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シゲルさん
「あ・・・美香・・・・久しぶりだな」
 美香とケンジが会うのは別れてから、一ヶ月ぶりだった。
 共通の友人との飲み会でこうして会うことになったせいか、妙に気まずい。
「まあ、まあ」
 しまったという顔で二人の共通の友人である薫は、美香とケンジをテーブルの端と端に座らせ、なるべくお互いが離れる位置に座らせた。
 最近飲んでないからという薫の提案で、駅近くの安く呑める居酒屋に集合した。
 メンバーは美香、ケンジ、薫、そして他に男女5人の計8人。
 全員同じ大学のアトリエで油絵を描いているメンバーで、美香とケンジの関係にひびが入ってからというもの、アトリエ内の空気は最悪の状態で、見るに見かねた薫が今回の飲み会を企画したのだ。
 適当につまみになるものを注文すると、先に頼んでおいたビールがテーブルに並んだ。
「それじゃあ」
 薫のその声を合図に乾杯となり飲み会は始まった。

 美香はメンバーの会話に適当に合わせながら、頭の中ではケンジとのことを考えていた。
 美香とケンジは二年ほど付き合った。
 告白も別れの言葉もどちらもケンジからだった。
 メールで(別れよう)の一言だけ。
 美香の『どうして』にケンジは『面倒くさい』で返し、それ以上の言葉はなく、美香にとって納得のいくものではなかった」。
 美香の方は付き合いはうまくいっていたと思っていた矢先の別れだったせいもあり、まだ気持ちの整理はついていなかった。
  しかし、ケンジの方は完全に終わったことなのだろう、飲みながら友人達と話している姿がやけに楽しそうに見え、美香の中でもやもやとした何ともいえない怒りのような感情が沸いていた。
(自分から別れたんだから、少しはこっちの身にもなってよ。気を使えっていうの)
(なんでこんなへらへら笑うような男と付き合ったんだろう)
 そんな愚痴にも似た感情が美香の中で渦を巻いていた。

 その様子を隣に座り感じ取った薫が気を使うようにこんな話を友人たちに振って、会話を遮った。
「ねぇねぇ。“シゲルさん”って知ってる?」
 その場のメンバーの顔に?マークが浮かんだ。
「なに、それ・・・」
 その反応を見てから薫はこう切り出した。
「口避け女とかと同じようなノリの都市伝説なのだけどね・・・・」
 薫が言うには次のような内容だった。

 昔、ある北関東にシゲルという老人がいた。
 高齢のせいもあり目が悪く、耳がいいことが唯一の救いのような人だった。
 ある日、シゲルさんの家が火事になり、たまたま一人で家いたシゲルは裸足のまま、慌てて外に飛び出した。
 しかし運の悪いことに、玄関から外に飛び出したシゲルさんはたまたま通りかかったトラックに撥ねられてしまう。
 命は助かったものの、酷い火傷と両腕を切断、その後回復することなく、亡くなってしまった。
 不憫に思った家族は墓前にお花と一緒にシゲルさんの好きだったコケシを置いという。
 しかし、このコケシの姿が事故後の両腕を失った“シゲルさん”の姿と似ているという理由から“シゲルさん”の霊の怒りを買うことになり、一家全員原因不明の病で亡くなったという。
 
