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運否天賦
 ここ最近になって、やっと作家としての仕事がチラホラと入る様になってきた。
恐怖体験談などを地方紙の数ページに掲載させて頂く事が主な仕事だったが、次の仕事を依頼して頂く為にも『手は抜かず、出来る限りの仕事をする』という事をモットーに日々、忙しい毎日を過ごしていた。

 そんな私にも一つの秘密があった。幽霊の類が見えるという事だった。勿論、仕事の依頼先や友人などにもそんな話などした事も無い。子供の頃に経験済みだが、そんな話をしようものなら、ちょっと頭のおかしい人扱いされ、仲の良かった友人までが距離を置く様になっていった。子供心に話してはいけないものだと理解し、それが自分を守る方法だと思っていた。そんな私が今では食べていく為とはいえ、怪奇談を書くとは世の中とは分からないものである。

 仕事の内容は都市伝説的な話や自分の怪奇体験談を多く書いてきたが、読者のアンケートによると実話体験談がリクエストとして多いらしい。自分の体験談にも限りが有るので、恐怖体験者への取材が仕事のサイクルに組み込まれていった。ところがそれが難しい。初対面の人に「何か怖い話はありませんか?」と聞いた所で怪訝そうな顔をされてお終いである。友人、知人の微かな伝手を辿って、仕事ですという事を前面にアピールし、やっと話を聞きだせるといった具合か。しかも、時間をかけて聞き出せた内容でも、本に載せられる程の体験談は一割にも満たない。とにかく取材数を多くこなすしか残された道は無かった。

ある夜、行きつけのバーで居合わせた女性がひどく気になった。薄暗い店内の中、カウンターで一人きりで飲んでいる彼女の背後だけ、一層暗い闇を作り上げていた。 

(感が働いた。何かを彼女は持っている。恐怖談を聞ける筈だ。)

 さり気無く、空いている隣の席に座り、軽い自己紹介と何気ない雑談で彼女の緊張感を解いた。二十台半ばと思える彼女は、年齢の割に落ち着いて見えた。少し疲れた様な表情と痩せこけた顔立ち、眼の下の隈の酷さを除いたら、何処にでも居る普通のお嬢さんだった。
 頃合を見計らい、話を切り出した。
「実は私、雑誌で執筆活動を行なっているのですが、何かお話を聞けたらと思いまして…」

彼女は「私の話を聞きたいんですか…」と言ったきり黙ってしまった。

私は慌てて「いや、無理にお話を聞こうと思ってないので、はい。どうもすみませんでした」と謝罪し、グラスを手に持ち、席を移ろうとすると「なんで、私に声を掛けたんですか?」と真剣な眼差しで聞いてくる。彼女の迫力に席を移ることが出来なくなった。

「ふーっ」と息を吐き、私は腰を下ろした。
「実はあなたの後ろに黒い影が見えました。信じてもらえなくて結構ですが、私は少しそういうものが見えるので、何かありそうだなと。それで、声を掛けたんですが、不快な思いをさせてしまったみたいで…本当にすみませんでした」

 彼女は「そうですか…」
と一言言うと、私の袖をグッと掴み、鬼気迫る顔で
「やっぱり、悪いものなんですか?私は死んじゃうんですか?私が何をしたっていうんですか?どうして私なんですか?」と矢継ぎ早に聞いてきた。

「ちょ、ちょっと待って下さい。私にはそこまでの力は無いんですよ。お困りなら、知り合いの霊能者を紹介しましょうか?勿論、この手の話は胡散臭いと思われるでしょうから、あくまで良かったらということで…」

 私の名刺を手渡し、その日は別れた。


家に着くなり早速、今日の出来事をパソコンで整理していた。
予感があった。必ず連絡が来ると。
ただ、彼女の後ろに見えていた闇の事を思い出すと言い知れぬ不安が頭をよぎっていた。


