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最期に知った事
 私がエキストラ登録しているタレント事務所から、仕事の連絡が入った。
 今回はミステリー番組の盛り上げ役、所謂サクラなのだという。
 ちょっと面白そうな気がする。
 特に予定もない私は、二つ返事でそれを受ける事にした。

 収録当日。
 スタジオ入りした私が見たものは、家具など一切置かれていない、二十畳程の広さの和室のセットだった。
 スタッフが慌しく撮影準備を行っている。
 エキストラの待機場所へ行くと、スタッフの一人から台本が渡された。
「すんません。とりあえずそれ読んどいてください。後で皆まとめて説明しますんで。」
 スタッフはそれだけ言うと、撮影準備のドタバタへと紛れていった。

 台本を開いてみると、どうやら番組の心霊特集のようで、これから撮影するのはよくある除霊シーンのようだ。
 私は霊能者の助手役、四人いる内の一人として出演するらしい。他の三人も私と同じエキストラのようだ。
 流れを読んでいくと、相談者に降霊するタイミングや途中で起こる異常現象等が細かく記されている。
 そう、完全にヤラセである。
 そうは思っても決して口にしてはいけないのがこの業界の鉄則。
 私は余計な事を考えずに、台本を頭に詰め込む事に専念した。

 簡単なリハーサルが終わり、本番準備に入った。
 霊能者と相談者がセットの中央に座り、四隅を巫女装束姿の私達助手役が座る。
 助手役は皆、私と同じくらいの年齢の女の子だ。同じタレント事務所の所属だとは思うが、知らない顔ばかりだった。
 霊能者は最近ちょくちょくテレビで見る、吉村というオバサンだ。おっとりとした雰囲気で良い人そうなのだが、ヤラセをしていると思うとあまり良い印象ではなくなってしまう。
 相談者となるのは、ここ最近売れ始めてきたグラビアアイドルで、不思議ちゃんキャラの雛森みさとだ。ブリブリしていて私はあまり好きではない。
 私は雛森の右後ろの隅に座っていた。

 撮影が始まる。
 霊能者の吉村と雛森が簡単な挨拶を交わした後、話し始めた。
「なんかァ、これ拾ってから変な事が起きるようになったんですよぅ。」
 少しイラッとする間延びした話し方だ。
「きっとそれが原因ですねぇ。それをお見せ願えますか?」
 おっとりとしたいつもの様子で吉村が言う。
 駆け足展開だが、全て台本通りの流れだ。
 雛森が側に置いてあった私物のバッグから20cm程の大きさのマトリョーシカ人形を取り出すと、吉村の前に置いた。
 これはディレクターの意向で、不自然さを無くすため、本当に雛森が拾ってきた物を使っているらしい。
 …のだが、やはり彼女が不思議ちゃんであるためだろうか。これでは逆に不自然に思える。
 というか、ホントにどこで拾ってきたのだろう…?
 吉村がマトリョーシカの中に入っている小さい人形を次々取り出していく。
 吉村の前には、大きさの異なる6つのマトリョーシカが並べられた。
「このマトリョーシカから奇妙な気配がします。これとあなた、まとめて除霊しますね。」
 
 吉村の合図で、除霊が始まった。
 吉村がお経を読み上げる。
 私達助手役は、それに併せて手に持った鈴をシャンと鳴らすだけである。カメラにもあまり映らないので楽だ。
 雛森は両手を合わせ、正座したまま少し俯き気味の格好をしてじっとしている。
 と、突然、スタジオ内の照明が全て消えた。
 全員が驚き戸惑う。スタッフからもどよめきが起こった。
 …ちょっとタイミングが早い気もするが、これも台本通りである。
 スタッフにより手際よく照明が点け直されると、除霊が再開された。 
「…では、続けます。」
 …吉村の声が、さっきよりも何か凛としている。
 …読み上げられるお経も、なんだかさっきまでとは違う気がする。
 他の助手役達も妙に真剣な表情ではあるのだが、鈴を鳴らそうとしない。
 雛森も両手を膝の上に乗せ、背筋を伸ばしてまっすぐ前を向いている。
 何か様子がおかしい…。
 横目でディレクターを見てみると、彼は難しい顔で首を傾げてはいるがカメラを止める気はないようだった。
 これで良いのかな…?
 と疑問を持ちながら、とりあえず私は周りに合わせ、何もせずに座っていた。