 薫はそこまで真剣な顔で説明すると、今度は一転、笑顔でこう付け加えた。
「・・・・で、ここからがよくある話っていうのかな。この話の中では“シゲルさん”は老人というだけで、わざと性別は明かされてないのよ。だからもし“シゲルさん”が出たら『シゲルさんは男ですか、女ですか』って言ってから『あなたはおばあさんですよ』っていうとそのまま消えて、『あなたはおじいさんですよ』っていうと取り付かれて殺されてしまうんだって。他にも『あなたはコケシですよ』って言うと両腕をもっていかれるとか、答え方でいろいろバージョンがあるんだって」
 その場に居る全員が
「小学生じゃないんだから」
「よくある話だろう」
 そういって誰も本気にしなかった。
 皆、お酒の席での冗談、そう思って聞いていた。
 薫は話を続けた。
「でも『あなたはおばあさんですよ』っていう代わりに『あなたの両腕は××が持ってますよ』って誰かの名前で答えると、その誰かのところに腕を貰いに出るんだって」
 そう付け加えると、ビールを口に運んだ。
「怖えー」
 ふざけて皆が怖がる振りをした。
 よくある怪談話、薫もそのつもりだった。
 しかし薫はケンジがこの手の話を苦手とするのを知っており、美香のためにと少しケンジに対して意地悪をしたのだ。
 すると美香が口を開いた。
「でもどうやったらその“シゲルさん”を呼び出せるわけ?」
 その言葉に友人達は
「お前、『あなたの両腕はケンジが持ってますよ』っていう気だろう」
 と冷やかした。
「違うわよ」
 美香が笑った。
 その質問に薫はこう答えた。
「それが誰のところにも出るわけじゃなくて、シゲルさんのコケシがバトンみたいに人から人に回っていて、そのコケシが手元に回ってくると、無条件で夜中の12時に“シゲルさん”が現れるんだって。そしたら、またその人は次の人にコケシを回す仕組みらしいよ」
「なんだよそれ〜、コケシがなければ安全ってことじゃん」
「よかったな、ケンジ、美香に仕返しされなくて」
 そんな声が上がった。
 ケンジの顔に笑みが浮かぶ。
 その時だった。
「私、今コケシ持ってるよ」
 美香が不意に鞄の中から、コケシを取り出した。
 しかも8体。
「薫の言う“シゲルさん”の話は知らないけど、今日みんなで飲みに行くって話しをデザイン科の友達にしたら、じゃあお土産にこれあげるって人数分くれたよ・・・・」
 それを見て薫は
「このタイミングでコケシ出されたら怖いじゃん」
 そういって笑いながら、美香からコケシを受け取ると、その場に居る全員に配った。
「この中のどれかが本物の“シゲルさん”のコケシだったりしてな」
 最後にケンジがふざけてそう言ってこの話は終わった。
 美香はこのままみんなに気を使わせることはいけないと、今後は割り切ってケンジに接しようと心に誓った。

 しかし後日、薫と美香はケンジに呼び出された。
 待ち合わせの場所の喫茶店に薫と美香は向かった。
 ケンジは待ち合わせの時間前に店に来ていたようで、先に紅茶を飲んでいた。
 二人も同じものを注文する。
「・・・・俺、あの話、信じるよ」
 ケンジがぽそっと口を開いてそう言った。
「あの後家に出たんだよ、その・・・・・幽霊」
 薫はケンジの意外な言葉に驚いたが、ケンジの真面目な顔に冗談とは思えず、困惑した。
「どんな幽霊?」
 美香が聞いた。
「いや・・・それが黒焦げの腕のない幽霊。毎日窓の外に立ってるんだよ」
 ケンジがそう答えると
「そう、でも私たちには関係ないでしょう。自分で何とかしなよ。『あなたはおばあさんですよ』とか言えばいいんじゃなかった」
 美香は冷たく突き放すように言った。
 薫は美香の気持ちを察すると
「ごめん、私もそう思うわ」
 同じようにケンジを突き放した。
「言ったよ・・でも消えないんだよ」
 ケンジは恐る恐るコケシを美香に返した。
 美香はそのコケシを受け取ると、薫と一緒に店を出て行った。
 

「結構うまくいったね」
 店からでると薫は美香にそう話しかけた。
「薫ってばやり過ぎ。あの飲み会のあと、毎日ケンジの部屋の窓から見えるように、黒焦げの格好で立って、脅かし続けたんだから・・・」
 美香は笑いながら、薫の肩を叩いた。
「どうせやるなら気合入れてやらないとね。でも、“シゲルさん”の話は本当にあるんだよ。美香がもう別れたけど、ケンジのことがどうしても許せないって言うから協力したんじゃない。感謝してよ。そりゃなに言ったって消えないよ。幽霊じゃなくて私なんだから。毎晩大変だったんだから。幸い、ケンジはこの手のことにマジ弱いからね〜。簡単に引っかかってくれたよ」
 薫はそういうと、バイトがあるからと美香と別れて駅のほうに向かった。
(私も傷ついたんだから、これでお互い様でしょう。ああ、すっきりした)
 美香もこれで終わりにすることにした。

