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師匠
 仙人を見たという情報を元に、私たち番組取材班はこの山にやって来ている。

 私がリポーターをしているのは所謂ミステリー番組なんだけど、このところ視聴率が低迷している。
 まあ、番組で取り上げられているのは胡散臭いネタばかりだし…、仕方ない気もする。
 でも、ディレクターの渡会さんは必死みたいで、今回の取材に付いて来ていた。
「そろそろ度肝抜くようなの撮らないと打ち切りになっちゃうのよ。今日はアタシが指揮するから、何か撮れるまで帰らないわよー。」
 渡会さんの言葉に、ため息をつきながらカメラマンの土橋さんが応える。
「そう簡単に撮れたら苦労しませんて…。」
 ですよねー。今までだって、土橋さんと二人で何度も取材に出ては空振りに終わってたわけだし…。
 その度、渡会さんは何でもない映像をそれっぽく編集させて放送してたんだから、そりゃ視聴率も落ちるわよ。
 正直、私も何やってるんだろうって思う。こんなインチキ臭い事したくてこの業界に入ったわけじゃないのに…。
 このリポートが終わったら辞めちゃおうかな…。
「ほらほらドバちゃん、グチグチ言ってないで早く来る! ほらエリチャンもボーっとしないで。足元濡れてるから気をつけないと転ぶわよ!」
 あー、はいはい。すみません。
 この人、根は何気に気配り上手で良い人だと思うんだけど、このカマっぽい喋り方とクネクネした仕草がどうしても好きになれない。カマっぽいというかもう、真性だと思う。
 
 上り坂の続く森を抜けると、川が流れる開けた場所に出た。
 少し向こうに綺麗な滝が見える。
 土橋さんがその滝を確認すると、その場に荷物を降ろした。
 どうやら、この辺りが仙人の目撃現場らしい。
 私も歩きっぱなしでヘトヘトだ。正直、こんなところの取材なんて男達だけで行って欲しい。
 私も荷物を降ろしてその場に座り込んだ。
 改めて周りの様子を見てみると、辺りは木々に囲まれ、滝の周辺は薄い霧に包まれていて、どこか幻想的な印象を受ける。なるほど確かにそれっぽい雰囲気だ。
 土橋さんがカメラの用意を始めている。
 ああ、休憩はしないのね…。私もお化粧チェックしておかないと…。
 そう思ってコンパクトの鏡を覗き込んでいると、ふと、私の背後の空中に何か点のようなものが映り込んでいるのに気付いた。
 驚いて振り返ると、滝の上辺りにフワフワと何かが浮かんでいるのが見える。なんだろう…?
 私は、その何かを指差しながら土橋さんに声をかけた。
「ん? …ホントだ。何かいるな。待て、カメラのズームで見てみる。」
「何何何? どこどこどこ? 仙人、いたの?」
 慌てふためく渡会さんを余所に、土橋さんは落ち着いた様子でカメラを回し始めた。
「んん!? ちょっとハッキリはしないが……人…だな。人が浮いてる…。」
「え? え? え? ホント? ちゃんと撮れてる?」
「ええ、撮れてますよ。でも、この取材用のカメラじゃこれが限界…あっ!」
 土橋さんが驚きの声を上げた。
「…こっちに向かって来てる。…老人。老人だ! ビンゴかも!?」
「ホント? ホント? ホント? 撮れてるわよね? ね?」
「撮れてますってば。…まっすぐこっちに来るぞ!」
 土橋さんがそう言った時には、私の目にもその姿が見て取れた。
 ホントにおじいちゃんだ。スゴイ! 仙人はホントにいたのね!!