 そのまま5分程経った頃。
 急に吉村が読経を止めてスッと立ち上がると、天井の方に向かって何か細かくて黒い粉を振り撒き始めた。
 パパパパパン!!
 突然、風船が連続して割れるような破裂音が鳴り響いた。
 …これは台本に無い。
 さすがにスタッフ達も顔を見合わせている。
 私も驚きのあまり、ぽかんと口を開いたままでいた。
「はい。これで終了です。」
 吉村の一言で我に返った。
「ありがとうございました。」
 雛森が、今までの彼女のキャラからは想像出来ない程とても丁寧な様子で、吉村に深々と頭を下げた。

「…あ、えっと、はい、オッケーです。」
 スタッフの声が響いた。
 今のなんだったんだろう…? もしかして、ホントに除霊したの…?
 ほとんど台本の内容は無視されてたけど、それは良かったのだろうか…?
 ディレクターはスタッフ達となにやら真剣に話し込んでいる。
 …まあ、兎に角OKは出たんだ。これで終わりだろう。
 と立ち上がろうとしたのだが、吉村や雛森、助手役の三人はまだじっと座ったままだ。
 突然、吉村が私に顔を向けて言った。
「あなた。そう、あなたよ。あなたにも悪いものが入っているわ。」
 え…? 私に?
 予想外の展開に、スタッフも皆びっくりして撤収作業の手を止めている。
「今から払ってあげるから、こっちに来なさい。」
 急にそんな事言われると、なんだか怖くなってしまう。
 それに今の吉村からは、普段のおっとりしたイメージからは考えられない、奇妙な威圧感があった。
 どうして良いか解らずディレクターを見ると、彼は私を見て大きく頷いている。
 除霊を受けろ、という事なのだろう。
 雛森がスッと立ち上がり、席を空ける。
 私は止むを得ず雛森のいた場所に正座し、吉村と向き合った。

 撮影の再開準備を待たずに、吉村がお経を読み上げ始めた。
 さっきのとはまた違うお経…。
 ……お経…なのだろうか?
 何か呪文でも唱えられているような気がする…。
 聞いていてなんだか気分が悪くなってきた…。
 全身から力が抜けていく…。
 視界がぼやけて…だんだん……真っ白に……。
 
 気が付くと、私はこの部屋を見下ろしていた。
 セットの畳から2m程の高さに浮かんでいるようだ。
 下には私が倒れこんだ体勢のまま、ぐったりと横たわっているのが見える。
 …これは…幽体離脱!?
 吉村はお経を唱え続けており、スタッフが私を介抱する様子もない。
 どうやら、事の一環として見ているようだ。
 体に戻らなければと思っても、何かに押さえ付けられているかのようにここから動く事が出来ない。
 どうしよう、どうしよう…。
 と焦っていると、ふと、吉村の前に置かれた6つのマトリョーシカが目に入った。
 雛森が拾ってきた物だ。
 この内の一番小さいマトリョーシカから、何かもやもやとした黒い煙のようなものが出て来ている。
 そしてその黒い煙は、下で横たわる私の口へと流れ込んでいた。
 何…あれ…?
 と見ていると、突然、私の体がムクリと起き上がった。
 …え? なんで? 私はここにいるのに…?
「…大丈夫ですか?」
 読経を止めた吉村が私の体に言う。
「はい、大丈夫です。」
 私の体はその場に正座すると、吉村に頭を下げた。
 待って! それは私じゃない!! あなたは誰なの!?
 吉村が私を見上げる。
「そう、良かった。まさか、ここまでしないと出ていかない魂があるなんてね。」
「ええ、ホントに。でもちゃんと追い出せて良かったです。」
 私の体が、宙に浮かぶ私を見上げてニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる。
 見ると、雛森と他の助手役三人も、同じような笑みを浮かべながら私を見ていた。
 やめて、ねぇ、お願い、助けて!! お願い!!
 吉村が右の手の平を上にしてゆっくりと立ち上がる。
 その手には、なにやら黒い粉が乗っていた。
 …いや、乗っているというより、手の平からふつふつと湧き出ているように見える。
「さあ、後の人生は私達“鬼”に任せてくれればいいから。」
 吉村はそう呟くと、黒い粉を私に向かってぶっ掛けた。