 その夜だった。美香の携帯にケンジから連絡が入った。
 美香が電話に出ると
「また出た、また出た、なんでだよ」
 明らかに怯えている。
(薫は今バイトに行ってるし、もう終わりっていってたのに・・・・)
 美香は首を傾げながら聞いていた。
 するとケンジはこう言った。
「お前、自分が振られたことを根に持ってなにかしたんじゃないか。なあ、本当のこと言えよ。お前のせいなんだろう。なんとかしろよ」
 確かに薫と悪戯はした。
 しかし、今起きていることに美香には関係ない。
 困ったときだけ頼ってくるケンジのその言葉に、カッとなった美香は
「いい加減にしてよ」
 と電話を切った。
「男の癖に情けない」
 そう言いながら、美香は鞄の中にあるケンジから受け取ったコケシが気になり眺めた。
「ひょっとして本物が混ざってたの?」
 当然まさかという思いの方が強かった。

 実は飲み会で話した“シゲルさん”には嘘の部分があり本当は『あなたはおばあさんですよ』と言っても『あなたはおじいさんですよ』と言ってもいいから、とにかく裸足のシゲルさんのために靴を用意して上げなければいけないという本当のルールが存在した。
 そうしないと永遠に“シゲルさん”に付き纏われ、殺されると内容だ。
 最後の『あなたの両腕は××が持っていますよ』というのは薫と美香が勝手に考えて、その場の勢いで付け足したものだった。
「まあ、いっか・・・」
 もし仮にこのコケシが本物で、ケンジが犠牲になっても知ったことではない。
 しかし美香は万が一の場合に備えて玄関から一足、靴を持ってくるとベッド脇の床に置いた。
 そしてそのままベッドに入ると静かに目を閉じ横になった。


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この都市伝説は良く考えられていると思う。だが導入部がもたついているため、作品全体がやや締まりが悪く感じられた。どうせなら、冒頭部分をバッサリ落として「ねえ、“シゲルさん”って知ってる?」とおもむろに薫が話し出すところから始めても良かったのではないだろ .. ... 続きを読む

受信: 23:17, Monday, Sep 22, 2008

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「シゲルさん」の都市伝説の部分は良く考えられている。しかし薫が話し出すまでの導入部が少々煩雑でわかりにくい。男性名のケンジやシゲルが片仮名で、女性名の美香や薫が漢字なのは何か意味があるのだろうか?ちょっと気になった。怖い目に遭遇しているのもケンジだけ .. ... 続きを読む

受信: 17:21, Friday, Nov 21, 2008

■講評

-長所-
・舞台設定や人物関係、シゲルさんの都市伝説などがうまく構成されていて、なかなか面白かった。

-短所-
・シゲルさんの話が出る迄の冒頭の説明が込み入って分かりにくかった。シゲルさんが話のメインなので、冒頭は簡潔にしてすぐ本題に入った方が良いと思う。
・作品の仕掛け自体はとても良くできているのだが、その仕掛けを動かしている美香の心情がふらついているように思う。作中に書かれたふられ方程度でここまでの仕打ちをするのかどうかが良く分からなかったので、人物の設定も作品の仕掛けと同様に、もう少し作り込まれていればと感じた。
・いろいろと仕掛けはあるものの、最後には本物が出てくるという展開がやはり定番で、意外性のないままで終わったように思う。嘘の次にまた別の嘘という作りは面白いのだが、最後が本物の登場を匂わせるだけではちょっと印象が弱かったと感じる。

【アイデア】1、【描写力】0、【構成力】0、【恐怖度】0

名前: 廻転寿司 ¦ 15:02, Friday, Aug 29, 2008 ×


シゲルさんの設定が細かく、筋もしっかりしているのですが、ちょっと展開が都市伝説系ではありきたりのようにも思えます。
もうちょっとこの設定を活かして、結末は一捻りというか、二捻りくらいは欲しかったところですね。

