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放っておけないよ
 幼馴染みの祐司が死んだ。
近所の橋から飛び降りたらしく、その場所には靴が揃えられていた。

橋から下流へ十五メートル程下った辺りで祐司の遺体は発見された。
祐司の遺体からは睡眠薬の成分が検出され、入手経路などは不明のままだったが、本人が自殺の為に飲んだものと判断され、警察は自殺と断定した。

祐司の両親は「自殺では無い。誰かに殺されたんだ」と再捜査をお願いしたが聞き入れて貰えなかったようだ。


俺と祐司はそれぞれ別の高校に進学した為、最近はたまに擦れ違うぐらいで、会話をゆっくりと交わす事も無かった。正直、ショックだった。アイツがそこまで悩んでいたのを俺は何一つ気付いてやれず、相談に乗ってやる事も出来なかった。そんな自分に腹が立った。 

 祐司の葬儀に参列したが最後の顔は(酷くなっているから)との理由で見る事も出来なかった。心から祐司の冥福を祈った。
俺は立ち会えなかったが、出棺、火葬とどんどんと流れ作業の様に進んで行った。

後日、手伝いとして同行した俺の母親から聞いた話だが、骨上げの時に事件が起きたらしい。
火葬され骨だけになった祐司を親族が足の方から順番に拾っていった。最後に頭骸骨を祐司の両親が拾い上げようとした時、祐司の母さんが悲鳴を上げた。
親族全員が見た物は頭蓋骨の一部に刻まれた『オレハコロサレタ。ハンニンハ、ト』という文字だった。続きの文字は灰になっている辺りで読み取ることが不可能だったそうだ。
火葬場は騒然となった。
係員の指示でなんとか骨上げは終える事が出来た。しかし、近所から手伝いの人が大勢同行していた事もあり、その噂が広まるのに時間はかからなかった。

祐司の母さんも再度警察に話をしたが、殺人事件としては認めて貰えなかった様だ。気のせい、たまたまそう見えただけと言われたらしい。悔しがっている祐司の母さんの姿を見て何か出来ないかと考え始めた。

『ハンニンハ、ト』
頭にトが付く奴が犯人だ。

中学時代、祐司とよく喧嘩をしていた飛岡。いや、飛岡は県外の全寮制の高校に行っている。アリバイだって当然あるだろう。

となるとやはり、祐司の高校に犯人がいるはずだ。
そこで、名案が浮かんだ。入学時の生徒の名簿だ。祐司の家にもあるはずだ。明日、祐司の家に行って事情を説明して見せて貰おう。祐司の母さんもきっと喜んでくれるはずだ。

 その夜、寝ている俺の枕元に祐司が立っていた。
身体は金縛りで動けない。祐司が悲しそうな顔をしている。
(まかせろ。明日にでもお前を殺した犯人を特定してやる。仇はきっと取る)
祐司はパクパクと口を動かしていたが何を言っているのかは聞き取れなかった。
そのうち、スーッと消えてしまった。


 翌朝、祐司の母さんに連絡し、名簿を探しておいてもらう様にお願いをした。
下校時に真っ直ぐ寄ると約束をして。

放課後、祐司の家を訪れた。
白布をかけられた小机の上には、祐司の遺影、位牌、骨箱、お花が飾られていた。
お線香をあげて手を合わせる。(お前の力も貸してくれ…)

早速、名簿からトの付く人を探していく。

…居ない。

何故だ。名字も名前もどちらも当てはまらない。
トの付く奴なんて、多いと思っていた。簡単に見つかると思っていた。
絞り込みに時間がかかるとさえ思っていた。
あだ名?そんなまわりくどい事をするだろうか?

俺の浅知恵は簡単に行き詰まった。


「ありがとう。祐司の為に。色々としてくれて」
祐司の母さんの言葉に恥ずかしくなった。何を探偵気取りで得意そうにしていたのだろう。

「すみません。結局分かりませんでした。でも、信じて貰えないかも知れませんが昨夜、祐司が枕元に立ったんです。何か言ってたんですけど、よく分からなくて…。でも、今度出てくれたら分かるかも知れません。次は頑張ります」

「そう、祐司が出てくれたの…。あっ、そうそうコーヒー入れたの。冷めないうちに飲んじゃって」

「いただきます」
コーヒーを飲み終えた俺の視界がグニャリと曲がる。
(あれ?ねむい?)