しかし、そんな事は気にしてはいられない。こんな仕事をしている以上、良くある話だ。
実を言うと自宅でも幽霊の類は良く出る。これまで借りてきた部屋はことごとく当たりだった。ただそこに居るという類は無視を決め込んで過ごすとそのうち居なくなる。掴んだり、アピールしてくる類は念仏を唱えたり、塩を撒いたり、一喝すると大人しくなっていった。
そんな私でもどうしようもなくなり霊能者の方にお願いしたことが過去に数回あった。
すべて、因縁話に首を突っ込んだ時だった。それから、因縁話にはセンサーの様な物が働くようになっていた。

今回がまさにそれだった。最初は分からなかったが彼女に話し掛けた途端、私のセンサーが働いた。しかし話し掛けてしまった以上、引き返す事は出来なかった。自業自得、好奇心なんとやら…色々と頭に浮かぶが今となってはもうどうでも良かった。ただ、何か恐ろしい物に私自身が対象物として捉えられたイメージだけは、頭の中にはっきりと浮かんでいた。

 そんな事を考えているうちに携帯がなった。
「もしもし…」
彼女だった。
彼女の話を要約すると、お守りとして持っている、木で作られた珠がある。それは今は亡き祖父の遺品でもある。祖父の生前から毎年一珠ずつ誕生日にプレゼントされていたものだが祖父が居ない今は毎年母親から貰っているらしい。問題は珠の数が全部で三十一個しかない事。三十一歳で彼女が死んでしまうのではないか。三十二歳は迎えられないのではと怯えていた。

「それは考えすぎじゃあないかな。おじいちゃんがたまたま、その数までしか作ってなかったんじゃないの」明るく振る舞って話すが既に私の全身は鳥肌が立っていた。

(これはダメだ…関わってはいけない…)私の本能が激しく叫ぶ。

彼女は私の言葉を無視する様に「霊能者を紹介して欲しい」と言い出した。

「紹介するのはいいけど…」と話し出した途端、ガッと足首を何かに強く掴まれた。
皺だらけの細く痩せこけた両腕が床から生えて、私の両足首を掴んでいる。
どんどん、握る力は強くなっていく。

「いてぇー」思わず声に出てしまった。受話器の向こうで彼女が心配をしている。
(これは紹介するなって事か?この野郎、消えちまえ!)

両腕はぼやけながらゆっくりと消えていった。しかし、私の足首には赤紫色の手の跡がしっかり残っていた。

彼女に心配を掛けまいと足首を捻ったなどと嘘を吐きながら、本題を聞くことにした。ここまでされたら私も放ってはいられなくなっていたし、もしかしたら久しぶりの大物の話なのかもしれない。本能とは裏腹に作家としてのプロ根性が勝っていた。

 「因みに君は霊能者に頼る理由や何か自覚症状があるの?」

 彼女は一ヶ月位前から毎晩、夢を見ていると答えた。大勢の軍人に囲まれて「あと、ろくたま。あと、ろくねん。あと…」と延々と繰り返すらしい。もう一つはお守りとして持っていた今まで貰った珠が全てスッパリと斬られたように真っ二つに割れてしまっていた。何時、割れたのかは判らないが最近になって夢を見始めた頃に気付いたそうだ。

 (危険だな。早い方がいいだろう)
 彼女に明日また連絡をする事を約束し、電話を切った。

途端に携帯がまた鳴り出す。
彼女の番号が表示されていた。
「もしもし…」
(年配の女性の声だ)

「家には関わらないで下さい。迷惑です。娘が何を言ったか知りませんが、これ以上付き纏うと警察に言いますよ」

「ちょっと待って下さい。お嬢さんに代わって下さい」
食い下がるが一方的に切られてしまった。その後何度掛け直しても繋がる事は無かったし、彼女の方からも連絡は一切来なかった。