 近付くに連れ、だんだんとその容貌がハッキリしてきた。
 仙人は何かの上に胡座をかいて、ふわりふわりと宙に浮いている。
 長い白髪。長い白髭。長い白眉。
 顔立ちは仙人のイメージにピッタリなのだが…。
 何故かTシャツにジーンズというラフな服装。
 そして、乗っているのは雲ではなく、3枚に重ねられた座布団だった。
「な…なんか微妙に想像してたのとは違うけど、あれ、間違いなく仙人よね!」
 渡会さんが大はしゃぎで仙人に向かって手を振っている。
 子供みたい…と思いつつ、私もドキドキしているのに気付いた。
「ホントに撮れるとは思わなかったなぁ。」
 普段冷静な土橋さんも少し興奮した様子だ。
 それはそうだろう。
 こんな事態、この番組開始以来、初めてなのだから。

 仙人は私達の前まで来ると、土橋さんの構えるカメラに向かってニカっと笑った。
 土橋さんはカメラを回し続けている。
 これ、きっと後世に残るスゴイ映像になるんだろうなぁ…。
 …と考えていると、突然仙人が一人でキャッキャ言ってる渡会さんを指差して言った。
「んじゃ、なんかダジャレを一つ。」
 …ダジャレ? なんで…? 何かの修行…とか…?
 渡会さんはこの急展開に戸惑う事もなく、ハッキリとした口調で言った。
「アルミ缶の上にあるミカン!」
 ……寒い。誰か…。
 いくらなんでも今の時代にこのセンスはどうかと思う…。さすがに私もちょっとイラッとした。
 仙人もため息をついている。
『持ってっちゃいなさい!』
 突然、辺りに低い声が響いた。なんだかアレっぽいけど、仙人の声じゃないみたい。
 驚いて周りを見回していると、突然、ビリっと何かが破れる音が聞こえ、布切れのようなものが視界を横切り飛んでいった。
 音のした方を見ると、渡会さんのズボンのお尻部分がパンツごと綺麗に四角く破かれ、丸出しになっている。
「イヤーン!」
 イヤーンじゃねーよ。しかもなんでちょっと嬉しそうなんだよ。
 土橋さんもそんなの撮らないで…。
「んじゃ次、そこのナイスバディ。」
 仙人は、クネクネしている渡会さんを余所に今度は私を指差した。
 えっ…冗談でしょ…?
 助けを求めるつもりで土橋さんを見ると、しっかりとカメラをこちらに向けている。というかお尻撮るな。
 どうしよう…、持っていかれる座布団がないとズボン破かれるわけ?
 今日はあまり見せられない下着なのに……、あ、これも一緒に破かれるなら気にしなくて良いのか。
 …いやいやいや良くない! ぜんっぜん良くない!
 何か…何か…えっと…えっと…。
「こ…この百円食ってみて。ひゃー食えん。」
「…………。」
「…………。」
 …………ダメか…。
 土橋さんも無言でカメラを回している。だからお尻撮るなって。
「エリチャン、ドンマイ!」
 アンタが言うな。
「…ぷふっ」
 と、意外にも仙人が吹き出した。小さく笑っている。
 え? ホント? こんなのでいいの?
『勢いはあったねぇ。1枚、あげちゃって。』
 また低い声が響いた。
 仙人という割りにはレベルが低いような気もするけど、とにかく醜態晒さずに済んだみたい…。
 と、安心していると、突然、私の膝の裏に何か柔らかい物が勢いよくぶつかってきた。
 痛くは無かったが、膝カックンされた時みたいにバランスを崩し、私は尻餅をつきそうになった。
 お尻への衝撃を覚悟したが、不意にぼすんと優しく受け止める物があった。
 …え? これって…。
 見ると、大きくて厚めな紫色の座布団が私のお尻に敷かれている。
「エリチャン、それスゴイ!!」
 そんな私の様子を見て渡会さんが叫んだ。
 よく見てみるとこの座布団、地面から30cm程浮いているのだ。
 スゴイ…。こんな良い物もらえるなんて…。今回はかなり貴重な取材になったんじゃないだろうか。
 と、ふと、自分の役割を思い出した。
 私は座布団に腰掛けたままベンチに座る時みたいに足を揃えると、カメラに向かってにこりと微笑んだ。
 よし、完璧。
 今日はリポートしてないけど、これで十分でしょ。

