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お化け屋敷
「凄い人だね、いい歳して遊園地なんか来るなって言うの」
「それ言ったら自分も入っちゃうよ」
めぐみとしおりは行き交う人々を眺めながらベンチに腰を下ろした。
彼女たちは入社二年目の同期だ。
今日はやはり同期の直人と修一を誘って遊園地に遊びに来ていた。

「それでどうなの、修一くんにはもう話したの?」
めぐみが野次馬の目をしてしおりを肘で小突く。
「えっ、まだそういうことは何も話してないよ、いくら何でも早過ぎだって」
しおりは首をすくめる。
めぐみと直人が付き合っていて、そのめぐみと仲の良いしおりに頼まれて直人が修一を誘ったのだった。
直人と修一は入社以前からの友人でめぐみが嫉妬しそうなほど仲が良い。
「直人の情報だと修一くん、しおりのこと結構気に入ってるみたいだよ」
「え〜っ、本当に?」
嬉しそうに声のトーンが上がる。
「本当だよ、昨日直人に聞いたんだから、後はしおりがしっかりやってよ」
「うん、わかってる」
今度は緊張した面持ちで答える。
しおりは今日帰るまでに修一に告白するとめぐみに宣言していた。
「よお、お待たせ、売店まで混んでて参ったよ」
ソフトクリームを二つずつ持った直人と修一が戻って来た。
バリバリ体育会系の直人に対して物腰の柔らかい修一。
仲がいい割に共通点は少ない。
「今日は思っていた以上に込んでるね」
修一はソフトクリームをしおりに渡した。
「これじゃひとつ乗るのにも一苦労だね、帰るまでにあと幾つ乗れるかな?」
しおりの本音としては修一と一緒ならこのベンチに座っているただけでも良かった。
「絶叫系を中心にするとあまり乗れないかも、結構待ち時間があるみたいだから」
「えーっ、そうなの?」
横からめぐみが割り込んだ。
「アトラクションならあっちに空いてるのがひとつあったぞ」
直人が人々の賑わいとは外れた方向を指差した。
「そんなのあったか?」
修一が首を捻った。
「あったぞ、お化け屋敷」
「お化け屋敷なんて有ったかな?」
しおりが入場券の裏の案内を眺める。
「いいからいいから、見るだけ見に行ってみよう」
めぐみがしおりの腕を引っ張って立ち上がらせた。
そして耳元で囁く。
「本当にお化け屋敷だったら抱き付いちゃうチャンスじゃない、上手くやりなよ」
「う、うん」
しおりはぎこちない笑みでうなずいた。

「これがお化け屋敷なわけ?」
予想とまったく違うたたずまいにめぐみが首を傾げる。
それは蔦で覆われた倉庫のような凹凸の少ない建物だった。
隙間無く這った蔦のせいで本来の壁の色がまったく見え無い。
壁のところどころには裸のマネキンが蔦で磔にされている。
怖いというよりエログロで悪趣味な装飾だ。
「お化け屋敷と言われればお化け屋敷だけど何処にもそう書いて無いね?」
しおりが壁のマネキンたちを見上げる。
ここが何のアトラクションなのかを示す看板も表示も一切無かった。
「でも他に無いだろう?」
「そうだな」
直人の意見に修一がうなずく。
「入口って何処なの?」
めぐみ言うとおり正面には蔦の這う緑の壁があるだけだ。
「そう言われると入口が無いか」
直人と修一が建物の左右を覗き込んだ。
両側は倉庫で人の入れそうな隙間は無かった。
「こっちにも無いな」
「無いね、裏でも無さそうだし」
裏側は遊園地の境界を示すフェンスがあるだけで入園者用の通路は無い。
「いらっしゃいませ」
いきなり声がしてめぐみは危うく悲鳴を上げるところだった。
さっきまで何も無かった筈の正面の壁に入口らしき穴がぽっかりと開いている。
その傍らにピエロの化粧をした老人がいた。
他のマネキン同様に蔦に磔にされている。
「いらっしゃいませ」
老ピエロは機械のように繰り返す。
「うわ」
めぐみは露骨に嫌な顔をした。
「あの、これってお化け屋敷ですよね?」
「いらっしゃいませ」
直人の問い掛けにも同じ挨拶を繰り返す。
「もしかして人形なの?」
しおりが修一に囁く。
週一は老ピエロに目を凝らしたが濃い化粧のせいで判別が難しい。
「……違うみたいだね」
血走った眼を見るに至ってやっと人形じゃ無いとわかった。
「気味が悪いのもお化け屋敷の演出なんじゃないかな?」
「ああ、なるほど」
ふたりが感心している横でめぐみは首を横に振った。
「あたし無理、これは無理だわ」
「えーっ、めぐみは入らないのかよ、だったら入るのは俺たち三人だな」
直人はめぐみから離れてしおりと修一の後ろに並んだ。
「直人はあたしと付き合って」
めぐみはまったく空気を読んでない直人を二人から引き剥がした。
「さっきのベンチで待ち合わせね」
めぐみは直人を引っ張り振り返ってウインクした。