 「何だよっ!人騒がせな。知らねーぞ、死んでも」母親らしき人の態度に腹を立てていると
 カタタッ、カタッ、カタタタ…
隣の部屋から物音がする。おそるおそる覗き込むとパソコンのキーボードがカタカタ動いている。
 「えっ?」
真っ暗なモニターには『かかわるな。かかわると、おまえもいっしょにつれて…』と白い文字が次々と打ち込まれていく。
 パソコンの前の椅子に座るとフッと画面から文字が消えた。
 「何の画面だよ?こんなの見た事ないぞ」
マウスを動かし、次々とウインドウを確認するが、当てはまる画面や痕跡はとうとう、見つからなかった。
 「はぁーっ。訳が分からねえー?」と背伸びをした瞬間、両腕、両足、胴体を強い力で押さえつけられた。
 「えっ」
軍服を着た男が三人がかりで、しがみ付く様に押さえつけている。
私の横には日本刀の様な剣を持った男が一人立っていた。

『さいごの、けいこくだ』の言葉が頭に響いた途端に身体は自由になった。

 腹部に痛みが走った。見ると、Tシャツの腹の部分が横一文字に二十センチ位切れていて血が滲んでいる。慌ててTシャツを脱ぎ捨て血を拭き取ると傷口はどこにも無かった。ただ、腹部に鈍い痛みだけが残っていた。

 それ以来、彼女とは音信不通になっていた。


数日後、私は知人の霊能者を伴い、例のバーで飲んでいた。
先日の一連の流れを説明すると、苦笑いをしつつ「因縁話には首を突っ込むなって言っているでしょ。因縁はケリがつくまで続くの。深入りするとアンタも当事者なの、分かる?」

 「でも、放って置けないでしょ…」

「プロでも判断するの!出来ない事は出来ない!甘くないよ、因縁は!」

「彼女は大丈夫かな?どう思う?」

「難しいね。母親もおかしくなっているみたいだし。運がよければ…」



彼女の心配をする自分と今回の話がお蔵入りになる事を悔しがっている自分が其処にいた。



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受信: 00:49, Saturday, Nov 22, 2008

■講評

そんなものなんでしょうかね。分からないけど。

【アイデア】0、【描写力】0、【構成力】0、【恐怖度】0

名前: 尚休 ¦ 16:36, Saturday, Aug 30, 2008 ×


心情とか状況とか、雰囲気的なところは上手く書けているとは思いますが、展開が緩やかで、やはりちょっと長く感じます。
特に序盤はもうちょっと削っても良さそうな気がしました。
中盤以降、主人公の意思があっち行ったりこっち行ったりで、共感し難くかったのもちょっと気になりますね。

【アイデア】 0 【描写力】+1 【構成力】 0 【恐怖度】 0

名前: PM ¦ 20:21, Saturday, Aug 30, 2008 ×


-長所-
・取材によって怪異が語られる形式と前半の硬派な文章が、それらしさを出している。

-短所-
・内容的にはよくあるパターンなので新鮮さが無かった。語られるエピソードが短く、軍服男が謎の女の怪異とどのような関連があるのか、剣以外には全く接点が掴めない段階で話が終わっているので、主人公と登場人物だけが怖がって終わってしまったように見えており、作品の印象としては弱く感じた。「極怖い話」のような書き方を狙うなら、もう少しエピソードを積み重ねないと面白くならないと思う。
・子供の頃から幽霊の類が見える割には、執筆活動の為とはいえ今までの経験に伴ってなさそうな行動が軽率に感じられた。

【アイデア】0、【描写力】0、【構成力】0、【恐怖度】0

名前: 廻転寿司 ¦ 21:10, Saturday, Aug 30, 2008 ×


アイデア +1
描写力 +1
構成力 ±0
恐怖度 ±0

面白かったのだが、なぜに軍人?と思った。この数珠と軍人とおじーちゃんとの関係はやはり説明が欲しい。実際の「怖い話」「体験談」というものはかなり不条理だと思うが、創作においては周到な構成が必要だと思う。

名前: くりちゃん ¦ 23:28, Saturday, Aug 30, 2008 ×


長い割に読み易い作品だったと思います。
作品として言えば、前半の描写の部分をもう少し整理したらもっとスッキリ出来たと思います。怪異の部分については、得体の知れない怖さが出ていて良かったと思うのですが。因縁の怖さについては私も同感です。