【アイデア】+1 【描写力】+1 【構成力】-1 【恐怖度】 0

名前: PM ¦ 21:10, Friday, Aug 29, 2008 ×


 キチンと考えて組立ててありますね。
 元になる都市伝説から考えてあって2重に大変だったと思います。

 偽物だと思ったら本物だった、というのは仕掛けとしてはいいんですが、その事情を規定しているのが架空の都市伝説だけなので、どんな状況でも「都市伝説だから」って事で説明できてしまう。都市伝説がオールマイティーのカードになってるんですよね。
 お話としては都市伝説という予定調和からはみ出した所におもしろさがある。
 彼が本物と出会った時に彼女が都市伝説で守られるのではなく、都市伝説からはみ出たまったく未知の状況に置かれてどうなるのかってところがおいしい訳です。
 次作に期待してます。

【アイデア】+1 【描写力】 0 【構成力】+1 【恐怖度】 0

名前: ユージーン ¦ 22:04, Friday, Aug 29, 2008 ×


美香の心情と行動に統一性が無く、理解しづらい部分がありました。オチに持って行くために書かれている都市伝説が少しくどく感じる。流れからいって、細かな説明をしなければ、という思いは解るのですが、もう少し整理をして欲しかったです。オチとしても少し弱いかなぁ。

【アイデア】0、【描写力】0、【構成力】0、【恐怖度】0

名前: 茶毛 ¦ 23:36, Friday, Aug 29, 2008 ×


少しくどい。ミスに目が行ってしまった。
どうも、この手の話は新鮮味が感じられない。

【アイデア】0、【描写力】0、【構成力】0、【恐怖度】0

名前: 尚休 ¦ 16:29, Saturday, Aug 30, 2008 ×


長い割にはもう少しかと思います。

【アイデア】1、【描写力】0、【構成力】0、【恐怖度】0

名前: 華鹿 ¦ 23:19, Sunday, Aug 31, 2008 ×


最後の「知ったことではない」
「まあいいか」は納得出来ないですよ…。
理不尽に振られたとはいえ、
死んでも知らない
ほど恨んでいる風に書かれていないですし。
いたずらが本物を呼ぶって言うのも、
よくある話ですしね。

名前: ちゅん ¦ 14:20, Friday, Sep 05, 2008 ×


語り手が統一されていないので最後まで違和感があったのかな…。
美香になったり第三者になったり。構成も書き直す毎にかなりすっきり
してくるはずです。都市伝説の「有り得そう感」は上手く考えられて
いたと思いますが、展開が定番すぎてもったいないと思いました。

【アイデア】±0 【描写力】0 【構成力】 −1 【恐怖度】 0

名前: 蓮 ¦ 11:37, Sunday, Sep 14, 2008 ×


アイデア +1
描写力 +1
構成力 +1
恐怖度 ±0

嘘から出た真的な展開が定番とはいえ、なかなか面白かった。
導入部がちょっともたついていた。

名前: くりちゃん ¦ 08:13, Friday, Sep 19, 2008 ×


都市伝説を考えるのと同じぐらい、本文も考えて欲しかったですね。 登場人物の心理描写が弱いような気が。
自分で作った人物が現われてしまう、というネタはキング氏もやっているし、中島らも氏もやっている。
本物が出たのかも、と匂わせるだけでは、これもまた弱い。

発想・0 文章・0 構成・0 恐怖・0

名前: 暗沌子 ¦ 02:11, Tuesday, Sep 23, 2008 ×


どんでん返しが効いて面白かった。

都市伝説が既存のモノと似た印象になってしまったのがちょっと残念。


【アイデア】+1 【描写力】0 【構成力】0 【恐怖度】+1

名前: 猫塚イスマ ¦ 14:02, Friday, Sep 26, 2008 ×



都市伝説自体が良く分からない。
目が不自由なのにコケシが好きなのもそうだが、両腕を失った姿に似てるから家族に祟る・・・シゲルさんコケシ好きだったんじゃないの? ていうかコケシに似てるんですかシゲルさんは。
まあそこが都市伝説っぽいと言えばそうだが。 

名前: 戯作三昧 ¦ 08:38, Wednesday, Oct 15, 2008 ×


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