「行こうか」
「うん」
しおりと修一は揃って入口に進んだ。
一歩足を踏み入れただけで森林よりももっと濃い緑の匂いがする。
表で見たよりもずっと奥行きが有りそうだ。
廊下の向こう側が暗くて良く見えない。
「内側の壁も蔦なんだ」
修一が感心して周囲を見回す。
「本物の蔦なんだね」
しおりは蔦の葉に触れた。
自然としおりと修一は手を繋ぐ。
背後でガサガサと音がして急に暗さが増した。
「修一くん、後ろ」
しおりの声に振り返ると入口が消えていた。
扉が閉じたのではなく蔦で覆われた壁になっている。
四方からガサガサと葉が擦れる音がした。
修一がしおりを抱き寄せて庇う。
「何なのこれ?」
しおりはうねりながら迫る壁と天井に木漏れ日のような光が射しているのを見た。

「あ〜あ、俺も入りたかったな」
「バカ言わないでよ、しおりと修一くんがいい感じなのに割り込めるあんたのその神経がマジ信じられない」
直人とめぐみはベンチまで戻ってジュースを飲んでいる。
「だってすげぇ雰囲気出てたろう、あのピエロのジイさんもヤバいけど壁に張り付いてたマネキンなんか『逃げろ』って喋ってたんだぜ」
「えっ、マネキンが喋ってたの?」
めぐみはハラハラしながらしおりに注目していたのでお化け屋敷そのものはほとんど見て無かった。
「ああ、身体を動かして喋ってたぞ、しかも喋ってる途中で蔦の中にスボッて沈んじまった」
「へえ、凄いね」
「何だ見て無かったのか? 壁のマネキンは全部動いてたんだぞ、どれもミイラっぽくて気持ち悪かったけどな」
「気持ち悪すぎて人気が無いのかな、お客さんは他に誰もいなかったし」
「いいねそれ、なあ、やっぱ俺たちも入ろうぜ」
「もう仕方ないな、でも入るのは二人が出て来てからだからね」
お許しを貰った直人はめぐみの手を引っ張った。
「わかってるよ」
「本当はめぐみも入りたんじゃないか?」
「そんなわけないでしょう」
呆れ顔で付いて行った。

「えっ、嘘だろ、何で無いんだよ」
直人が立ち止まり強張った表情で振り返った。
「えっ、でも、ここだったよね」
めぐみは慌てて周囲を見回す。
「マジかよ、いったいどうなってるんだ?」
お化け屋敷が無くなっていた。
両側の倉庫はそのままでお化け屋敷があった場所だけ芝生を植えられた空き地になっている。
その向こう側はフェンスがあるだけだ。
「俺たち道を間違えたのか?」
「そんなわけ無いでしょう、角を一回曲がるだけなのに間違うわけ無いよ」
「そうだよな」
めぐみが携帯を取り出したので直人も慌ててポケットから携帯を出した。
『……電波の届かない場所にあるか、電源が入ってません……』
しおりと修一どちらの携帯も繋がら無い。
「いったい、どうなってんだ?」

