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強盗さんにお願い
 彼女が泊まりに来たのはいいが、肝心のアレを切らしているのに気付いた。
 付き合って長いんだから別に生でもいいじゃんと思いつつ、不貞腐れる彼女になんだかんだで言いなりになってしまう。
 仕方なしに俺は近所のコンビニへ買出しに来ていた。 
 このコンビニは大通りに面してはおらず、深夜ともなればやはり客は少ない。水商売風のお姉さんが一人いるだけだった。
 俺はさっさと目的の物を手にとると、若い男の店員が一人でいるレジへと向かった。

 会計を待っていると、突然、覆面帽をした黒尽くめの明らかにソレと解る男が一人、勢いよく入ってきた。
 その男はレジの前で呆気に取られていた俺の首に左腕を回し、しっかりと捕まえる。
 がっしりした腕…。もがいてみるが抜け出せない。
「おとなしくしろ。」
 俺の顔に大きなナイフが突きつけられた。
 …ナニコレ? 俺、人質…?
「お前も動くんじゃねぇぞ。」
 男は、突然の出来事に驚いて見ていた水商売風のお姉さんに向かって言う。お姉さんは腰が抜けたのか、顔を引きつらせたままその場にへたり込んでしまった。
 てか、冗談じゃねー! ちょっとなんとかしろよ!
 と店員を見ると、そいつは両手を組み、冷ややかな目でこの覆面男を見ていた。
 こいつ、なんでこんなに落ち着いてんの?
「この状況で解るだろうが。変な気起こさねぇで金を出せ。」
 うん。さっさとお金渡して俺をタスケテ!
 しかし、店員は俺に目を向ける事なく、全く動こうともしない。
「さっさとしろ! この店で死人が出る事になるぞ! お前は責任取れんのか!?」
 ヤバイ、俺、死人候補だ。ヤバイ。
 店員チラリと俺を見ると、冷静な口調で話し始めた。
「…なるほど。確かにその彼が死んだら、世間は俺のせいだって騒ぐんだろうな。こういう場合は、大人しく金を渡して事なきを得るというのが世の常なのだろう。」
 そんなのいいから早く早く早く怖い!!
「だが断る。」
 ヤメテ! 今それ言うところチガウよ!!
 ダメだ、俺、死んだ!!
 …しかし、覆面男は意外にも怒らずにいた。ニヤリとする口元に何やら余裕すら感じる。
「…おもしろいな、お前。じゃあ、これでもそんな口叩けるか…?」
 え、何? 何すんの…?
 と思っていると、何時の間にか俺のすぐ横に誰かが立っているのが見えた。
 人…じゃない。
 何本もの蔦が複雑に絡み合い、人の形になっている。
 顔の部分は、なんだか悲しそうな顔をした女の人のようにも見えた。
 ひぃっ!?
 思わず小さな悲鳴をあげてしまった。
 へたり込んでいたお姉さんもそれに気付いたようで、キャーキャー騒いでいる。
 しかしそれでも、店員は冷ややかな様子でそれを見ていた。
 こいつ、何でこんなに冷静なんだ…?
 胸のネームプレートを見ると『堀田』とある。考えてみると、今まで見た事無い店員だ。
「これを見てそんな涼しい顔してられるとはな…。だが、驚くのはこれからだぜ。」
 覆面男は左腕から俺を解くと、いきなり突き飛ばした。
 そのまま尻餅をつく。
 俺はチャンスとばかりにそのまま身体をひっくり返すと、ゴキブリのように這って出口へと急いだ。
 と思ったら、出口がない…。
 ドアはいくつもの太い蔦で覆い隠されている。
 叩いても引っ張ってもビクともしない。
 なんだこれ…? いつのまに…?
「裏口も同じだぜ。お前らは俺が許可するまでここから出る事は出来ねぇ。さぁ、このままじゃ帰れねぇぜ。さっさと金出しな。」
 この覆面男の仕業なのか…?
 キモチワルイけどスゲェ…、なんかの漫画みたい。
 てかこんなスゴイ事出来るなら、コンビニ強盗なんかしてないで銀行いけよ!
「それがお前の“能力”なのか?」
 店員の堀田が言う。
「“能力”? …何の事か解らんがこいつは俺の家内だ。なんでこんな姿になっちまったかは知らねぇ。このままほっといたら死んでたところだが、俺の中でなら生きていられるみたいでな。俺はこいつと同化する事で共に生きていく道を選んだのさ。」
 なんだなんだ? 嫁さん? 同化? 急に何の話だ?
「何故こんな真似をする?」
「…血を買うのに金が要るからだよ。こいつは俺の血を吸って生きている。だが足りねぇんだよ。俺のだけじゃ…。ほら、解ったらさっさと金を出しな!!」
「そうか、解った。」
 堀田はニヤリと笑みを浮かべると、いつの間に手に持っていたのか、30cm程の細い木の棒を振った。
 何やってんだ…?
 と見ていると、いつの間にか堀田の横に、また何かが立っているのに気付いた。
 ちょっと猫背な全身毛だらけの生き物。大きさは堀田とさほど変わらない。
 背中にはトゲのようなものが何本か出ており、赤い大きな目とは対照的に口は随分と小さい。
 えっと、これ、ほら、何だっけ? アメリカとかで昔騒がれてたやつ。テレビで見たことあるぞ。
 チュ……チュカ……チュパ……? …ナントカっていう所謂未確認生物がそこにいた。
 てか、怖ぇよ!!
 奥でへたり込んでいるお姉さんも、泣き叫びながら怯えている。
 堀田はニヤニヤと強盗を見つめている。
 てかナニコレ? 強盗の蔦女みたいに堀田が呼び出したのか?
 強盗もさすがに驚いた様子で固まっている。
 と、次の瞬間、チュパナントカが強盗に向かって飛びついた。
 成す術も無く押し倒された強盗の首に、チュパナントカが小さな口で噛み付く。
 そうか、こいつ、確か吸血生物なんだっけか。
 この強盗、覆面のため血色は窺えないが、痙攣を始めたところを見るとかなりの量を吸われているのだろう。
「こいつが死ねば、その出口を塞いでいる蔦も消えるだろう。安心すると良い。まあ、結局死人が出ることにはなってしまったがな…。フッ…。」
 堀田がクールな口調で俺に向かって言う。こいつ、なんかキモイな…。
 正直、人が殺されるところなんて見たくもないが、今は兎に角ここから出たい。
 なんでこんな目にあったんだっけか…?
 ああ、そうだ。アレを買いに来たんだ。 
 アレさえちゃんと用意しておけばこんな事にならずに…。
 そうだ、ここから出たら、彼女にプロポーズしよう。
 そうすれば、あんなもの使う必要はなくなる。
 もう少しの辛抱だ。
 俺はただ黙って、事の行く末を見守っていた。

