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待っているのだ
 深夜、会社から帰宅し、シャワーを浴びてベッドへ潜り込んだ。
今日も一層神経をすり減らした。
疲れも手伝ってすぐにウトウトとし始める。
 が、何かがそれを邪魔している。
腹に違和感。
臍のあたりがムズムズする。
少しの間は耐えていられたのだが、次第に我慢していられなくなってきた。
堪らずチッと舌打ちをしながらベットから起き上がり部屋の灯りをつける。
Tシャツを少し捲り上げて腹のあたりを確認した。
「えっ」
 目を疑った。
臍から小さな小さな芽が生えていた。
芽はウネウネと左右に揺れ、上へと伸びようと動いている。
(これはどういうことなのだろうか)
検討も付かずに動揺しているうちにもムズムズは激しくなり、芽は急速に成長していく。
気が付けば臍は無理矢理にメリメリと押し広げられ、さっきまで茎であった部分はすでに幹へと変化していた。
身体が重くなり立ってはいられず、仰向け状態で床に肘を付き自らの腹を眺める。
 芽はあっと言う間に見事な桜の木へと成長を遂げた。
枝は大きく拡がり、樹齢数百年は経っていそうな貫禄のある幹である。
だが、高さは四十センチ程度でミニチュアの桜の木が腹から生えているような状態だ。
「お、俺の腹に桜が・・・息が、苦しい・・・」
ミニチュアとはいえ身体に木が乗っかっているのである。
冷や汗も止まらない。
 腹の上で、桜は満開である。
何がなんだかわからない。
呆然とその不思議な光景を見ていると部屋の灯りがふっと消え、腹の桜自体がぼうっと発光し始めた。
冷たい空気が頬に触れた。
風が吹いている。
部屋の窓もドアも開いていない。
しかし、目の前の桜は穏やかに揺れながら花びらを散らし始めた。
 何かの気配を感じた。
すると突然、身体の自由がきかなくなる。
金縛りに陥ったらしい。
唯一動く眼球で太い幹に目をやると、幹の裏から何かが現れた。
制服を着た中学生くらいの女の子。
体長は十五センチ程である。
端正な顔立ちではあるが、うつむき加減で陰鬱な空気を醸し出している。
女の子はこちらを見る事も無く、幹から少し離れた左外へ伸びている根の上に立った。
よく見れば手には輪の付いたロープを握っている。
女の子の乗った根がグッと盛り上がり、その身体をミシミシと音を立てながらゆっくりと持ち上げ、一番近い枝に女の子の腕が届くあたりまで行くと、根は動きを止めた。
女の子は持っているロープを枝に掛けると、ぎゅっと結びつけ垂れ下がった輪に手を添えた。
(まさか)
風が一層強く吹いた、次の瞬間。
枝がギシッっと小さく軋んだ。
満開の桜の木に、女の子の身体がだらしなくぶら下がった。
ゆらゆらと揺れている。
 これらは今、自らの腹の上で起っていることだ。
夢か、夢なのか。
 また強く風が吹いた。
桜吹雪が視界を奪う。
桜色に美しく輝いた。
しかし、すぐに花びらは散り散りになり目の前が開けた。
(うっっ)
 そこには先ほどの女の子に加えて十数体の体がひしめき合うようにぶら下がっていた。
若い男女や中年の男、老人、そして女の子と同じ制服を着た少女たち。
 動きたくても体は動かない。
目を閉じたくとも閉じられない。
 視線を右端へ逸らす途中に気が付いた。
不自然に空いている枝があることに。
 幹の後ろに動く人影が見えた。
人影は幹の影からは出てはきたものの、ぶら下がっている無数の身体で胸から上が見えない。
どこか見覚えのある出で立ちである。
(あ・・・あれは・・・)
ようやく遮るものの無い場所まで移動して来た人影。
 それはまぎれも無く自分であった。
青白い顔色、俯き加減で無表情。
まるで死人である。
 先ほどの空いた枝には、いつの間にやら輪の付いたロープが掛かってる。
自分の姿をしたそれは、ロープの掛かった枝の下に佇む。
 桜の木にぶら下がった十数体の目が一斉に開き、白目をむき出しにこちらに向かって呟いた。