「次は無いから頑張らなくていいんだよ。祐司も余計な事をして…。」
隣の部屋から祐司の父さんが出て来た。

(えっ?なにが?)

「保険金の他に犯罪被害者給付金を貰うまでは頑張らないとな」

(トってとうさんのことか…)

「そうねぇ、この子に犯人になって貰ったら親御さんから慰謝料も取れるんじゃないの?丁度、トの文字も付くし。ねえ、徹君」


薄れていく意識の中で、俺を庇おうと立ちはだかる祐司の姿が見えたような気がした。


 目が覚めると仰向けに倒れている祐司の両親がいた。
口からは小さな泡と何かを吐いた様な跡が顔の周りに見られた。
死んでいた。

足元には紙が一枚落ちていた。
『私達が息子を殺しました。責任を取り、薬物を飲んで自殺します』
パソコンで作成された文章だった。
その瞬間、
ガガーッ、ガーッ、ガーッ…

隣の部屋からプリンターの作動する音が聞こえた。
部屋に入ると、無人の部屋で確かにプリンターが動いていた。

プリントされた紙には
『迷惑かけたな。家の親は俺が連れて行く。怖がらせてゴメン。ただ、何でも首を突っ込むな。見てるこっちがヒヤヒヤする。じゃあな、元気で』と書かれていた。


小さい頃から俺の無茶な行動を見ては困った顔をして、いつも尻拭いしてくれていた祐司の顔が思い浮かんだ。

プリントされた紙を抱きしめて、その場で暫らく泣き続けた。




15:49, Wednesday, Sep 03, 2008 ¦ 固定リンク ¦ 講評(12) ¦ 講評を書く ¦ トラックバック(5) ¦ 携帯


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両親からそんな仕打ちを受けてしまった祐司がなんとも切ない。それにしても頭蓋骨にダイイングメッセージって素敵過ぎる。「チチ」ではなく、「トウサン」というところも苦笑。「俺」が乗り込まなくても、祐司は両親を連れて行くつもりだったのだろうか。最.... ... 続きを読む

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受信: 19:33, Thursday, Sep 25, 2008

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遺伝元の設定が非常に上手く生かされている。きちんと盛り上がり、オチもきれいにまとまっているが。何というか、もっとブラックでどろどろしている描写が欲しかった。親が金目当てで…という辺りが説明だけになってしまっているので、祐司の幽霊と両親の絡め方を更に目 .. ... 続きを読む

受信: 15:00, Saturday, Nov 29, 2008

■講評

アイデア +1
描写力 +1
構成力 ±0
恐怖度 ±0

なかなか面白かった。こういう世の中だから家族の保険金が欲しくて、という設定には頷ける。
が、頭蓋骨に文字が現れて…というところは苦しいと思う。しかも前半の文字はきちんと読めて謎解きの部分だけは読めないというのも出来すぎ感がある。




名前: くりちゃん ¦ 19:59, Wednesday, Sep 03, 2008 ×


 主人公が死ぬと思わせて両親が死ぬという展開はいいですね。
 ベタではありますが、こういう風に展開を練る習慣をつけないと力が付きませんから。

 最後に被害者の両親が死ぬ訳ですが、ここに何かもうひとつ、読者の胸に迫るようなアイディアが欲しかったですね。
 事前にそれを暗示させるようなネタフリがあるとなお良かったでしょう。

【アイデア】 0 【描写力】+1 【構成力】+1 【恐怖度】 0

名前: ユージーン ¦ 20:33, Wednesday, Sep 03, 2008 ×


あら、ちょっと良い話。
もう少し謎解きの部分があるかなーと期待したのですが、真犯人に辿り着くまでが短すぎて、ちょっと物足りない感があります。
もうちょっとだけ寄り道させつつ、オチへの伏線を脹れれば、もっと良くなったんじゃないかなぁとは思います。

【アイデア】+1 【描写力】+1 【構成力】 0 【恐怖度】 0

名前: PM ¦ 20:40, Wednesday, Sep 03, 2008 ×


-長所-
・ミステリー風の展開にダイイングメッセージを持ち込み、謎解きの面白さはある。

-短所-
・中盤以降の展開が荒っぽく、書き急いだ印象を受ける。結局の所は「俺」が全て謎を解決しておらず、祐司の両親がばらしたり、俺のピンチを祐司が救ったりと、他力本願的に事件が片付いてしまったのが良くないのではと思う。
ミステリー仕掛けの作品で面白くなる要素もあり、そこへ挑んだところは良いと思うのだが、謎の作り込みも深いとは言えず、扱い慣れているテーマでじっくりと書いた方がいいような気もする。

