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暑い夏が終わり、秋の気配が漂う。 人々が皆、ホッと一息つく季節。 ニコニコ不動産では、社長の村上氏が苦虫を噛み潰して 何度も咀嚼を繰り返しているような面持ちを浮かべていた。 社員の一人が思いきって声をかけた。
「社長。どないしはったんですか」
ぎろり。 蛇に睨まれた蛙、とはこのことである。 きっかり三十秒後、村上氏は重い口を開いた。 「秋山か。どないもこないもあるかい。三丁目の高田や。サラ金まみれの」
「あ、あの夜逃げしたという」
「そや。ちょっと督促かけただけやのにな。 夜逃げだけならしゃあない。あのボケ、とんでもない置き土産残しよった」
「置き土産?」
「秋山。お前、あいつの家の庭、見たことあるか」
縁起の悪い木でテンコ盛りなのだという。 枇杷、タニウツギ、椿、シキミ、モクゲンジ、藤。 それら全てを植えた後、高田は夜逃げした。 ニコニコ不動産への恨みであることは間違いない。
「ええか。枇杷っちゅうのは、植えた人の死を待って花を咲かせる、っちゅうねん。 タニウツギちゅうのはな、骨を拾う箸に使う。 椿は良ぅ言われとるな、首が落ちるようにポトって散るがな。 シキミ。悪しき実の略や、とか言われとる。墓地に埋める木や。 モクゲンジは読経用の数珠に使いよるし、 藤は不治に繋がるやろが」
一息に喋ると、村上社長は深い溜息をついた。 「ここまでなら、まだ何とかなる。何やったら、木ぃ抜いてもうたらええ。 問題はこっからやで。秋山、おまえ、あの家に妙な噂があるの知ってるか」
秋山は、神妙に頷いた。 そもそも、あの物件は秋山の担当なのである。 「いえ、詳しくは知りまへん。なんでも、婆さんの幽霊が出るとか。 高田もそれでクレームかけてきましたしね。もっとも、幽霊よりも社長の方が 怖かったらしゅうて、すごすご引き下がりよったけど」
「そや。ちょっと脅しかけたら、我慢しますぅってな。 あそこな、昔は養豚場があったんや。 婆さんと孫夫婦が仲良うに暮らしてた。結構、ええ豚、出荷してたらしいで。 日本には珍しい大型の種類でな、でもそれが仇になった」
ごくり、と温いお茶を飲み干し、村上は話を続けた。 「ある日のこと。朝から婆さんの姿が見えんのや。みんなして探し回ってな、 ようやく見つけたんやが、婆さんな、豚に食い殺されてたんや。 知ってるか、豚っちゅうのはな、柔らかい所から食うねん。 婆さん、目玉とか鼻とか耳とかをまず齧り取られてな、次に萎びたオッパイとか 二の腕とかや。 目玉なんかはな、ずるずるぅぅぅ〜って啜り取るらしいで。 でな、それからは、あの家で豚肉の料理するたびに婆さんが現われるんや。 ズタボロの顔でな、目とか鼻とかポッカリと穴が開いてる。 腕も半分は骨や。 舌も食べられてるから、ハッキリとは分からんが、痛い痛い痛いぃぃぃって 叫ぶんやて。 焼き豚だろうが、お好み焼きだろうが、トンカツだろうが、とにかく豚肉使ぅたら 出る。絶対に出る。 豚肉さえ食わんかったらええと思うやろ? あかんねん。一度出たらな、毎度毎度出てくるねん。 で、食卓の上に浮かんで、じぃっと料理を見るねんて」
重い沈黙が社内に澱む。 振り切るように秋山が言った。 「そ、そないなこと、社長よう知ってはりますな」
「あの土地な、代々うちの扱いやねん。 極秘裏に処理、っちゅうやつや。ところが高田の阿呆が、 何処で聞いたか知らんが、全部バラシよった。わしへの悪口雑言と共にな」
「あちゃあ。人の口に戸は建てられませんなぁ」
村上氏は沈思黙考を始めた。 何故か、ソファーの上で座禅を組んでいる。
五分四十秒後。 「ええこと思いついたっ!わしって天才!わしって不動産王!」
バタバタと慌しく出かけていく。 残された社員達は、唖然として見送るしかない。
二週間後。 村上氏は上機嫌、いや、極上機嫌である。
「社長、えらい朝からテンション高ぅおますな」
「おう、秋山ちゃん。当たり前や。あの家な、借主見つかってん。 へっへっへ」
「え!あんなん借りるて。どんな奇特な奴で」
「ふっふっふ。教えたろ。これこれ、この契約書見てみ。 ケリム・ムスタファさん。満足して暮らしてるで」
なんでどうして、と口々に言い募る社員達を見回して、 村上氏は得意気に説明を始めた。
「ケリムさん、縁起の悪い木なんて信じてへん。 枇杷もタニウツギも椿も、国が違うたら習慣も違うがな。 シキミは悪しき実の略や、藤は不治や言うても日本語やからこそ。 外国人には全く関係無い」
「そやけど婆さんは?婆さんの幽霊はどないですの」
「ケリムさん、イスラム教徒やで。豚肉は食わへん」
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受信: 22:21, Monday, Sep 22, 2008
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受信: 16:12, Sunday, Nov 02, 2008
■講評
思ったとおりの展開で面白かった。喋りに比べて地の文に硬い言葉があって、ちょいと・・・。
【アイデア】+1、【描写力】0、【構成力】0、【恐怖度】0
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名前: 尚休 ¦ 16:39, Wednesday, Aug 27, 2008 ×