ー ツギ ハ オマエ・・・ ー


 朝、目が覚めると腹はなんともなかった。
一瞬夢かとも考えたが、あれは間違いなくリアルであった。
それは部屋中に散らばっていた桜の花びらが証明している。
 俺は勤めていた建設会社を辞めた。
もともと業界では有名な曰く付きの木だったのだ。
やはり、あの桜に手を出してはいけなかった。
 今は1月。
この寒い寒い冬が終われば、自ずと春がやってくる。
桜の季節だ。
俺は怖い。
満開の桜が俺を待っているのだ。



10:39, Friday, Aug 22, 2008 ¦ 固定リンク ¦ 講評(13) ¦ 講評を書く ¦ トラックバック(5) ¦ 携帯


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» 【0】待っているのだ [遺伝記澱奇から] ×
題名から赤塚不二夫を連想した。ご冥福をお祈りいたします。マイナスにはできないじゃないか。だいたい,お話と題名にギャップがあるじゃないか。ミニチュア劇場が腹の上で開幕される,って発想は面白いけど,どういう状態なのか想像しづらいじゃないか。... ... 続きを読む

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» 【0】待っているのだ [せんべい猫のユグドラジルから] ×
話としてはベタだと思います。これを序章として、徐々に桜から逃げられなくなる(呼ばれる)様を描いた話へと展開させると良かったかも知れ... ... 続きを読む

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 >間違いなくリアルであった。 →間違いなく現実であった、でしょう。此処でカタカナ言葉はおかしいですよ。 自分の腹の上で起きてい�... ... 続きを読む

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» 【0】待っているのだ [薩摩乃塩ぶろぐ/2008から] ×
腹に桜が植わる理由が、最後に取って付けたように見えてしまった。曰わく付きの木の割にはそれについての説明がない。どういった理由でその木に手を出してしまったのか、それぐらいは書き添えても良いのではないか。そうでないと、まだ1月であるのに手を講じずに諦めて .. ... 続きを読む

受信: 02:21, Thursday, Sep 18, 2008

» 待っているのだ [恐怖の脳みそから] ×
臍から生えるミニチュアの桜の木や、白目をむき出す首吊り死体など細かいアイデアや描写は良いのだが、上手くまとまっていない印象である。冒頭部分にも「曰く付きの木」のエピソードを持ってくる構成にすれば、最後で腑に落ちたのに、と思った。タイトルのコミカルさと .. ... 続きを読む

受信: 11:16, Thursday, Oct 16, 2008

■講評

-長所-
・次々と起こる不思議な現象が展開に期待を持たせる。

-短所-
・全体的に見て描写が雑に感じる。芽から桜の木へと一気に育つ様子も省かれ、主人公の臍は無理矢理にメリメリと押し広げられているのに痛みも描かれず、腹に桜があるのに息が苦しいというのも何だか分かりにくい。見覚えのある出で立ちを描かずに主人公に自分であると言わせるところなど、説明よりも描写で見せてほしいと思う。
・最後で主人公がこの桜の理由を語っているが、曰く付きの木という設定の話が既に多く出ていて、夢オチが実はそうではなかったという流れもありがちなので、作品の印象がとても弱い。他の作品に比べて何か目を引くような、新しい要素を入れるようにした方が良いと思う。

【アイデア】-1、【描写力】-1、【構成力】0、【恐怖度】-1

名前: 廻転寿司 ¦ 14:03, Friday, Aug 22, 2008 ×


どうも描写に不自然な点が見受けられました。臍から芽が生えてウネウネと揺れているのを見て(これはどういうことなのだろうか)という発想が理解出来ない。動揺していると書いてあるのであればそのような冷静な感情に違和感を感じる。途中の桜の木で首を吊る学生たちのの部分もどうも遺伝元に頼りすぎている様に感じる。ラストのオチも桜の季節が来るのが怖いと言いつつ、今は一月という描写がある。それであれば会社を辞める必要もないし、供養やお祓い、謝罪等色々出来る時間があるように思う。少し、その辺の裏設定を考えた方が良かったように思う。木がある=首を吊るという設定はそろそろ何かしらの強いインパクトがないと限界の様に思える。

