに顔」と書いてあっても具体的な表現がなかったため余計にイメージしづらくなったのではないだろうか。加えて指の穴云々となってもそこから怖さを捻り出すのは結構ハードルが高かったのかもしれない。可愛さ&不思議さを強調した方が、定番ではあるがまだ評価はよくなったのかも。もちろん実話怪談風の構成もやめてであるが。

【アイデア】0【描写力】0【構成力】−1【恐怖度】0

名前: 蓮 ¦ 23:08, Saturday, Sep 27, 2008 ×


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