うーん。所々の描写が気になります。時間の描写?(三十秒後、五分四十秒後など)深い意味があったのかまったく意味がないのか理解しきれませんでした。全体を通してコント仕立てになっているので、どうしても裏があるのかと深読みしながら読んでしまいました。社長の縁起の悪い木の説明のセリフもちょっと違和感が。コントで行くなら、とことんコントにこだわればいいし、ただ説明したいのであればもう少し自然に取り入れるか、またはバッサリと切り取っても良かったと思います。その後の社長のセリフで「抜いてもうたらええ」と言うのなら、やり手の社長であれば、とっとと引っこ抜いてしまうのではないかと思ってしまいました。この作品を通して読んでみると、コント、グロ、幽霊、とんちと盛りだくさんですが、その分全体的に印象が薄まったような感じを受けました。 ちなみに個人的に最後のとんちはどうかと(笑)だって、日本人の友人が来て、豚肉食べたら終わりじゃないですか。 後、そのばあさん、入居者が変わるとリセットされる仕組みなんでしょうか。
【アイデア】+1、【描写力】-1、【構成力】-1、【恐怖度】0
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名前: 茶毛 ¦ 19:14, Wednesday, Aug 27, 2008 ×
-長所- ・「ナニワ金融道」を思わせる関西ノリの会話が作品の軽さに合っていて読みやすい。 ・作風はコミカルながら豚や庭木の話はしっかりと書かれていて良かった。 ・「ハンニバル」を思わせる豚のアイデアも絡めて、いわくつき物件を外国人に貸してしまう展開が面白い。 ・ケリムさんが高田同様に失踪する可能性も全くないとは言えず、社長の策が果たしてうまくいくのかどうかも分からないところがブラックである。
-短所- ・冒頭に出てくる苦虫や蛇を使った表現が多少こなれていないように見える。もっと素直に書いても良かったのでは、と思う。また、冒頭部分は読み手を引きつける重要な部分なので、早めに本題に入っても良いように感じた。 ・ニコニコ不動産という名前からしてこの作品がコミカルなのは分かるものの、実際には家賃滞納のリスク等から外国人入居に関しては渋るオーナーが多いと思われるので、いわくつき物件とはいえ、そのあたりのリアルさは少し気になった。ただ、社長や秋山ちゃんの様子を見ていると、この会社が随分キャリアの浅そうな会社にも感じるので、作風に見合ったオチと展開であるようには思った。
【アイデア】1、【描写力】0、【構成力】0、【恐怖度】0 |
名前: 廻転寿司 ¦ 19:27, Wednesday, Aug 27, 2008 ×
アイデア +1 描写力 +1 構成力 +1 恐怖度 ±0
面白かった。 社長の大阪弁がうさんくささを強めている。 豚に喰い殺される場面はグロいが、ムスリムならば大丈夫だろうとするところは面白い。本当に大丈夫そうな気がする。
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名前: くりちゃん ¦ 19:48, Wednesday, Aug 27, 2008 ×
そこまで嫌がらせして夜逃げしなくても(笑)。
おもしろかったですね。 でも、一度出ると以降は出ずっぱりってのはちょっと苦しかったですかね。 おもしろいアイディアだけどね。
【アイデア】+1 【描写力】 0 【構成力】 0 【恐怖度】 0 |
名前: ユージーン ¦ 21:00, Wednesday, Aug 27, 2008 ×
あ、なるほどなー。 豚肉を料理しない方法を考えながら読んでいましたが、その手がありましたね。 大阪弁も上手く書けており、軽快で非常に読みやすかったです。
【アイデア】+1 【描写力】+1 【構成力】 0 【恐怖度】 0
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名前: PM ¦ 23:02, Wednesday, Aug 27, 2008 ×
いやいや、一本とられた。 面白かった。 何で豚肉なんんだろう。 最後のオチのためとはいえ、その辺の理由を考えておいてもよかったのでは。 【アイデア】+1 【描写力】+1 【構成力】 +1 【恐怖度】 0
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名前: 華鹿 ¦ 01:08, Friday, Aug 29, 2008 ×
幽霊にも、祟りにも太刀打ち出来ないのは 強欲な人間(^^;) 社長の強烈なキャラが効いています。 でもね、先が読めちゃうんだなぁ…。 社長と、何も知らないケリムさんに、 一点づつ。 |
名前: ちゅん ¦ 14:28, Thursday, Sep 04, 2008 ×
関西弁でトントンと話が進むあたりは、テンポがよくとても 読みやすかったです。後は展開が読めてしまう所と、コミカル さのさじ加減が失敗した所が、作品の印象を逆に薄くして しまった気がします。
【アイデア】0 【描写力】1 【構成力】±0 【恐怖度】0 |
名前: 蓮 ¦ 00:16, Monday, Sep 15, 2008 ×
作者が楽しみながら書いたのではないでしょうか。 軽快なセリフ回しが作品の色を決めてしまい、好き嫌いが分かれる作品になってしまってます。
発想・1 文章・0 構成・1 恐怖・0 |
名前: 暗沌子 ¦ 02:52, Sunday, Sep 21, 2008 ×
社長さんのキャラがいいですね。おかげで怖くないですけど。
【アイデア】+1 【描写力】+1 【構成力】0 【恐怖度】0
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名前: 猫塚イスマ ¦ 00:07, Friday, Sep 26, 2008 ×
アイデア+1 構成+1 読みやすく、綺麗にまとまっていて、最後はくるっと円満解決。 面白かったがあっさりしすぎてちょっと物足りないか。
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名前: 戯作三昧 ¦ 21:58, Tuesday, Oct 14, 2008 ×
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