 魂の消える瞬間が、風船のように破裂するものであるという事を初めて知った。



14:17, Saturday, Aug 30, 2008 ¦ 固定リンク ¦ 講評(12) ¦ 講評を書く ¦ トラックバック(5) ¦ 携帯


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 ヤラセがヤラセじゃなかったという展開ですか。 >魂の消える瞬間が、風船のように破裂するものであるという事を初めて知った。 は面�... ... 続きを読む

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発想は面白い。曰わくありげなマトリョーシカを持って来たのは良かったが、中に潜んでいたモノを「鬼」と断定してしまったのは失敗だろう。得体の知れぬ何かが潜んでいると思わせて、それが何であるかは読者の想像に任せた方が良かったように思う。丁寧に纏めているが、 .. ... 続きを読む

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心霊番組の胡散臭さを逆手にとったアイデアが良い。しかし最後に「鬼」と明記してしまったので、逆に怪しさが消えてあっさりした印象になってしまったのが残念。この筋ではマトリョーシカは、霊能者があの場に出さないといけないのでは?霊能者が使う除霊道具などを小道 .. ... 続きを読む

受信: 12:26, Sunday, Nov 23, 2008

■講評

あら〜、そうなりましたか。
でもね、設定自体が間違ってるように思ってしまって。エキストラは演技しないんじゃ・・・。鬼も・・・。

【アイデア】+1、【描写力】0、【構成力】-1、【恐怖度】0

名前: 尚休 ¦ 16:44, Saturday, Aug 30, 2008 ×


なるほど、という感じですね。
鬼の、マトリョーシカに潜んでいた理由や、体を乗っ取ってどうするつもりなのか等、この辺が語られていると尚良かった気がしますが、それはそれで返ってくどくなるような気もしますね。うーむ…。
まあ、筋も通ってて、なかなか面白かったかと思います。

【アイデア】+1 【描写力】+1 【構成力】 0 【恐怖度】 0

名前: PM ¦ 20:30, Saturday, Aug 30, 2008 ×


-長所-
・やらせ番組でグラビアアイドルにマトリョーシカ人形という小道具の出し方が怪しげで良い。
・吉村の一連の行動の理由が、目的を持ったものか無差別的なのか判然としないところが嫌な感じを出している。

-短所-
・吉村の一連の行動の理由が判然としないところは不可解さが出ていて良いのだが、終盤近くまでの丁寧な展開に対してラストは一気に急加速して終わってしまうために登場人物のセリフから次々と状況が語られ、その説明が逆に作品の面白さを打ち消しているように感じた。

【アイデア】0、【描写力】0、【構成力】0、【恐怖度】0

名前: 廻転寿司 ¦ 21:42, Saturday, Aug 30, 2008 ×


アイデア +1
描写力 +1
構成力 +1
恐怖度 +1

じゃあ、6体のマトリョーシカの中の「鬼」と4人のエキストラ+雛森+霊能者が入れ替わった(入れ替わりつつある)ということ!?
これは怖いなあ!