 チュパナントカが立ち上がった。
 強盗はまだ少し息があるようだが、もう長くはないだろう。
 側にずっと立っていた蔦の女も、うっすらと透けて見える。
 やっと解放される…と思っていたら、突然、チュパナントカが奥でへたり込んでいたお姉さんに飛び掛った。
 えっ!? なんで!? もういいだろ!?
 これなんとかしろよと、堀田を見る。
 さっきまでのクールな様子とは逆に、なんだかアチャ〜と言った間抜けな表情を浮かべている。今までの、演技かよ!
「ヤッベ…。カッコつけてみたものの、これ、どうやって戻すんだっけか…。ええっと、説明書っと…。あ、SDカード忘れてる…。ヤッベ!!」
 え、何? つまり、どうにもならないって事?
 あ、こいつ、カウンター下に隠れやがった。
 お姉さんを見ると、既にぐったりと横たわっている。
 ゆっくりと立ち上がるチュパナントカ。
 出口の蔦はまだ消えていない。
 ヤバイ…!
 お願い、強盗さん!! 早く死んで!!! 



12:55, Tuesday, Aug 26, 2008 ¦ 固定リンク ¦ 講評(12) ¦ 講評を書く ¦ トラックバック(5) ¦ 携帯


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さすが堀田!おれたちにできない事を平然とやってのけるッそこにシビれる!あこがれるゥ!って、ねーよ!!・発想 0・表現 0・構�... ... 続きを読む

受信: 20:16, Tuesday, Aug 26, 2008

» 【+1】強盗さんにお願い [遺伝記澱奇から] ×
とにかく愉快。アドリブコントを見ているよう。シチュエーションだけ凝っていて、後は筆の行くまま、気の行くままの成り行き任せ、といった感じ。楽しいが後に残るものがない。オチへの伏線、人物間の関係性、過去の因縁などを設定することで、重層的.... ... 続きを読む

受信: 22:57, Sunday, Aug 31, 2008

» 【+4】強盗さんにお願い [I'd like to tell you something about ...から] ×
 堀田君、なかなかクールなお出ましだったけどやっぱり何処か抜けてて良い味出てます。 でもちゃんと深夜バイトとかしてるんだね普通に堀... ... 続きを読む

受信: 00:51, Saturday, Sep 20, 2008

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馬鹿馬鹿しい勢いのある作品。ドタバタながら、起承転結がしっかりしている。しかしながら、怖いかと言われると怖くない。一連の堀田作品の中では纏まっている方だとは思うが。申し訳ない。堀田の名前を見るだけで、反射的にマイナス点を付けてしまいそうな自分がいる ... 続きを読む

受信: 22:17, Monday, Sep 22, 2008

» 強盗さんにお願い [恐怖の脳みそから] ×
遺伝記界のヒーロー(多分)堀田君。怪しいモノを召喚してくれたり中々楽しく活躍してくれるが、期待されるぶっ飛び感が少ないのが残念。最後は隠れるんじゃなくて、もっと派手な卑怯さで姿をくらまして欲しかった!と我がままな願いが沸き起こる。でも「チュパナントカ .. ... 続きを読む

