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獅子舞舞
 タクシーを降りて見慣れたボロアパートのドアの前に立つと、足元に見慣れないものがあった。
 赤い顔の獅子舞がひとつ。
 こんなものを人の玄関先に置いていくようなバカは、俺の知る限りではたった二人しかいない。
 きっとその二人はそこらの物陰で息を潜め、俺のリアクションを待ち望んでいるに違いない。
 ならば、それに答えねばなるまい。
 俺はその獅子舞を手に取り、唐草模様の布をまくり上げると、一気に頭に被せた。

 木の手触りだが思ったよりも軽く、頭にジャストフィットする。
 丸くくりぬかれた覗き穴からは、外の風景がよく見える。
 これで踊りながら獅子舞の口をカパカパ鳴らし、脱いだら「ちゃ〜」とでも言えば奴らも満足だろう。
 そう思った時、おあつらえ向きの音楽が流れてきた。
 生演奏のようなこの音質、MDやiPodじゃなくてメタルテープだな。
 よかろう、お前らの本気、しかと受け止めた!
 腰を落とし、ゆっくり上下左右に身体を揺らしながら、リズムに合わせて獅子舞の口を動かす。
 これがホントの口パクだ。

 ジャパニーズソウル「雅楽」のリズムに、すっかり俺は酔いしれていた。
 自然に身体が動き、瞼を閉じてリズムに身を委ねる。
 その時、隣に人の気配を感じた。
 踊りながら覗き穴から隣をうかがうと、そこには二体の獅子舞が踊っていた。
 こいつら俺をボケにするつもりではなく、はなから三人でボケ倒すつもりだったのか。
 ならば俺も遠慮はしない。誰が我慢できずにつっこむか我慢比べだ。
 再び瞼を閉じて踊りに没入する。

 三匹の獅子舞は触れるか触れないかのギリギリの距離を保ちながら、入り乱れて踊る。
 三人とも、通信教育のダンスレッスンを三週間みっちりと練習し、社交ダンス八級を取得した腕前だ。
 しかし獅子舞ダンスなどの経験はまったくない。
 にも関わらずここまで踊れるというのは、隠しきれない才能のなせる業としか言いようがない。
 しかし残念ながら、踊りと演奏はクライマックスを迎えつつあった。
 お台場冒険王ファイナルでオカザイル人形相手に習得した、あのぐるぐるダンスが見事にシンクロする。
 そして演奏が終了し、三匹の獅子舞は決めポーズを取る。
 余韻に目を閉じると、まるで拍手喝采が聞こえてくるかのようだ。

「素晴らしい!」

 ・・・・・・あれ?
 今、爺さんの声が聞こえたような。
 驚いて獅子舞を取ると、ものすごい数の観客が笑顔で拍手を続けている。
 隣を見ると、俺と同じように驚いている二人の姿がある。
「ジャージーズの皆さんじゃありませんか!」
「そう、俺がリーダーの堀田春夫です。こっちは紅一点の濱伊織、あっちはエアベース担当の上摺龍、通称ロン君」
「あなた方、何故この村の獅子踊りをご存知なのですか?」
 どうやらさっきの声はこの爺さんらしい。俺たちを取り囲むファン(うち九割が俺のファン)を押しのけ、興奮気味に俺に詰め寄る。
「はっはっはっ、アーティストとして当然のたしなみです」
 この言葉に嘘はない。俺が五秒で閃いたんだから間違いない。
「それに、こんな辺鄙な村までわざわざ、村の宝である獅子舞たちを届けてくださるなんて、今時奇特な方々でいらっしゃる。ありがたや、ありがたや・・・・・・」
「村?」
 言われてあたりを見渡すと、あのボロアパートはどこにも見当たらない。
 四方は山と田んぼと農道、そして民家が点在している。
 そして俺達の後ろには、桜の巨木が鮮やかな花吹雪を降らせている。
『お前ら、どんだけ手の込んだイリュージョンかましてるんだよ?』
 伊織に小声で耳打ちするが彼女は答えず、黙ってロン君の方を向いた。
『え、僕? 違うよ。僕も堀田君がやったんだとばかり思ってた』
 ロン君が頭をひねる。