名前: くりちゃん ¦ 23:42, Saturday, Aug 30, 2008 ×


なかなか舞台設定など細かく書かれていて、良かったと思います。ただどうしてもマトリョ−シカが世界観から浮いてしまっている印象を受けました。別なアイテムを使った方が不気味な印象をより一層際立たせたように思います。最後の一文が途中でも布石を置かれているのは解るのですが、主人公は魂になっている状態なので第三者的な視点から書かれているのはちょっと違和感を感じました。

【アイデア】+1、【描写力】0、【構成力】+1、【恐怖度】0

名前: 茶毛 ¦ 00:46, Sunday, Aug 31, 2008 ×


 なかなか良く考えてありますね。
 偽物と思ったら本物で終わらずにもうひとつ用意してある。
 この辺は言うのは簡単ですが考えるのは大変。

 展開で言うと序盤の状況説明が単に状況説明で終わってるのが実におしい。そこにもう一つの役割を持たせると良くなります。
 ラストに鬼が出てくる訳ですが、これを暗示させるものを先頭に置いておくと「なるほど」と感心させられる訳です。

 人が鬼に入れ代わってるせいで起きてるらしい事を上手く暗示的に配置できれば最高ですが、吉村の出る番組はアドリブが多くて大変だとADがグチってるくらいは置いておきたいですね。

 細かい点ですが、マトリョーシカが魔のアイテムなら、それを持ってくるのは吉村でなければならないはず。
 ここはキーポイントなので神経を使わなければいけないし、お話をおもしろくできるおいしいポイントなんですよね。
 たとえば持ってきた人が吉村ではなんだけど、鬼の一員なら話が通る。
 あるいは雛森が持ってきたアイテムが本番でこっそりすり替えられていて不審に思うなんてフリがあると効果的だと思いますね。本番続行中で誰もそれを指摘できないまま進む。

 全体としてはキチンとアイディアが考えてありますので、その辺の細かい組立てを考えるとさらに一段と良くなると思います。

【アイデア】+1 【描写力】+1 【構成力】+1 【恐怖度】 0


名前: ユージーン ¦ 18:36, Sunday, Aug 31, 2008 ×


なるほど。
最後で納得できて面白かったです。
自分で鬼ですと言ってしまうのはどうかと思うが、?で終わるよりはこの書き方でがよかったと思います。

【アイデア】+1 【描写力】+1 【構成力】 0 【恐怖度】 0

名前: 華鹿 ¦ 19:31, Monday, Sep 01, 2008 ×


アイデア ±0
描写力 ±0
構成力 −1
恐怖度  0

遺伝元が分からないのですが、この女の子は何か特別な
存在という設定なのでしょうか。この作品単体で評価すると
なると仕掛けがあまりにも大掛かりで、何度か読むとどうしても
その部分が引っかかってしまいます。

名前: 蓮 ¦ 22:12, Thursday, Sep 04, 2008 ×


全体的に上品な文章の、
最後にぶっかけたはないでしょうよ、
とおもっちゃいました。
これがもっと前半の方なら気にならなかったの
かも知れませんが、ラストにあるので
すごく気になる…。
上品な文章と、纏められたキチンと感に
好感が持てるだけに最後での痛恨の
「イタタ」だった気がします。

名前: ちゅん ¦ 14:36, Friday, Sep 05, 2008 ×


鬼、の一言が惜しい。イメージが限定されてしまう。 そこまでの展開が意外であり、他に類の無い発想であっただけに、鬼と限定しない方が良かった。

発想・1 文章・−1 構成・0 恐怖・0

名前: 暗沌子 ¦ 02:19, Tuesday, Sep 23, 2008 ×


予想外の展開に驚きました。面白いです。


【アイデア】+1 【描写力】0 【構成力】+1 【恐怖度】+1

名前: 猫塚イスマ ¦ 19:32, Friday, Sep 26, 2008 ×



アイデアは面白いと思うが、やはり鬼としてしまったのはもったいない。
マトリョーシカが出てきてから除霊に移るまでの展開もいきなりすぎる。
やらせとはいえ、どういう霊がいてこれこれこうだから、という一応の流れは踏んでおくべき。

名前: 戯作三昧 ¦ 09:37, Thursday, Oct 16, 2008 ×


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