めぐみと直人は遊園地の管理事務所に行った。
「そんなお化け屋敷なんてありませんよ」
職員が首を捻る。
それでも直人が状況を説明すると職員総出で探してくれた。
しかし、しおりと修一も蔦を生やしたお化け屋敷も見付から無い。
夕方、警察にも連絡したが状況に変化は無かった。
閉園時間が過ぎても二人は戻らない。
駐車場には四人が乗ってきた直人の車だけが残されていた。
「チクショウ、何だって言うんだ」
直人は血が滲むほど拳を強く握った。
「待ってろよ、絶対に見付けてやるから」

後日、警察の捜査で入園者の何人かが蔦に覆われた建物を見ていたことだけが確認された。
結局それ以上の情報が出ることは無く世間は二人が駆け落ちしたと強引に結論した。

「めぐみ、わかったぞ! あれはお化け屋敷じゃなかったんだ!」
深夜、携帯の向こうで直人が興奮した声で叫んでいた。
電波の状態がかなり悪い。
「お化け屋敷じゃないってどういうことなの?」
「わかったんだ!」
しおりと修一の失踪から一ヶ月が過ぎようとしていた。
「直人、あんたいま何処にいるの?」
直人はあれからほとんど会社に来ていなかった。
めぐみも携帯で話しただけで会っていない。
直人だけがずっと修一とめぐみを探し続けていたのだ。
「生きてるんだ! こいつは生きてる! 全部マネキンじゃ無かったんだ! 修一! ああ、しおりまで! チクショウどうなってるんだ!」
携帯の向こうでガサガサと木の葉が擦れる様な音が大きくなり直人の声を掻き消した。
「直人どうしたの! 修一くんとしおりがいたの? 直人答えて! 直人!」
めぐみは携帯に向かって叫んだ。
「……」
通話は切れていた。

何度掛けなおしても直人の携帯に繋がることは無かった。



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展開としてはかなりベタな部類ではないかと思います。遊園地のアトラクションならではの怪しさや、ピエロのトリックスターぶりをもうちょっ... ... 続きを読む

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登場人物が割りと多くてにぎやかな感じがするだけで、題名から考えられる「本物が出てくる」っていう古典的で典型的なオチの範疇を抜け出せていない。看板も人気もないお化け屋敷に何の疑いもなく入っていくというところに猛烈な違和感を感じた。【発想】.... ... 続きを読む

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長さの割に、内容はお化け屋敷と共にカップルが行方不明になるというベタなもの。台詞だけで話が展開されている部分も多いが、その多くは地の文でコンパクトに纏められる。台詞の応酬だけでは、文が幼く見えてしまうのは否めない。お化け屋敷自体の外観も想像し辛かった。 ... 続きを読む

受信: 22:30, Monday, Sep 22, 2008

» お化け屋敷 [恐怖の脳みそ(改)から] ×
観客を呑み込んで遊園地から消える謎のお化け屋敷、というアイデアはものすごく良い。蔦の這う建物の描写にもわくわくするが、前半の説明的な展開がもたついてしまって緊迫感が薄れてしまった。最後の直人の台詞は「どうやって見つけたか?」の説明がないので、違和感ば .. ... 続きを読む

受信: 14:07, Monday, Nov 10, 2008

■講評

う〜ん、ありがちだなあ。書き込んであって読み易いし、長さも気にならなかったんだけど。

【アイデア】-1、【描写力】+1、【構成力】0、【恐怖度】0

名前: 尚休 ¦ 17:27, Wednesday, Aug 27, 2008 ×


-長所-
・若者らしい感じが文章から出ている。
・おかしなお化け屋敷ごと消えてしまい、この後どうなるのか、何か期待を持たせる。

-短所-
・文章量が多い割にはストーリーが遅々として進まない。会話も4人揃って特徴がないので誰の会話なのか分かりにくい。4人の会話の多くは地の文で説明しても間に合うので、もう少し内容を短く纏めた方が良いと思う。
・終盤に来るまでには、お化け屋敷が何かおかしな物であることは読者には既に伝わっているので、この状況で最後に直人が真相を喋って失踪しても意外性がない。ありがちな終わり方なだけに、もっと何か他の展開がほしかったと思う。