【アイデア】+1、【描写力】+1、【構成力】0、【恐怖度】+1

名前: 茶毛 ¦ 00:38, Sunday, Aug 31, 2008 ×


 丁寧に書かれていますね。
 キャラクターの雰囲気が伝わってきます。

 ○○だと思ったら××だったって具合に意表を突かないと読者はなかなか納得してくれないんですよね。
 そういう組立てを考える習慣をつけるとぐっとレベルアップするでしょう。

 ちょっと厳しいと思われるかもしれませんが、このお話は数行の軽い状況説明の後、女性の話を聞く所からはじめないと読み手は飽きてしまいます。
 コンパクトにまとめつつ、会話の中で説明したい部分だけを説明して余分は省き、必要なら構成を組み替えたりする必要があります。
 がんばってみて下さい。

 【アイデア】 0 【描写力】+1 【構成力】 0 【恐怖度】 0

名前: ユージーン ¦ 18:07, Sunday, Aug 31, 2008 ×


書き出しの説明は結構いろいろなところですでに出ている意見に似た文章。
実話風に進めているわりには、知らない女性に話しかけるなど、気になる点もあった。
結局わからないまま終わっているのも少し腑に落ちない。

【アイデア】 -1 【描写力】0 【構成力】 -1 【恐怖度】 0

名前: 華鹿 ¦ 00:41, Monday, Sep 01, 2008 ×


 実話ならこれでも納得出来る要素もあるけれど、創作でこれではただの逃げ。意気込んで大ネタに踏み込もうとしたけれど結局何も有効打を見出せず、ルポ風にまとめてお茶を濁したとしか見て取れない。
 今の話のままでは遺伝元から何一つ発展してすらいないのだから。

 折角相手が食いついてきたのにそこで何一つ先に進めず後日にしてしまうのはこれ以上話が進んでは困るために無理矢理そうしたとしか思えない。
 普通この状況であればどういうことですか、と問い返すものではないだろうか。

名前: ときの ¦ 15:29, Monday, Sep 01, 2008 ×


これに、ものすごいオチがついていたら
最高だったのですが…。
無理だろうな…と途中から気づかせてしまう
ものがあり、残念です。
細かな所に魅せるものがあるものの、
掴もうとすると次の文に移ってしまっていて、
アナタの未来に期待してます!!
と思います…。

名前: ちゅん ¦ 14:28, Friday, Sep 05, 2008 ×


読者が置いてきぼりかな…。冒頭の作家云々の部分もよく
読んだら特に必要なさそうです。仮に実話としても、そして小説
としても、このままの構成では単なる自己満足にすぎません。

【アイデア】−1【描写力】−1 【構成力】 −1 【恐怖度】 0

名前: 蓮 ¦ 11:12, Sunday, Sep 14, 2008 ×


実話じゃないんだから、もっともっと関わればいいのに。命失くすぐらいに関わればいいのに。勿体無い(笑)

発想・−1 文章・−1 構成・0 恐怖・0

名前: 暗沌子 ¦ 02:15, Tuesday, Sep 23, 2008 ×


どんな事になるんだろうというワクワク感が有りました。
尻つぼみに終ったのが残念というか、書き手が自分で制限を付けてしまった感じがします。


【アイデア】0 【描写力】+1 【構成力】0 【恐怖度】+1

名前: 猫塚イスマ ¦ 19:23, Friday, Sep 26, 2008 ×


アイデアー1 描写ー1
幽霊の類が見えるのを秘密にしているのに、自分の体験談を多く書いてきたというのは如何に。だいたい自身が霊感者であるという作家は結構いる。平谷美樹さんとか加門七海さんとか。怪奇作家なら尚更、秘密にしない方がウリになる。
初対面の人に「何か怖い話はありませんか?」と聞いた所で怪訝そうな顔をされてお終いである。とあるが、あまり怖い体験談の集まらない私でも、経験からそのような事はそれほどなかったが。
少し疲れた様な表情と痩せこけた顔立ち、眼の下の隈の酷さを除いたら、何処にでも居る普通のお嬢さんだった。 誰でもそうだと思う。
後半の怪異もいかにもな感じで面白くない。



名前: 戯作三昧 ¦ 09:01, Wednesday, Oct 15, 2008 ×


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