【アイデア】0、【描写力】-1、【構成力】-1、【恐怖度】-1

名前: 茶毛 ¦ 14:15, Friday, Aug 22, 2008 ×


あたま山かと思ったら、御馴染のオチでした。
長いです。

【アイデア】-1、【描写力】0、【構成力】0、【恐怖度】0

名前: 尚休 ¦ 17:06, Friday, Aug 22, 2008 ×


んー、ちょっと解りづらい描写がありましたね。
展開も割りとスタンダードなので、もう少し簡潔にまとめてあると良かったとは思います。
腹の上で大量の首吊りが行われているのは不気味なので、結末と書き方次第でだいぶ面白くなったんじゃないかなぁと思います。

【アイデア】 0 【描写力】-1 【構成力】 0 【恐怖度】+1

名前: PM ¦ 19:14, Friday, Aug 22, 2008 ×


 ミニチュアの桜はおもしろいアイディアですよね。
 なかなか思いつかないと思います。

 ただアイディアとしては中途半端なので、もうひとつ、読者を引っかけるネタが欲しかったかな。

【アイデア】+1 【描写力】 0 【構成力】 0 【恐怖度】 0

名前: ユージーン ¦ 20:45, Friday, Aug 22, 2008 ×


前半から大きくなった話が最後、普通の展開で終わったような印象。
「ー ツギ ハ オマエ・・・ ー」ってありきたりな感じ。
もっと違う言葉か言い方で怖がらせて欲しかった。

【アイデア】0、【描写力】0、【構成力】-1、【恐怖度】0

名前: 華鹿 ¦ 00:02, Monday, Aug 25, 2008 ×


体から吹き出る芽から始まり、最後は曰く付きの桜の木!という展開は物凄くアクロバット的な繋がりのようなきがしました。何となく夢オチともとれるお話なので、もう少し具体的現実的怪異が欲しい所です。
【アイデア】0 【描写力】0 【構成力】0 【恐怖度】0

名前: 如来 ¦ 00:59, Wednesday, Aug 27, 2008 ×


目の前で起こる事のスピード感がある。
けど…。
早い。緩急付けてくれないと読む方も
息切れがする。
最後があっさり切り上げているのも気になる。
ワンシーズンも猶予があったら、
もっと右往左往しませんか?
文章のリズム感に1点。

名前: ちゅん ¦ 13:07, Tuesday, Sep 02, 2008 ×


アイデア +1
描写力 ±0
構成力 ±0
恐怖度 ±0



心当たりがあったんですか!
ならばもっと取り乱すのではないでしょうか。お腹に木が生え始めたときから、「俺」は冷静すぎるように思うのですが。

名前: くりちゃん ¦ 20:43, Thursday, Sep 11, 2008 ×


ミニチュア桜の枝にぶら下がる者たち、という光景は気味が悪いの
ですが、それが臍の上で繰り広げられているという所がちょっと
画的に滑稽で効果が薄れてしまいました。ラスト、死を覚悟している
かのような主人公の心情が憐れでいいと思います。

【アイデア】±0 【描写力】±0 【構成力】0 【恐怖度】0

名前: 蓮 ¦ 01:20, Tuesday, Sep 16, 2008 ×


想像すると怖いですが、要するに金縛りの亜流かなと。

ツキ゛ハ オマエ というセリフにも工夫が見られません。

絵的には大変素敵ですので、もう一捻り欲しかったですね。


発想・1 文章・0 構成・−1 恐怖・0

名前: 暗沌子 ¦ 20:04, Saturday, Sep 20, 2008 ×


お腹から生えた桜に首吊りがいっぱいって気持ち悪いビジュアルが最高です。お腹の樹とオチの桜と関連付けがもっとハッキリ欲しかったかな。


【アイデア】 +1 【描写力】 0 【構成力】 0 【恐怖度】 +1

名前: 猫塚イスマ ¦ 14:05, Thursday, Sep 25, 2008 ×


アイデア+1
腹の上で怪異が展開されるというのは面白いが、最後の理由づけがありがち。
首吊りネタはオチがどうしても読めてしまいがちなので、なにか意外性のある展開が必要か。

名前: 戯作三昧 ¦ 21:00, Monday, Oct 13, 2008 ×


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