「さて、そろそろ行くとするかいね。」
 仙人はそう言うと少しずつ上昇し始めた。
「ああん、もう行っちゃうのー? ありがとねー!」
 お尻丸出しの渡会さんが仙人に向かって手を振る。
 土橋さんもゆっくりと離れていく仙人をカメラで追っている。
 ダジャレ好きの仙人との出会い、そして別れ。
 ……映像になったらウソ臭さが漂う気もするけど、まあいいや。
 私も仙人に手を振って…ってアレ?
 ……私もなんかどんどん浮かび上がってない…?
 渡会さん達がもう、座布団から投げ出された足より下に見える。
「ちょっとちょっと! エリチャンまで行っちゃうの!? その座布団だけでも置いていきなさいよー!」
 いや、そんな勝手な事言ってないで助けて。
 土橋さんも撮ってないで、ちょっと、ねぇ。
 
 渡会さん達が小さくなって見えなくなると、私の前を飛ぶ仙人が振り向いて言った。
「ワシのことは師匠って呼んでいいよ。」
 いや、それはない。
 私は大きなため息を一つつくと、座布団の上に正座し直した。




13:52, Sunday, Aug 24, 2008 ¦ 固定リンク ¦ 講評(13) ¦ 講評を書く ¦ トラックバック(5) ¦ 携帯


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受信: 02:48, Thursday, Sep 18, 2008

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面白く読めたし、こういうノリは好きだが、前半の説明や会話のテンポがちょっとだけ丁寧すぎる。個々のキャラクターは上手く描写されているが、逆に仙人は突き抜け具合が大人しいような感じがした。オチも、もっとアイデアを弾けさせても良かったかもしれない。 師匠 .. ... 続きを読む

受信: 11:50, Friday, Oct 17, 2008

■講評

-長所-
・語り手兼主人公であるエリチャンをはじめ、番組取材班側の人物の思考や性格設定がしっかりしているので、安心して読める。
・番組取材班が仙人を探しに行くという流れが何か起こりそうで興味をひかれる。
・単なる仙人ではなくラフな服装という格好が、ちょっと普通と違っていそうな感じを出していて良い。ダジャレ戦に繋がりそうな抜け具合を出していると思う。
・作風は個性的で面白い。

-短所-
・全体的には破綻もなく読みやすくて良いのだが、粗筋から言うと「おかしな仙人とのダジャレ戦で勝ったエリチャンが仙人に連れて行かれる」だけでしかなく、あまり大きな盛り上がりが無い。内容的には纏まってはいるものの、長編の始まりのような書かれ方なので、コンパクトな掌編ならではの捻りがもう少しほしいと思う。もともと空からやってきた仙人だから、空絡みで何か最後に起こるだろう事が予想される為に、オチにそれほどの意外性がないように感じるのではないかという気もする。

【アイデア】0、【描写力】1、【構成力】0、【恐怖度】-1

名前: 廻転寿司 ¦ 15:18, Sunday, Aug 24, 2008 ×


アイデア +1
描写力 +1
構成力 +1
恐怖度 ±0

長かったが面白かった。
キャラクターもしっかり描けているし、取材までの経緯や内輪の話が興味深い。
ただだじゃれ合戦というのはしょぼいが、合格すると座布団と弟子入りの栄誉が与えられるというのは可笑しい。



名前: くりちゃん ¦ 17:04, Sunday, Aug 24, 2008 ×


細かい設定まで書かれていて、上手くまとまっているかと思います。
ただ、遺伝元の話から、大体のオチが予想出来てしまったのが残念かなぁと思います。
まあ、途中、丸出しになるのには意外性はありましたが…。