「この獅子舞たちは江戸の頃から伝わる村の宝でございます。なんでも落雷で倒れた神木を使い、名のある仏師様が掘られたとか。
 神殿に奉納し大事に扱ってきたのですが、戦後すぐ何者かに盗まれてしまいまして。
 近隣で神仏が盗まれる事件が続いていましたから、恐らく同じ犯人に盗まれてしまったのでしょう。
 村のご神木も戦時中に切り倒され、更に獅子舞も奪われ、伝統の祭りは絶えてしまいました。
 しかし! 戦後六十年の節目に獅子舞も戻り、ご神木も良い枝振りで復活された。これは神様の思し召しでしょう!」
 爺さんが口角に泡をためながら力説する。
「この獅子舞が何で村の宝だと一目で判ったんですか?」
 さすがロン君。鋭い指摘だ。
「わが村の獅子舞は巻き耳で、荒縄の首輪がついてるんです」
「うわー、スコティッシュ獅子舞だぁ。超かわいい☆」
 伊織が興奮しながら獅子舞の頭を撫でる。
「前夜祭に獅子踊りをご神木に奉納するんですが、今年はあなた方が奉納踊りを終えてくださった。明日早速祭りを執り行いましょう。六十年ぶりの祭りです。気合が入りますなあ」
 爺さんの目がらんらんと輝いている。よっぽど念願の祭りなのだろう。
「それじゃ、俺たちはこれで・・・・・・」
「何をおっしゃいます。あなた方は祭りの主役じゃないですか。今夜は村一番の旅館で最上の郷土料理と地酒でおもてなしさせてください」
「「喜んで!」」
 俺とロン君はハモった。
 しかし伊織はそれには答えず、何処から持ち出してきたのか、メガホンを構えて大きく息を吸い込み高らかに宣言した。

「申し訳ありませんがお祭りは中止で〜す。ごめんなさいね〜!」

 その宣言に合わせて、桜の木が炎に包まれた。
 村人達は大慌てで鎮火にかかろうとするが、何処から現れたのか、宇宙服のようなものを着た連中が彼らをとり囲み、その動きを封じる。
 彼らの嘆きも通じず、やがて桜は完全に燃え尽きた。
 村人達は泣き叫びながら、その場に崩れ落ちる。
 その姿が、あっという間もなく炎に包まれる。
 彼らを取り囲んだ連中が、火炎放射器の炎を浴びせているのだ。
 嫌な臭いがあたりに立ちこめ、あたりは阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。
「おい! これは何なんだよ!」
「さしずめ、炙り祭りと言ったところかしら」
 この光景を目の前にしながら、伊織は穏やかな笑みを浮かべている。
「しょうがないのよ。村人全員、桜の毒気が回ってたから」
「毒気?」
「桜の下には遺体が眠っている、って言うでしょ。単なる俗説だけど、稀に人の味を覚えちゃう桜が出るのよ。
 この桜もそうで、村人を集めては次々と生贄にしてたって話よ」
「何処の情報だよ。第一、お前もあいつらも、一体なんなんだよ?」
「ないしょ☆」
 伊織は口元に指を当ててウインクをした。
「うーんかわいいから許しちゃう、って、許せるかっ! 大量殺人だぞこれ!」
「いいのいいの。どっちみち正気には戻らないから。ほら」
 伊織がロン君を指差す。
 なんと、ロン君がネクタイで自分の首を絞めている。
 止めないと死ぬ!
 ……あれ? 死ぬのってそんなに悪いことだっけ?
 いや、死ぬのって気持ちいいんじゃないか?
 ロン君だけにいい思いさせてる場合かよ。
 早く死なないと。
「なあ伊織、ロープくれよ」
「その眼、やっぱり堀田君もダメだったんだ」
「お前は死にたくないのか? 楽しいぞ、きっと」
「遠慮しとくわ」
 伊織が俺から離れ、代わりに火炎放射器を持った連中が俺とロン君を囲む。
「さよなら」
 その言葉とともに炎が浴びせられる。
 汚れをそぎ落とすように、炎が体中を走る。
 ああ、これも悪くない。



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» 【+3】獅子舞舞 [恐怖の脳みそから] ×
やあ、ロン君。と思ったら、堀田春夫死す!前半の踊り狂うシーンはもう最高である。大好きな濃いネタがみっちり詰まった文章がたまらない。踊りということでテンポも良い。伊織のメガホン宣言から急に雰囲気が変わるが、いささかグロい状況での燃えるフィナーレ。これも .. ... 続きを読む

受信: 20:15, Wednesday, Oct 01, 2008

■講評

-長所-
・いきなり現れた獅子舞セットでつい踊り出してしまう主人公の行動が面白い。
・獅子舞セットを脱ぐと違う場所に飛んでいる展開が、先に期待を持たせる。

-短所-
・獅子舞の後におかしな村へ飛んできた前半の堀田達は面白そうな感じがしたのだが、後半で伊織が祭りの中止を宣言してからの構成に纏まりがなくなったように思う。人物同士で一方的に内容を理解している説明が後半から多くなるのも原因の一つと感じるが、おかしな話なのでおかしな終わり方で済むという安易な構成が良くないと思う。堀田ワールドを前提に作られた何でもありの作品であっても、どこかに現実世界との接点を意識的に作らなければ面白くならないような気がした。