受信: 16:51, Tuesday, Oct 21, 2008

■講評

いけない。堀田の登場に喜んでる自分がいる(笑) 作品としては、テンポが良く、読みやすかったと思います。どこかコント仕立てで。まさかチュパカブラまで登場するとは。クールな堀田で終わるのかと思いきや、やはりどこか抜けた状態でSDカードへの執着も相変わらずでした。個人的に、クールなままで去り際に「フッ」と笑う影のある堀田君も見たかったです。
最近、ふと感じるのですが、堀田作品は内容で矛盾点や無理のある展開が起きても、違和感無く読みきってしまいます。これが作者の意図している部分でその為の流れを作ってきたのだとしたら、ある意味恐ろしいです。この作品では恐怖は無かったですが、楽しませていただいたのでこの点数で。

【アイデア】+1、【描写力】+1、【構成力】0、【恐怖度】0

名前: 茶毛 ¦ 15:13, Tuesday, Aug 26, 2008 ×


笑ってしまった。いいな〜、おもしろいな〜。
堀田君すごいな〜。オチも効いてるし。おまけ。

【アイデア】+1、【描写力】+1、【構成力】+1、【恐怖度】0

名前: 尚休 ¦ 16:55, Tuesday, Aug 26, 2008 ×


SDカードの魔法使い、堀田君ですね。
堀田テイストのノリと勢いを利用して上手く押し切れている感があります。
懐かしいですね。チュパカブラ。
この後のチュパカブラの行動にも興味惹かれますね。

【アイデア】+1 【描写力】+1 【構成力】 0 【恐怖度】 0

名前: PM ¦ 19:03, Tuesday, Aug 26, 2008 ×


 また堀田か!! (笑)

 蔦女にチュパカブラとまた訳がわからない話になってますね。
 それでもやっぱりちょっと笑ってしまったんですが。
 くやし――っ!

【アイデア】+1 【描写力】 0 【構成力】 0 【恐怖度】 0

名前: ユージーン ¦ 19:48, Tuesday, Aug 26, 2008 ×


アイデア +1
描写力 +1
構成力 +1
恐怖度 ±0

はちゃめちゃなところが可笑しかった。
「堀田」クンの出てくる作品は、初期の作品よりもこの頃の方がこなれてきて、面白い。

名前: くりちゃん ¦ 20:40, Tuesday, Aug 26, 2008 ×


-長所-
・強盗事件へ巻き込まれるきっかけが些細なことから始まり、そこが日常的で面白い。
・主人公も店員もどこかキャラ的におかしく、作品をポップにしている。

-短所-
・主人公の強引な語りは面白いのだが、チュパナントカの描写が雑で姿がよく分からず、次々と出てくる変な物も描き方が局所的で、距離感が分かりにくかった。
・おかしなキャラばかりだから最後も意味不明で終わるのがこの作品らしいとは思うものの、終わり方としては収拾がつかなくなって放棄したように見える。文章量が多い割には、主人公の買い物以外には仕込みも何もないストーリーなので、もう少し構成がしっかりしていればと思う。堀田を出してドタバタさせて終わりでは単品作としては弱すぎるので、独立した作品としての面白さがないと苦しいように感じた。

【アイデア】0、【描写力】-1、【構成力】-1、【恐怖度】-1

名前: 廻転寿司 ¦ 21:17, Tuesday, Aug 26, 2008 ×


堀田に気を取られたw
チュパカブラとか持ってくるのがある意味凄いです。
恐怖は感じないですが、文章は読みやすいですよね。
作品としては成功では。

【アイデア】+1 【描写力】 0 【構成力】 0 【恐怖度】 0

名前: 華鹿 ¦ 20:55, Wednesday, Aug 27, 2008 ×


だから、堀田君は反則…(^^;)
けど、この堀田君はちょっと劇画調だなぁ…。
アレ買いに来てそんな目に遭ってる
主人公も堀田君に負けず劣らずなんだけど
堀田君の存在感の前に
消し飛んでしまっていて残念だな…。
てか、アホだらけの話で…、
2点もあげるのが悔しいくらいです…(^^;)

名前: ちゅん ¦ 12:49, Wednesday, Sep 03, 2008 ×


とにかく勢いのある展開がすごいと思いました。今やもう充分に
愛されキャラと化している堀田くんですね。他の作品と繋がる、
という遺伝記ルールの面白い部分が活かされた作品だと思います。

【アイデア】1 【描写力】 1 【構成力】 1 【恐怖度】 0

名前: 蓮 ¦ 21:18, Friday, Sep 05, 2008 ×


単体では成り立たない。勢いだけで描かれた作品。
今までの積み重ねで洗脳される講評者が多いようだが(笑)

発想・−1 文章・−1 構成・−1 恐怖・−1

名前: 暗沌子 ¦ 02:45, Sunday, Sep 21, 2008 ×


この勢いが良いですね。キャラありきのお話ではありますが。


【アイデア】+1 【描写力】+1 【構成力】0 【恐怖度】0

名前: 猫塚イスマ ¦ 23:03, Thursday, Sep 25, 2008 ×


−4
蔦女が出てきた時点で、なんだか雑な展開だと思っていたら、堀田が出てきてがっくり。
これでいいなら何でもありになってしまう。

名前: 戯作三昧 ¦ 18:35, Tuesday, Oct 14, 2008 ×


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