【アイデア】0、【描写力】0、【構成力】-1、【恐怖度】0

名前: 廻転寿司 ¦ 23:39, Wednesday, Sep 03, 2008 ×


頭蓋骨のダイイングメッセージ。だめですよ、最後までしっかり書かなきゃ。
作品としては、名探偵気取りの主人公の不甲斐無さに苦笑。文章は読み易く書かれていたと思います。ラストのくだりもちょっぴり感動ものという事で、なかなか面白かったと思います。内部書き込みシリーズ〈キャベツ、焼肉など〉として今後また増えるんでしょうか?

【アイデア】+1、【描写力】+1、【構成力】0、【恐怖度】0

名前: 茶毛 ¦ 01:11, Thursday, Sep 04, 2008 ×


う〜ん、良い話で読み易くもあるんですが・・・。も少し書き込んでも良かったのではないかと。

【アイデア】+1、【描写力】0、【構成力】-1、【恐怖度】0

名前: 尚休 ¦ 16:35, Friday, Sep 05, 2008 ×


もうちょっとゆっくり、じっくり読ませていただきたかったです。
面白かったですし、徹君が危なくならなければ
出てこなかったのかも…っていうくらい、
両親への攻め方が薄いのも、
悲しさが出てて良かったです。
そこの葛藤とか、もちょっと書いていただけたら
最高でした。
構成と、雰囲気に一点づつ。

名前: ちゅん ¦ 22:42, Tuesday, Sep 09, 2008 ×


『ハンニンハ、ト』というのは都合がよすぎるというか、工夫がない。
推理するところも少し中途半端な気がする。
もう少しな印象。

【アイデア】+1、【描写力】0、【構成力】0、【恐怖度】0

名前: 華鹿 ¦ 13:20, Wednesday, Sep 10, 2008 ×


ダイイングメッセージ特有の詰めの甘さが混乱を、という展開はよくありますが、頭蓋骨から出てきたものを逆手に取ろうとした両親のしたたかさがいい。ま、子殺しって意外とすぐバレちゃうんで徹くんは殺され損にならなくてよかったです。ただ、気を失っている間に全てが終わっていたというのはちょっとなと思った。

【アイデア】1【描写力】0【構成力】0【恐怖度】0

名前: 蓮 ¦ 15:37, Monday, Sep 22, 2008 ×


もう少し長い文章で読みたいぐらいの作品です。
頭蓋骨にダイイング・メッセージという発想が何よりも素敵。

発想・1 文章・1 構成・0 恐怖・0

名前: 暗沌子 ¦ 00:54, Thursday, Sep 25, 2008 ×


凄いところにダイイングメッセージが!

お話が更に二転三転すると良かったかと思います。


【アイデア】+1 【描写力】+1 【構成力】0 【恐怖度】0

名前: 猫塚イスマ ¦ 02:41, Saturday, Sep 27, 2008 ×



良心が犯人だったというのは意外だったが、この結末では当然、徹は警察から疑いをかけられることは間違いないが、そもそも最初から警察の捜査も両親の犯罪計画も破たんしている。
まず入水自殺なら薬を飲む必要性が無いので、当然他殺の可能性も考慮に入れて捜査される。
市販の薬では大量に飲まなければ死には至らないので、死に切れず飛び込んだとも考えられるが、祐司の遺体から睡眠薬の成分が検出されているという事は当然、変死として司法解剖されており、薬が市販のものかそうでないかは見当が付いているだろう。
市販のものであれば、大量の睡眠薬を買おうとした時点でかなり不審に思われる筈で、売って貰えないか、店員もかなりの確率で覚えているだろうし、入手が難しい薬物であればなおさら、職業などからも犯人が捜査線上に浮かんで来る筈である。
両親の殺害方法の安直さや、データの豊富さからすると捜査に行き詰まる筈もなく、警察が見抜けなかったとは思えない。
そのあたりを気を付けて展開を考えると、もっと濃い内容になったのではないだろうか。

名前: 戯作三昧 ¦ 19:40, Friday, Oct 17, 2008 ×


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