【アイデア】+1 【描写力】+1 【構成力】 0 【恐怖度】 0


名前: PM ¦ 18:49, Sunday, Aug 24, 2008 ×


いや、笑わせていただきました。良いと思います。このホッとする感じ。作品としては描写は丁寧に書くように心がけているのが感じ取れます。その分、登場人物にもリアルな感じが窺えます。(仙人除いて)
 ダジャレで布団が吹っ飛んだ。が登場しなくて良かったです(笑) 惜しかった部分としては、オチが遺伝元と大差が無かったのと、途中から読めてしまったことですね。恐怖感も感じられないので、最後にどんでん返しをつけてとぼけた感じの仙人の嫌な恐怖の部分があったらまだ+要因になりました。 しかし、仙人の「ぷふっ」と最後のオチのセリフ、ああいうのは捨てきれないですよね、やっぱり。

【アイデア】+1、【描写力】+1、【構成力】0、【恐怖度】0

名前: 茶毛 ¦ 00:20, Monday, Aug 25, 2008 ×


 エリちゃんのキャラクターは良く書けてて楽しかったですね。
 おもしろかったです。

 でもまあ、このくらいのネタだとここまで説明する必要はないですね。
 軽い状況説明くらいで十分だと思います。
 後半だけでも十分に彼女のキャラクターは伝わってきますから。

 ネタはもうひとつ、なにか用意すると良かったかな。
 ひとひねりあるとグッとお話が締まったと思います。

【アイデア】 0 【描写力】+1 【構成力】 0 【恐怖度】 0

名前: ユージーン ¦ 17:14, Monday, Aug 25, 2008 ×


面白いんですけどね。そんなに簡単に弟子を選んじゃっていいんですかね〜。

【アイデア】0、【描写力】0、【構成力】0、【恐怖度】0

名前: 尚休 ¦ 16:03, Tuesday, Aug 26, 2008 ×


説得力のない仙人ですね。
面白いとは思うのですが恐怖を感じるツボがまるでないので…。
【アイデア】0 【描写力】0 【構成力】0 【恐怖度】0

名前: 如来 ¦ 16:33, Wednesday, Aug 27, 2008 ×


面白いといえば面白いのだが、駄洒落が私もツボにははまらなかったせいか寒い・・・

【アイデア】0、【描写力】0、【構成力】0、【恐怖度】0

名前: 華鹿 ¦ 20:27, Wednesday, Aug 27, 2008 ×


何でやね〜ん!とベタにツッコミたくなる話。
嫌いじゃないけど、
他の作品とのバランス的に2点です。
すっごく、面白かったかと言われると……。
困るんですが…。
でも嫌いじゃないです(^^;)

名前: ちゅん ¦ 11:51, Wednesday, Sep 03, 2008 ×


一気に読ませるというのは、それだけですごい事だと思います。
人物描写も丁寧で状況もすんなり頭に浮かびました。とても
面白かったです。

【アイデア】1 【描写力】1 【構成力】1 【恐怖度】0

名前: 蓮 ¦ 13:01, Monday, Sep 15, 2008 ×


私、弟子になれる自信あります。

軽く読みやすい文章が、長さを感じさせません。
残念ながら恐怖も感じさせません。

発想・0 文章・1 構成・0 恐怖・0

名前: 暗沌子 ¦ 00:39, Sunday, Sep 21, 2008 ×


面白いですね。流れようスムーズに読ませてくれるのがいい。でも怖くないです。


【アイデア】+1 【描写力】+1 【構成力】0 【恐怖度】0

名前: 猫塚イスマ ¦ 19:12, Thursday, Sep 25, 2008 ×


アイデア+1 描写+1
なかなか面白い。
それぞれキャラが立っていて、特に亀仙人みたいな師匠がいい。
おしり丸出しは笑った。

名前: 戯作三昧 ¦ 04:13, Tuesday, Oct 14, 2008 ×


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