【アイデア】0、【描写力】0、【構成力】-1、【恐怖度】-1

名前: 廻転寿司 ¦ 14:42, Friday, Aug 29, 2008 ×


あ、やっとロンが出てきましたね。
3人揃った堀田ものですが、前半の展開は面白かったです。
ただ、伊織の宣言辺りから急展開過ぎて、ちょっとついていけませんでした。
伊織の目的や火炎放射兵との繋がりなど、この辺何かしら裏付けがあると良かったように思えます。
エマ・ワトソンが「ないしょ☆」って言ってくれるなら許せそうなんですけどねぇ…。ええ…。

【アイデア】+1 【描写力】 0 【構成力】 0 【恐怖度】 0

名前: PM ¦ 20:46, Friday, Aug 29, 2008 ×


 原点回帰って感じになってますね。
 初期のグダグダ感がなんとも言えません(笑)。
 ここまで破天荒だとこれはこれでいいんじゃないかと。
 堀田君の次の活躍を期待してます。

【アイデア】 0 【描写力】 0 【構成力】 0 【破天荒度】+1

名前: ユージーン ¦ 20:55, Friday, Aug 29, 2008 ×


獅子舞の頭ってかぶるものじゃなくて、手だけ入れてカパカパするんですよ〜。
この作品を読んで、初期の堀田シリーズを思い出しました。最近の内容は上手く纏まっている。逆に言うと、世界観で押し通しているという感じだったのですが、この作品は最初の頃の臭いがします。キャラ、描写、無茶な展開。押して押してこのオチかい、と。作者が違った作品もあったとは思うのですが、この作品の方が正直勢いがありますよね。ただ、その分、流れが壊れてしまっています。ちょっと勿体無かったような印象を受けました。(所々の描写でツボにはまった所があったので、勿体無い)

【アイデア】0、【描写力】+1、【構成力】0、【恐怖度】-1

名前: 茶毛 ¦ 23:14, Friday, Aug 29, 2008 ×


あら〜、堀田君、死んじゃうのか〜。
面白いかも、とは思うが、もちょっと物知りになったほうが・・・。

【アイデア】0、【描写力】0、【構成力】0、【恐怖度】0

名前: 尚休 ¦ 16:05, Saturday, Aug 30, 2008 ×


アイデア +1
描写力 +1
構成力 ±0
恐怖度 ±0

前半は面白かった、「濱伊織」が中止を宣言するまでは。
それから後は話を終えるための無理矢理感が漂ってくる。
獅子舞の行等は面白かっただけに残念。


名前: くりちゃん ¦ 22:40, Saturday, Aug 30, 2008 ×


次に期待ということで。

【アイデア】0、【描写力】0、【構成力】0、【恐怖度】0

名前: 華鹿 ¦ 15:57, Sunday, Aug 31, 2008 ×


前半と後半が一致していない。
前半のバカっぽさはどこへ?
せっかく、しっかり確定したキャラを使って
ここまでバカをやってくれたのに、
突然ビンタで起こされて夢だったよと言われた感じの「寝オチかよ!」感があって…。
後半の正気に戻りっぷりに、しらけます。

名前: ちゅん ¦ 13:54, Friday, Sep 05, 2008 ×


何とか前半だけで話を終わらせる事は…できないんですよね。
しかし、よくこれだけ勢いよく書けますね。そこが+評価です。
あと、堀田春夫を出さずとも充分新キャラで…というのも著者の方はイヤだったんですよね。

【アイデア】±0 【描写力】1 【構成力】±0 【恐怖度】0


名前: 蓮 ¦ 14:43, Sunday, Sep 14, 2008 ×


獅子頭って、頭にジャストフィットするぐらいスッポリかぶれるのでしょうか?
面白くテンポがある文章と、ふざけた文章は違うと思います。
個人的に、台詞に☆マークを入れて感情を表すやり方は好きではありません。
前半部と後半部の色が変わったのは、作者がこのままでは収拾がつかないと思ったからではないでしょうか。

発想・−1 文章・−1 構成・−1 恐怖・−1

名前: 暗沌子 ¦ 01:57, Tuesday, Sep 23, 2008 ×


獅子舞の踊り狂うところが面白かったです。

その後は置いてきぼりでしたが。

でも、無茶な展開も魅力かなと思えて来ました。


【アイデア】+1 【描写力】0 【構成力】0 【恐怖度】+1

名前: 猫塚イスマ ¦ 02:08, Friday, Sep 26, 2008 ×



祭りが中止になるまでは良かったのだが。
収集がつかなくなって苦し紛れの展開になってしまった感じ。

名前: 戯作三昧 ¦ 05:11, Wednesday, Oct 15, 2008 ×


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