【アイデア】-1、【描写力】0、【構成力】0、【恐怖度】0

名前: 廻転寿司 ¦ 19:36, Wednesday, Aug 27, 2008 ×


取り込まれてしまう事は予想できたが、建物自体が消えてしまう事は予想外でした。素直に書かれているとは思うのですが、蔦シリーズは取り込まれて終わりという展開が定番になっているので、消えてしまった後の方を膨らませていただきたかった。意思を持った建物という名の生き物。その存在は選ばれた者しか確認する事が出来ない、というアイデアは良かったと思います。ただ、直人が一ヵ月後に突然建物を発見する事に違和感を覚える。何かその為の道筋や流れを仕込んでおくと納得しやすいかと。

【アイデア】+1、【描写力】0、【構成力】-1、【恐怖度】0

名前: 茶毛 ¦ 20:06, Wednesday, Aug 27, 2008 ×


アイデア +1
描写力 +1
構成力 ±0
恐怖度 ±0

面白かったが、導入部の会話がもたついている。会話に量を費やすよりもやはり蔦の館に入ってからの事や後日談の方に比重を重くして欲しかった。

名前: くりちゃん ¦ 20:45, Wednesday, Aug 27, 2008 ×


 謎の幽霊屋敷の描写がいいですね。
 こりゃ、私なら入らずに逃げる。絶対。

 ただまあ、「本物の幽霊屋敷」ってのはネタ的にはそのままなので、もうひとつひねりが欲しかったかな。
 また、こういう言い方はなんですが、最初に消えてしまう二人ってのは登場人物ではありますが、小道具の延長なんですよね。見事に消えてくれればそれでいい。
 背景が特に物語に影響のない人物は類型的でわかりやすい人物に設定して簡潔に説明するだけでいいでしょう。
 その辺を見極めて割きりができるようになるとスムーズに展開できるようになると思います。

【アイデア】 0 【描写力】+1 【構成力】 0 【恐怖度】 0

名前: ユージーン ¦ 22:04, Wednesday, Aug 27, 2008 ×


全体的には上手く書けているかとは思いますが、序盤、4人の関係が少々把握し辛く、誰と誰が付き合ってて、誰が誰を好いてて…みたいなのがあまり頭に入ってきませんでした。
展開もまあ、スタンダードでよくある話ですし、前半の告白云々の部分は事件そのものにあまり深く絡んでいないので、もう少し削れる部分はあったかなぁと思います。

【アイデア】 0 【描写力】 0 【構成力】 0 【恐怖度】 0

名前: PM ¦ 23:37, Wednesday, Aug 27, 2008 ×


少々、人間関係が把握しにくかった。
展開は結構ベタな気がする。

【アイデア】 +1 【描写力】0 【構成力】 0 【恐怖度】 0

名前: 華鹿 ¦ 01:22, Friday, Aug 29, 2008 ×


何だろう、この消化不良感…胃薬ください…。
映画の導入部分しか見られなかった
感じに似ている…。
急に終わった感じもするし。
急にネタに飽きて無理矢理終わらせたみたいな…。

名前: ちゅん ¦ 14:52, Thursday, Sep 04, 2008 ×


長い割りには最後まで嫌味なく読み切れました。もっと練り
直せば更に展開がスムーズになったかなと思います。
あとは、どうしても終盤が予想通りになってしまっていたので、
思いきってもっと長く、直人に重要な役割を持たせるなどして
独自の捻りが付け加えられるとよかったかなと思います。

【アイデア】0 【描写力】1 【構成力】±0 【恐怖度】0

名前: 蓮 ¦ 16:15, Sunday, Sep 14, 2008 ×


台詞のやり取りで物語が展開していく為、小説として弱いような気がします。
肝心のお化け屋敷も地の文に説得力が無いせいか、全く想像できませんでした。

発想・0 文章・−1 構成・0 恐怖・0

名前: 暗沌子 ¦ 01:30, Tuesday, Sep 23, 2008 ×


移動するお化け屋敷って嫌ですね。ありがちな展開といえばありがちかな。


【アイデア】+1 【描写力】 0 【構成力】 0 【恐怖度】 +1

名前: 猫塚イスマ ¦ 11:55, Tuesday, Sep 23, 2008 ×


恐怖+1
ありがちな展開ながら、怖さは感じた。
ただこれからもっと話が発展していきそうな気配を感じる。
モルダーとスカリーが調査にやってきそうな。

名前: 戯作三昧 ¦ 03:16, Wednesday, Oct 15, 2008 ×


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